表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

仲良しこよしの幼なじみコンビ

美味しそうなホットサンドを前に静はそわそわと落ち着かない様子だ。

きょろきょろと周囲を見回し、誰も自分を見ていない事を確認するとそっとホットサンドへ手を伸ばし……。

「駄目ですよ」

もう少しで手が届く、そこへ現れた紫音がホットサンドの乗った皿を取り上げてトレイの上に置いた。

「ああ!紫音ひでぇ!」

獲物を奪われた静が悲痛な声を上げたが紫音は気にする素振りもみせずにさっさとホットサンドを注文した客のテーブルに運んでしまった。

客の女性は困った様に苦笑して「一個くらいなら大丈夫ですよ」と言ったがすかさず紫音は首を横に振ってその申し出を断った。

「いえ、此処で甘やかすと癖になるので……静さんの為にも心を鬼にして下さい」

ご協力お願いしますと告げられ、女性は確かにそれもそうだなと納得したのかそれでも静に申し訳無さそうにウィンクしてみせてからホットサンドに手をつけた。

他の客も慣れているのか気にする者はあまりおらず、何人かの静のファンの女性が微笑ましそうに見守っているくらいだった。

「残念でした、静」

「雛津~」

くすくす笑いながら雛津が出来上がったパンケーキを司の持つトレイに乗せてから静の頭をくしゃりと撫でた。

雛津と静は幼なじみと言うこともあってか、こういった親しげなやり取りがよく見られる。

そんな様子を見たいが為に此処へ訪れる女性客も多く、今もまさにそのやり取りを見て感極まった様子の女性客が口元を押さえて小刻みに震えながらまるで推しに貢ぐかのように紫音に追加の注文を頼んだ。

「相変わらずお二人は仲がよろしいですね」

「んぁ?だって雛津だし」

「そうだね、静だから」

にこにこと笑い合いながらいぇーいとハイタッチをする二人に背後で先ほどの女性ファンが悶えるような声が上がった。

軽率にファンを殺すなと思いつつ、紫音は追加注文の内容を伝える。

それを受けて雛津がキッチンに戻ったが静はやる気が出ないのかキッチンカウンターにしがみつくようにしてだらだらと怠けている。

「静さん」

「なーに紫音……」

このままではキッチンを雛津一人に任せる事になってしまうなと思った紫音は先ほど常連客の老婦人から頂いたキャンディをポケットから取り出し、包みを開いて静の口の中へ放り込んだ。

「んぐ?」

「それ食べて我慢して下さい」

もごもごと口を動かして味を確かめ、それが好きな味だと察した静はにんまり笑って元気よく立ち上がって見せた。

これで少しはやる気が出たかと紫音が安堵していると、静はご機嫌な様子で笑顔を浮かべながら紫音の頭をぽんぽんと雛津がするように撫でた。

「さんきゅっ、やる気出たぞー!」

そう言ってキッチンに戻る静。

これはあのファンの女性からしたら妬みの元になるのではと紫音が慌てて女性の方へ視線を向けると、彼女はそれよりも静の満面の笑顔にやられたのか無言でテーブルに突っ伏して震えていた。

他の静ファンの女性も同じく笑顔にやられたらしい、全員が悶えているのが視認出来た。

「……恐るべし無邪気」

ぼそりと紫音が呟くと司がやって来て悶え苦しむ女性客たちに視線を向けながら呆れた様子で肩をすくめた。

「相変わらずやばいな、静の女たち」

「その言い方だと静さんが女たらしみたいなので止めてくれます?」

「悪かった、足を踏もうとすんじゃねえ」

紫音がさっと出した足を回避して司はトレイで肩を叩きながら客席を見回した。

「人気者は大変だな」

「それ貴方が言います?」

この店の店員は自分以外人気だろうと紫音が言うと司は驚いた様に目を丸くした。

「は?」

「……何ですか」

「……お前、鈍過ぎだろ」

司からすれば紫音もまた男性客に人気が高かった。

何せ彼女が働き始めてからというものの男性客の割合が一気に増えたからだ。

それまで常連の女性客が多かった為、店のルールを知らない新規の男性客による盗撮やセクハラも増えたくらいだ。

紫音は黙っていれば人形の様に顔立ちが整っているし制服の効果もあって可憐な印象を与える。

例え中身が捻れて歪んで強かで慇懃無礼でも、だ。

「何か失礼な事考えているでしょう」

すかさずそう突っ込まれた司はしらばっくれるように視線を紫音から逸らしてタイミング良くカウンターから顔覗かせた雛津が差し出した出来立てのオムライスをトレイに乗せてさっさと配膳に向かって行った。

「……」

司が何を言いたかったのか理解出来なかったがまあいいかと紫音は新しく出来上がった料理を静から受け取って配膳に向かった。



「皆お疲れ様ぁー!」

そして閉店後、作業を終えた幸彦が賄いのポテトをつまみながら静に声をかけた。

「静偉いじゃない、今日あんまりつまみ食いしなかったわね!」

「だろー?俺だってやれば出来るんだ!」

えっへんと胸を張ってみせる静に、司が呆れた様子で指を突きつけた。

「あのなあ、こいつから飴貰ったからだろうが」

「そうそう、紫音のおかげでもある」

「……今度から飴を常備しておきましょうかね」

「紫音があーんしてくれるなら飴で我慢する!」

とんでもない事を宣言した静に思わず紫音は返答に困って硬直していると、雛津が窘めるように静の頭を撫でた。

「駄目だよ静、紫音ちゃんが困るだろ?」

「えー……んじゃたまにしてくれたら我慢する……」

あからさまに落ち込んだ様子の静を見て紫音はため息をついて小さく頷いた。

「……週に一回だけですよ」

「えー!少なすぎ!」

喚く静に、司が騒ぐなと言って頭を軽く叩いた。

またしても余計な火種を作ってしまった気がすると紫音は再度深く深くため息をついたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ