流れ星みつけた
「今日は天気予報で『流れ星が見れるかも』って言っていたのに…」
彼女がカーテンを開け覗いた窓の先では季節外れの大雨で本来なら藍色の綺麗な夜空が広がるはずだった空が地上から放たれる光と空気を吸い、濁った雲に辺り一面埋め尽くされており幾筋もの雨の跡がまるで少女の内心を写し取ったかのように伝っていく。
「流れ星見れないのかな…」
少女の落胆した顔を見た祖母は彼女に一言呟いた。
「明日じゃぁ駄目なのかい?」
「ダメだよ。」
―だって今日が流れ星が見れる最後の日だって天気予報で言ってたもん
思い出せば出すほど如何に“今日のこの日”を楽しみにしていたのかが心一面を埋めつくし、視線がどんどん下へと下がっていくのが自分でも手に取るように分かった。
「流れ星は見れないけど、」
ふと、彼女の落ち込みように見かねた祖母が言葉をかけた。
「良い物を見せてあげる。電気を消してごらん。」
流れ星が見たかった彼女は
―流れ星より見たかった物なんてないのに
と心ここに在らずといった調子ではあったが仕方なく電気を消した。
「ほれ、窓を見てごらん。綺麗だろう?」
「綺麗って…何が?」
窓の先を見てもそこに広がっていたのは相変わらずの雨模様だった。なんだか狐につままれたような気がして困った顔をしていたら、
「空じゃないよ。『窓ガラス』をみてごらん。」
「これって…あっ!」
そうして祖母が指さした窓ガラスには外の光を吸い込んで虹色の光を放つ雨粒がシュッシュッと下に向かって幾重にも流れ、まるで近くで見た“流れ星”のようにキラキラと輝いていた。
「すごく綺麗…」
「そうだろう。これは雨が降った日にしか見れない特別な『流れ星』なんだ。綺麗だろう?」
「うん!流れ星綺麗だった。」
「流れ星はね、いつだって光ってるのよ。『見つかってない』だけで。だから私たちが『見つけてあげる』の。そうすれば流れ星も喜んで向こうから出て来てくれるのよ。」
祖母はそう言い微笑んだ。
あれから何十年も経ち何度目かのふたご座流星群を撮るために構えたカメラの向こうでは、今でもあの時の“流れ星”の煌めきが私にこう呼びかける。
「私を見つけて」
「僕を見つけて」
だから私もこう答える。
「流れ星みつけた!」