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彼と彼女の関係はいつまでも三角  作者: ゆうま
18[好きな作家]
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第2話

 彼が引っ越したマンションの一室は、事故物件だ。この部屋で、男性が浮気相手に殺されている。

 事件発生当時は自殺として処理されたのだが、数年後に殺人事件であったことやその犯人が明らかになる。他県で起こった事件がきっかけだった。

 だが彼にとってそれよりも重要なのは、破格の家賃。そこに惹かれてこの部屋に決めたのは、昨日のことだ。


 越したその夜、事故物件だと知らない友人が訪れた。引っ越し祝いだと茶化しているが、彼を心配してのことだと、彼には分かる。

 なにせ彼は昨日、寮生活が嫌になった、とだけ言って泊まる当てもないまま寮を飛び出したのだ。


 友人は座る直前で見つけた、開けただけの段ボール箱へ向かって歩く。新品同然の教科書が入っている段ボールだ。

 呆れながらも叱ってくれる。それが彼が知っている友人であり、友人が自分で決めた自身の在り方や生き方だと思っている。だが今回は違っていた。

 なにがあっても怒らないでほしい、とは予め言っておいた。けれどそのためではない。そんな友人ではないのだ。


 やはり友人は、彼に似つかわしくない小説を手に取った。それから彼に視線を移して、仕草でその小説について問う。彼は、忘れ物、と簡単に答えた。

 もちろん疑問には思った。

 だが、深く追求してはいけない気がしていた。この部屋が事故物件だから、という理由だけではない。


 事故物件ではなくとも管理者か、管理者から依頼された業者によって清掃がされる。そんなイメージが、彼にはあった。

 そこまではしないとしても、忘れ物の確認ぐらいはするだろう。少なくとも新しい入居者が決まった時点で、最低限の確認はするものだろう。

 だから部屋のど真ん中に忘れ物など、普通ではあり得ないはずなのだ。


 この部屋で殺された男は発見されて早々に、自殺だと決め付けられた。そのためろくな捜査がされず、当時は明らかになっていなかったことがある。

 部屋からは、男が好きな作家の小説だけがなくなっていた。それらを持ち去っていたのは、浮気相手であり犯人である女。

 この部屋にあった忘れ物も、その作家の小説だ。


 友人は小説を置くと、そんなことだろうと思った、とだけ言った。そして座って缶ジュースのプルタブを起こす。

 教科書に関してなにも言わないことに、彼は違和感を覚える。だが缶ジュースのプルタブを起こし、他愛のない話しで盛り上がると忘れてしまった。


 彼が目を覚ますと、近くから呼吸音が聞こえた。そして温かいなにかが、腕の中にある。

 友人だった。二人は互いを抱きしめるようにして眠っていたのだ。

 驚いて思わず声を上げた彼のその声で、友人は目を覚ます。友人も驚いたがそれだけで、支度をして学校へ向かった。


 お経のような授業をなんとか起きてやり過ごしながら彼は、ふと思った。

 友人とは机を挟んで向かい合って座っていた。いつ眠ったか覚えていない。なにより友達と抱き合って寝ていて、あの反応の薄さ。

 自分でも不思議なまでに、その出来事が気にならない。おそらく友人も同じなのだと思うと、妙に気味が悪かった。


 彼はその授業を終えると、退居する、と不動産屋に電話をした。

 荷造りしなければならないほど、荷解きはされていない。それで彼はその日の内に、部屋を出て行った。

 周りは随分と早いホームシックだとからかったが、やはり友人は違った。やっぱりなんか変だよね、と声を潜める。

 不安気にも見える友人を見て彼は、やっぱり言えないな、と思う。


 荷物に忘れ物の小説が紛れていたのだ。確かに置いてきたはずだった。部屋には行きたくなかったため不動産屋に返したのだが、寮に戻ると机の上にあった。

 意を決して部屋へ行って返したのだが、結果は同じだった。

 最後にひとつ試して、それが駄目だったら友人に相談しよう。そう思って、部屋のドアをノックする。








                    ***








 以降、彼の元に小説が戻って来ることはありませんでした。ちなみに彼とその友人は、同じ大学に合格したそうですよ。

 ああ……それより彼がどんな対応をしたのか、気になりますか?


 お邪魔します。この小説、きっと面白いから読んでほしいんだと思う。でも読まないから、もう貸そうとしてくれなくていい。お邪魔しました。さようなら。


 そう言ったそうです。声をかけるだなんて、無知とは恐ろしいものです。もし間違った対応だったら、どうなっていたでしょうね。

 ところで、生死が別れた男と彼の違いが、お分かりになりますか?


 いいえ、友達の存在ではありません。男にも様子を見に来てくれるご友人がいらしたではありませんか。

 言ってしまいますとね、違いというのは周囲の人物ではないのですよ。


 思慮深いことと、行動が素早いこと。絶対にどちらが重要、ということはありません。しかし今回事なきを得たのは、後者でした。

 男が好きな作家にも、そんな物語があるそうですよ。確か題名は……忘れてしまいましたが、彼が入居した際に置いてあった小説です。


 では最後に。

 女は男の殺害を、逮捕時から一貫して否認しているそうです。そして女が入居した部屋もまた、事故物件でした。

 当時の隣人にひどいフラれ方をされたことを苦に、自殺なさったのだとか。彼女がいつか……おや? ああ、この小説です。

 なにか挟まっているようですが、見てよいものでしょうか。しかしこのお話しに欠かせない小説ですからね。とは言っても勝手にという――




『無実を証明してほしい』

「好きな作家」完結です。

ちなみに男の好きな作家は、実在する文豪です。

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