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彼と彼女の関係はいつまでも三角  作者: ゆうま
17[明日の関係にサヨナラを]シリーズ番号1
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第1話

 金森(かなもり)はうつらうつらしながら、宿題に向き合っていた。机の端に置いたスマホが着信を知らせながら震え、その振動のせいで落下する。

 まずは傷の有無を確認しようとスマホを拾うと、表示されている名前が自然と目に入る。それが木崎(きざき)であったため、すぐ電話に出た。


「もしもし。緊急相談センターです。須郷(すごう)くんと喧嘩かな?」


『早く伝えなくちゃいけないことがあって電話した。こんな時間に悪いな』


 電話越しでもはっきりと、木崎の真剣な雰囲気が金森に伝わる。茶化すように出たことを謝罪すると、聞く態勢を整える。

 普段なら謝罪に対してアクションがあるのだが、慌てているのか話し始める。


久美(ひさみ)さんから連絡があった』


「二人って連絡先交換してたっけ?」


『してない。だから正確には、小学生の頃の同級生から電話があった』


 その端的な言葉だけでは理解しにくい状況に金森は、ほぉ、と少し間抜けな声を漏らす。

 少しばかり説明を省き過ぎた、とその反応で木崎は気付く。

 何度か深呼吸をして、自分を落ち着ける。それから“記憶がないと言った久美との会話”をできるだけ正確に伝えた。


『……で、混乱して咄嗟に通話を切った。不自然に思っただろうな』


「事情を知らない人が変に誤魔化すよりは、よかったんじゃないかな」


『その口ぶりだと、金森は事情を知ってるんだな。よかった。今度は傍にいてやれるヤツがいる』


「知らないよ。今のは一般論」


 はは、という乾いた笑いだけで、金森には木崎がどんな表情をしているのか想像することができた。

 転校前の高校で初めて会ったため、古い付き合いではない。それでも、ただ付き合いが古いだけの人物よりは、互いを理解し合っている。


『金森はなにかがあって、変わったんだろう。だが、俺は変わらない。だから久美さんと夜野田(よのだ)が同一人物であることに気付けなかったんだ』


「小学生のときの同級生なんて普通、覚えてないよ。それに性格が違ったら、仕草とか雰囲気とかも違う。気付くはずない」


『その通りなんだろうな。でも、俺が悪いんだ』


 金森は察し、こう考えた。

 久美桂(ひさみけい)という人物がこれまでに五度も、記憶をなくしていることは(とき)から聞いて知っている。そのきっかけとなる出来事に一度、木崎は関わっている。

 記憶を失った後で会っていれば、雰囲気がすっかり変わることを体感する。だがその様子はない。それで、一度と限定した。

 おそらく、転校を理由に傍にいなかったことを後悔している。


 こういったことは普通、人に話すことではない。だが何事にも例外はある。

 現在久美桂と名乗る人物が、記憶を失くしたのは一度ではない。そう推察できるだけの情報を、木崎は持っている。

 引っ越しの時期が知っている時期と大きくズレているのは、再度引っ越したと考えれば不自然ではない。だが鴇は、そのことを黙っているようにと言っている。

 連休に会ったとき既に一度、記憶を失くしていた。そのことも忘れていると、会話の流れや言葉遣いから推察するのは難しくない。

 自身と共に記憶喪失について聞いた、現在も近くにいる人物。そんな金森に問題を託すのは、間違った選択ではない。


「兎に角、鴇くんに連絡しとくね」


『あ、ああ……頼む。直接聞きたいって言ったら、番号教えていいから』


「ありがとう。ところで、なんで木崎くんに電話したのかって聞いた?」


『思い立った、とは言ったたが……それ以上は聞いてないな。悪い』


 知らせてくれただけで十分だと、再度礼を伝える。それから通話を切った。

 木崎の反応から、金森はある判断をした。とあるポイントに疑問を抱いたことは不自然ではない。


「あまり首を突っ込みたくはないけど……、なにかあってからじゃ遅いもんね」


 スマホを操作して、電話帳を呼び出す。寝ていてもおかしくない時間だが、迷うことなく通話ボタンをタップした。

 目が覚めたような声で、どうしたの、と電話に出た鴇が言う。

 鴇は金森を、相手の迷惑を考えない人物ではないと認識している。緊急事態なのだと考えて素早く出たのだ。


「遅くにごめん。木崎くんから連絡があって、その内容をすぐに知らせた方がいいと思って」


『金森さんの友達からの連絡を、どうして俺に』


「聞けば分かるから」


 それだけ言って、有無を言わせず話し始める。初めは事態を飲み込めないでいた鴇だったが、聞く内に理解していった。

 聞き終えると、自分の中で要点をまとめる。


 久美と木崎は同じ小学校に通っていた時期があり、連絡先を交換していた。

 なにかを思い立ったらしい久美は、電話をかける。木崎にかけたのか、偶然木崎だったのか、なにかしらの理由があるのかは、分からない。

 木崎が話したことは三つ。連絡先を交換した軽い経緯。交流がなくなった理由。旧姓が夜野田だということ。


 過去にもトラブルがあったと、そう思わせるような言葉を言っていることは含まれていない。

 木崎が金森に語ったのは、記憶がないと打ち明けられて以降の会話。さらに木崎には口を滑らせたというような自覚がないため、金森に話していないのだ。


「咄嗟に切っちゃったから、不自然に思っただろう。連休に会ったときに気付けてたら。そう言って……申し訳なさそうにしてた」


『分かった。知らせてくれてありがとう。木崎くんにもそう言っておいて』


 なにか言いたそうな金森の雰囲気を、鴇は感じ取る。

 どうするのがいいか迷って、時間稼ぎを試みた。そうして口をついて出た言葉は情けないほど無難かつ、話を逸らすこともできないものだった。


『気付けなかったのは仕方ない。性格が違えば雰囲気も違うってのは、見てるし分かるでしょ。小学生のときの記憶なんて朧気だし、まさか会うなんて思ってもない場所だろうし』


「久美さんだけならね。――ねぇ鴇くんって本当に、久美さんと幼馴染なの?」


 木崎の話から推測したことを、普段よりゆっくりと話す。

 語り終えても、鴇は黙ったままだ。それが意味するところは分かっていたが、このままではなにも変わらない。

 それで仕方なく、抱いた疑問の詳細を付け加えて語る。


「今度は傍にいてあげられる人がいてよかった、とも言ったよ。それって当時は傍にいる人がいなかったって意味にならない? 鴇くんの名前を出したときも微妙な反応で――」


『金森さんは、優しい人』


「……人の言葉を遮って、急になに?」


『久美の記憶がないのをいいことに、幼馴染のフリをしてるのかもって思ったんでしょ。それなら俺は危険な人物かもしれない。だから今の言葉だって、本当は言いたくなかったはず。なのに言ってくれて』


 金森の沈黙も、肯定だった。


『明日、聞いてくれる?』


「きちんとした理由があるなら、それでいいの。詳細には興味ないから」


『もう……誰かに言ってしまいたい。この話になる前に電話を切るタイミングはあった。でもできなかったのは、そういうことだと思う。運が悪かったと思って、付き合ってほしい』


 弱ったような声音で、そう頼まれてしまっては断りにくい。深いため息を吐いた金森が口にしたのは、承諾だった。

 渋々といった様子なのが金森らしい。そう思った鴇は、微笑んだ。

久美と鴇の引っ越し時期について言及している話

  04[そこを開ければ私がいる]第4話

  07[ありがちな恋の悩みについて]第2話,第3話


 これまで久美の下の名前の表記がバラバラになっていました。佳ではなく、桂が正しいです。

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