第6話
5組である彼の幼馴染と6組である浅野花は、体育で授業を一緒に受ける。その際、相談された。
今の3人は依存してる。だから3人に危険が及ぶかもって考えて離れさせれば、きっと3人もバラバラになる。
そう言ったのは、3人と離れさせるようなことを言ったのは、こうすれば恋人とも別れるだろうと考えたためだ。
自分と元の関係に戻る。進展も有り得る。
そんな思いだった。
危険が及ぶと思わせる行為についてどころか、他に会話すらなかった。他になにかを尋ねられることもなかったのだ。
故に忘れていたのだ。なにせ、その出来事は夏休み前の出来事だった。
どうして動物を殺すという行動に至ったのか。どうやって2人で遊んだ動物を調べたのか。全く分からない。
だから浅野花がやったのかも分からない。だが、事情を聞いたときに真っ先に思い浮かんだ。
「確証はねぇんだろ。だったら違う。小学生の頃は生き物係だったんだ。可愛がってた」
独白を聞き終えると、大は言い聞かせるように呟く。
「そんな頃から片思いしてたの?なんでさっさと告白しないのよ」
「はぁ?!俺が告白したって断られるだけじゃねぇか。次の日には学校で噂になって馬鹿にされて居場所がなくなるんだ」
身体を抱えるように、両腕を掴む。
「少なくとも中と小がいるわよ」
「俺は中と小とは中学校違げえんだよ。あの辺り校区ぐちゃぐちゃだろ。クラブチームで一緒だっただけだ」
なるほど、と幼馴染は頷く。彼と恋人は、顔を見合わせた。
「好きな人を唆した人と、なんで普通に会話出来るの」
「明らかな誘導じゃねぇっすから。選択したのは浅野さん。俺の純情を返してほしいっすよ」
「花が言ってることが全て本当だとは限らないけどね。花にとって事実だったとしても、浅野さんにとっては事実じゃないかもしれない」
今度は大がなるほど、と頷く。
「けどまぁ、浅野さんに話を聞けば分かることじゃねぇか」
***
浅野花には明確なアリバイがあった。
登校時は自宅の眼前と言える場所で友人と落ち合い、授業を全て受け、昼休みは友人と教室で過ごす。人目についていなかった時間はあれど、長くない。
放課後は部活へ顔を出し、友人と下校。登校時同様、自宅の眼前と言える場所で友人と別れる。
部室を出る時間が決まっているため、帰宅する時間も決まってくる。
斜向かいに住む婦人が洗濯物を取り込む時間で、多くの日友人と別れてすぐに玄関を開ける様子を見ている。
帰宅後はネットでドラマを見るのが日課であり、ログも残されている。その後感想をSNSにアップ。予約投稿の形跡はない。
彼があの分かれ道に着くまでに動物の死骸を置くことは、不可能だった。
差し入れも彼に持って行ったものではなく、大へ持って行ったもの。しかし受け取ってもらえないことは承知の上だった。
持って行ったことを知ればお礼の一言でも言ってくれて、その際に少しでも話が出来る。そう思ってのことだった。
彼が幼馴染を花と呼んでいることを知らず名乗ったため、その部員が勘違いをした。否定しようと思ったが、チャイムが鳴ってしまったために出来ず終い。
大と仲の良い彼の幼馴染には相談したものの、過激なことを言ったため距離を置いた。彼の自宅付近での目撃情報もなし。
下駄箱に入れられたゴミについては否認している。彼が嫌いだという飴を購入したという事実は確認されていない。
これが浅野花にとっての事実と、浅野花を客観的に見た結果だった。
――だが、人は面白おかしく噂をするものだ。
浅野花は、学校中から白い目で見られていた。完全に動物を殺した人物とされてしまっていた。
だがそれは表面上の話である。実際は、いじめても良さそうな人物をはっきりいじめとは取られなさそうな範囲でいじっているだけだ。
本人がいじめだと思えばいじめ。それは事実ではある。しかし取り合ってもらえるか。解決出来るのか。それは別問題だ。
無実なのだからその内収束する。教師たちはそう言うばかりで、取り合わなかった。そして、そうはなっていない。
これは、浅野花が書き遺したものである。
仮に収束したとして、私は行いを許してまた仲良くしなくちゃいけないのかな。嫌。許せない。でも拒絶したら酷いいじめになるかもしれない。
収束しないのも、仲良くするのも、陰湿ないじめになるのも嫌。
だから全てを捨てます。
せめて、あなたには無視してほしくなかった。助けてくれるかもなんて贅沢を、ほんの少しでも思ったのがいけなかったのかな。
誰かが悪いなんてこと、ないのかもしれない。でも、誰も悪くないなんてことはない。だから誰かのせいではないけど、みんなのせい。
さようなら。
それを読んで以降、大は心ここに在らずといった状態が続いた。授業はおろか、部活に参加しても。必然的に、中と小のパフォーマンスも下がる。
3人はベンチから外されて数日後、部活を辞めた。彼の教室に集まることもなくなり、4人はバラバラで過ごすようになった。
「大丈夫。峰晴先輩もいなくなっても、私はずっとあなたの傍にいるわ」
彼を抱きしめる幼馴染を、恋人が突き飛ばす。
「仕組まれたみたいに、あなたの言う通りになった。最初に言った通り、あなたが動物を殺したの」
彼女は隠し持ったハサミに手を伸ばし、ニヤリと笑った。血が舞う。
「いい加減その浮気性、なんとかしてよ」
急な出来事に困惑しながらも、声の主を見る。
「中1のときに一緒のクラスだった…」
「そんな言い方、酷い」
なにか言おうとしては口を閉じる。それを何度か繰り返す。待ちかねたのか、もう一度別の人物にハサミを振りかざす。
通りがかった生徒が叫び声を上げ、それを聞き付けた教師が救急車と警察を呼んだ。その場には、2人の女子生徒が倒れていた。その下には血溜まり。
2人の命に別状はなく、障害が残ることもなかった。
動物殺傷、中学生時代を含む下駄箱へゴミを入れる嫌がらせ。これらは全てハサミで2人を襲った生徒が行っていた。
事件が解決し一件落着。そんな雰囲気になったが、彼はその日以降、生涯で一度も笑うことはなかった。
享年13歳。彼の命は自らの意志での投身で幕を閉じた。
「私と貴方と、貴方の浮気相手たち」完結です。
夏なので、ホラーっぽくしてみました。一番怖いのは、人間だと思っています。




