第2話
暗い子だ。
それが彼女の第一印象。その日は入学式しかなかったのに、人と関わるのが苦手なんだと直感的に分かった。
だからサッカー部にマネージャーとして入部すると知ったとき、心底驚いた。
何部に入るとしても、多少は驚いたと思う。部活をするイメージが湧かなかったから。それなのにスポーツの部活で、マネージャー。
案の定と言うべきなんだろう。彼女はゴールデンウィークが明けても、馴染めていなかった。
放っておくことのできなかった俺は、しつこく話しかけることにした。
最初はつっけんどんな態度で拒否られ続ける。でもある日を境に、少しずつ態度が柔らかくなっていった。
その理由は進級した今でも分からない。サッカー部のマネージャーになった理由の方は、少し仲良くなると聞けた。
まずは隣の席の子に話しかける。もしある程度でも話しが弾んだら、部活の見学に誘う。
これが友達を作るために考えた、作戦だと言った。
作戦は成功。そして言われるがまま、サッカー部へと行く。個人的に勧誘された彼女は断ることができずに入部。
隣の席の子は結局、違う部に入部。他の友達と楽しく学校生活を送っている。
彼女なりに努力した結果であることが、俺には尚更悲しかった。
そして自分が盛大な勘違いをしていたのだと知った。
彼女は、友達を作ろうとしていた。それなのに孤高と孤独を履き違えているのだと、勝手に思っていた。
不器用な子だ。
ものすごく安直だけど、本当にそう思った。俺が彼女を好きなんだとしたら、そうなったのは確実にこのときだろう。
当時はそんなことにも気付いていなくて、ただ一緒にいた。
「あれ、一緒じゃないの?」
主語なんてなくても分かる。よく飽きないな、と呆れる一方で、少し嬉しく思う自分もいる。
みんながはやし立てるからそう思い込んでいるのか、本当にそうなのか。俺には自分の気持ちが分からない。
でも確かに抱いている気持ちもある。
いつか、でもできるだけ早く、彼女のことを理解したい。それで、俺がいるから独りじゃないって自信を持って言いたい。
そう思ったのは、彼女が恋心を向ける相手がいると気付いたとき。
少しして自分の気持ちにも気付いた。それがこんな中途半端なものだから、どうしていいのか分からない。
思い切って彼に相談してみたけど、困った顔をさせてしまっただけだった。
「いつもいつも一緒なわけないだろ」
「それもそうだね。それより数学で小テストあるよ」
範囲まで教えてもらったお礼を言って、教室へ戻る。
俺の顔を見た瞬間、彼女と話している部員が散り散りになった。やっぱり俺は部員に嫌われているらしい。
態度があからさま過ぎてなにも言えない。そんな心情を察しているのか、二人も触れないでいてくれる。
数学の小テストのことを教えると、当然のように教科書類が机に出された。
彼女がする表情で、気になっているものがある。今もしている、悲しそうな寂しそうな、そんな表情だ。
今に限らず、そんな場面じゃない。だから理由が分からない。
これを彼に聞いても、また困った顔をさせるだけな気がして聞けない。じゃあ誰に相談する? 答えはない。思い浮かばなかった。
俺には相談をするような友達が、二人以外にはいない。
このモヤモヤを抱えたまま、俺たちは再度進級した。この学校で過ごす、最後の年が始まった。
進学先を真剣に考えなくてはいけないと、頭では分かっている。でもどうしてか将来のことを考える気になれず、部活に逃げていた。
だけど部活仲間の話題も、身近な将来のことばかり。一番聞く単語は、スポーツ推薦。強豪校にスカウトされた部員もいるらしい。
二人との日常は変わらない。
同じクラス。部活が終わると教室で待つ彼を迎えに行って、三人で帰る。なにより二人は、進学先の話をしない。
今までよりも、三人でいるのが心地よかった。でもそれが変わる日は、唐突に訪れる。
「イマジナリーフレンドって知ってる?」
「確か、架空の友達だろ。それがなんだよ」
大切な話がある。そう呼び出されて、昼練を休んだ。それなのにこんな訳の分からない話。
不満に思っているのに、この場を立ち去ることができない。
「ずっと不思議だったんだ。二人で使う三脚の椅子。噂でしか聞かない、三人目のマネージャー。香坂くんと一緒のときにしか見かけない友達。
サッカー部に彼のことを聞いてみたら、知らないって。香坂くんはいつもマネージャーと二人だって。
それから僕も含めて誰も、マネージャーや彼の名前を知らないんだ。
香坂くんの場合、他者も認識してるからイマジナリーフレンドとは違うかもだけど。害があるわけじゃなさそうだし、そういう感じのかなってだけ。
イマジナリーフレンドが駄目だと思ってるわけじゃない。だけど受験から逃げて得られるものなんてない。僕が聞くから――」
友達の言葉をなんとなく聞きながら、学校生活を振り返る。
ほとんどの場面に二人がいる。俺の空想だなんて、なにを馬鹿な。そう思う。でも本当は、分かっていた気もする。
そしてこの状況がおかしいことにも気付く。
「普通に仲の良い、ぐらいの友達が急にこんな風にしてくるなんておかしい」
このままじゃ駄目だ。そう分かっていた。思っていた。だからこうして話をしてきたんだ。それなら彼のことを認識できていたことにも説明がつく。
そうするとサッカー部とファンクラブ、将棋部は全員が対象になる。でもよく考えたら、話すような人は必ずどちらかを認識しているような気がする。
だったらこの学校に――
俺のイマジナリーフレンドじゃない人物は、どれぐらいいるんだろう。




