表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼と彼女の関係はいつまでも三角  作者: ゆうま
02[卵と鶏、彼女と君]
13/103

第4話

 朝のホームルームが終わり、少女は幼馴染のところへ行く。


 「公開告白なんて大胆だね」

 「私がアイツのこと好きなことなんて、誰の目から見ても明らかだっただろうしそれは良いのよ」


 くすりと笑った少女が虚無を見つめた少年を思い出し、真似をした。



 「そうだね、ありがとう。もうすぐ朝のホームルームだから教室に戻った方が良いよ」



 「傷を抉らなくて良いわよ」


 幼馴染も虚無を見つめた少年を思い出して、ため息を吐いた。


 「あんなののどこが良いの?」

 「人が好きな人のことを…」


 ただし、感想は随分と違うようだ。


 「小学生の頃って面白い子がモテる傾向があるわよね」

 「あー…?確かに?」

 「中学生だと物静かで知的な子。じゃあ高校生は?」


 クイズ形式であることに少女は心の中で小さくため息を吐いた。しかし答えないと話が進まなさそうな雰囲気に、仕方なく答える。


 「学園の王子様?」

 「アイツが学園の王子様に見えるのかしら?しかもそれは王道中の王道でしょ。少し外れた王道のことを言ってるのよ」


 なに言ってんだコイツ。そんな視線を向けられた幼馴染は少女から視線を外す。


 「創作ですら恋愛に無縁だったのね」

 「哀れみを込めて言わないで。私はバトルものの方が好きなの」

 「バトルものでも恋愛描写はあると思うわ。…まぁ良いわ。正解は“少し影のある優しい子”よ」


 少女は再びさっきと同じ視線を向ける。なに言ってんだコイツ。


 「初対面だから少しじゃないって思うだろうけど、普段は少しなのよっ」


 手を握って抗議していた幼馴染は視線を落とす。その表情は悲しそうな、寂しそうな、そんなものだった。


 「…学校を休み始める少し前からおかしかったわ」

 「ふーん。で、特になにも求めてないのに多分ずっと好きでいて、告白して、なにがしたいの?」

 「子供の恋愛なんて賞味期限付きよ。私は、私が楽しいと思う恋をしたいだけ。それで相手が楽しいと思ってくれれば嬉しい。でも」


 顔を上げると、背中を壁に預けて窓の外を見る。


 「でもね、相手が嫌がることは自分が楽しくてもしたくない。だから…最後の賭けだったのよ」

 「綺麗だね…」


 幼馴染がなにか言おうとした瞬間、この教室では聞こえないはずの声が響いた。


 「面貸せよ、転校生」


 友人が来ていた。ひとりだ。


 「彼は大丈夫なの?」

 「問題ない。聞きたいことがある」

 「嫌」


 少女はそう言うと、小さく微笑んだ。


 「心当たりがないことはないけど、私にはなんのことだか分からないの。だから話せることはなにもない。それに、本人から聞くべきでしょ」

 「その本人に、転校生に聞けと言われた。すっとぼけるだろうが、聞けと」

 「分かった」

 「言いにくいことなんだろ。場所を変えよう」


 友人が歩き出しても、少女は動かない。


 「ここで良いよ。聞かれて困ることなんてない。きっと、彼も」


 小さく頷いて少女の正面へ行く。


 「双子の姉がいたの。外で遊ぶよりも本を読むのが好きな子供だった。それが、ある日を堺に外へ遊びに行くようになった。その1ヶ月後に死んだ」

 「亡くなったのは、小学1年生のゴールデンウイーク辺りか」

 「そうだよ。私が彼を知らないのに、彼は私を知ってる。この説明はこれしか出来ない。当たりみたいだね」


 笑った少女へ一歩踏み出したが、少女は一歩引く。


 「ちなみに亡くなった日のことも、双子の姉と彼の関わりも、なにも知らない」


 少女に怪訝そうな表情を向けると、手首を掴む。


 「やっぱり移動する。ついて来い」

 「ちょっと、待ちなさいよ」

 「ついて来るな。聞くように言われたのは俺だ。首を突っ込むな」


 幼馴染が悔しそうに俯くのを見て、友人は歩き出す。

 少女は一応抵抗したが高校生ともなれば、例え体格に大差がなくても男女というだけで力に差がある。

 ましてや友人はどちらかといえばガタイの良い方だった。振りほどけるはずもなく、連れ出される。

 その後を、ひとつの影が追いかけた。








 人気のない小さな公園で、ひとりの女の子が砂遊びをしていた。作っているのは、泥だんごや山といったものではない。大人顔負けの砂城だ。


 「すごいね。どうやってやるの?」


 そう声をかけたのは、微笑んだ男の子。


 「こ、これは…お山を作ってぎゅってしてから、お城の形が残るように…して、ます」

 「そうなんだ。僕にもできるかな」

 「お、教えます…!少しコツがあるんですけど、すぐ覚えられると思います」


 男の子は表情をパッと明るくする。


 「やった、よろしくね。なんて呼べばいい?」

 「か…い、伊織って呼んで下さい」

 「分かった。僕のことは―――って呼んで」


 幼い2人は、微笑み合った。


 それから2人は出会った小さな公園で放課後毎日のように会った。

 現地集合現地解散、会うことは約束ではない、互いの生活領域に踏み込まない。この3つが暗黙の了解だった。

 会っていることは誰にも言わない。これが唯一口に出して約束したことだった。




 会い始めて一週間が経った火曜。


 「お…遅かったね」

 「……ごめん」

 「あ、ご、ごめんなさい。その、普通に話す練習だったんですけど…」


 男の子はこのとき、小さな違和を感じた。だが、会ってすぐに言う言葉として適当に選んだのだろう、と大して気にはしなかった。

 この日は砂城を作る練習はしなかった。男の子が学校である縄跳びの試験が億劫だと言ったら、練習をしたようと女の子が言ったからだ。




 その翌日、女の子がある提案をした。


 「あの…ここじゃない公園にしませんか?」

 「どうして?」

 「近くの家の人に見られたみたいで…その、はずかしい…です…」


 もじもじとする女の子に小さく微笑む。


 「分かった。どこにする?」

 「お寺の近くにある公園はどうですか?」


 微笑んで頷いた男の子だったが、昨日の小さな違和を思い出していた。




 会い始めて二週間が経った火曜。

 この日はベンチに並んで座って、課題図書を読んでいた。それは、捕食される小動物と捕食する肉食動物の友情を描いたものだった。


 「友達か…よく分からないなぁ…」

 「私もです…。このライオンがいつ食べようとしてくるか分かりません。人だって同じです」


 男の子は黙って表紙に描かれているライオンを撫でた。


 「それなら私は“いてもいなくてもいいけど、いたら楽しい”くらいがいいです。もしものときに悲しくないですから」


 男の子が頷くと、女の子は慌てた素振りを見せる。そして、本を横に置くと男の子の目をしっかりと見た。


 「で、でも、友達は必要だと思います。全部分かってもらえるなんて思ってません。でも分かりたいって思ってもらえる相手がいてほしいですし、思いたいです」

 「うん」


 頷いた男の子は、笑顔だった。




 会い始めて三週間が経つ金曜。

 この日は砂城を作る練習をしていた。努力の甲斐あって男の子は小さな城なら作れるようになっていた。


 「すごいです…!きれいです」

 「ありがとう。次はもっと大きな城を作るからね」

 「はい、がんばりましょう」


 小さく微笑んで言った女の子から視線を逸らす。


 「……感想文ってどうした?」

 「――そのまま出して怒られました」

 「そのまま?」


 女の子に視線を合わせて問う。女の子はというと、若干困ったように笑った。少ししてから小さく頷く。


 「はい。友達ってどうしてもいなくちゃダメ?…って感じです」

 「そっか…」


 再び視線を逸らした男の子が立ち上がる。短く挨拶をすると、去って行ってしまった。




 会い始めて四週間が経つ火曜。

 男の子は昨日現れなかった女の子を待っていた。手にはしっかりと玩具の指輪が握られている。

 翌日からゴールデンウイークだった。土日や祝日は会わないため、今日会えなければしばらく会えない。


 男の子は、金曜のこと“か”これまでのことを謝りたかった。


 足音に視線を上げると、ほっとしたように微笑む。そんな男の子を首を傾げて不思議そうに見る。


 「ごめん」

 「ど、どうしたんですか…?」

 「ずっと気付かなかった」


 持っていた玩具の指輪を、女の子の手に握らせる。


 「いいですよ。気付いてくれて、ありがとうございます」


 女の子は笑ったが、すぐにハッとした表情になる。


 「や、やっぱりダメです。ゴールデンウイークの間も、ここに来てください。それなら許します」

 「分かった」


 微笑む男の子に笑いかけると、指輪をきゅっと握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ