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本当に恐ろしい事とは?『まどのそと 著・佐野史郎 絵・ハダタカヒト 偏・東雅夫 岩波書店 初版2019年7月』

さて、最近ですがステイホームのおかげで新しい本を読む事が多くなりました。話題のメディウムを一気読みしましたよぅ! 文章力もさることながら、実にドキドキしました。当方のライターさんもそういえば某ミステリーの賞を取っていた方がいましたねぇ^^


「待たせた?」



 着物を着た青い髪の少女は一冊の本を持って、上品に手を振る女性。そんな女性に向けて手を振るのは軍服に軍帽を被った少年。



「シア店長、お久しぶりです」

「久しぶりやね。うたかね君」

「わざわざこんな場所まで来て頂いてすみません」

「えぇよ。ウチもこの後寄りたいところあるし・・・・・・それに、ウチのところのアホ2匹が穢れを店に招いとるから帰りたくないしなぁ。それよか、チョイスした絵本やけど、そこのコメダ珈琲でも入ろか? チェーン店にしてはまぁまぁ美味いで」



 青い髪の着物を着た少女と、軍服を着た少年のお二人様、どちらかといえば年配のお客が多い葛飾区において異色すぎる二人組のご来店は店の空気感を変える。



「冷こ二つ、うたかね君なんか食べる?」

「いえ、おかまいなく」



 青い髪に金色の瞳。シアは嬉しそうに一冊の絵本を取り出した。



「ウチがオススメすのはこれや!『まどのそと 著・佐野史郎 絵・ハダタカヒト 偏・東雅夫 初版2019年7月』一回通して読んでみ!」

「は、はぁ」



 うたかね少年は、窓の外を気にする少年の物語を読む。それは不気味な話だった。妹と呼んでいるのはヌイグルミ、母と父と書いた紙を貼った木と生活している様がえがかれている本作。うたかね少年の感想。



「この絵本、意味が分りません」



 そう、本作は当方で何度か紹介した『かいだん絵本』シリーズ。最高にヤバイ作品であると当方『ふしぎのくに』は結論付けた作品でもある。



「知ってるかうたかね君。この作品書いた人、俳優の佐野史郎って人知ってるか? 映画監督もする俳優でな? 二枚目から三枚目、そして悪役も上手い。そんな人が書いたホラー絵本がな? その他、ホラー作家の重鎮連中が書いた作品より、はっきり言ってヤバイんや」



 小野不由美、京極夏彦、綾辻行人、有栖川有栖、並べるだけも超有名作家達を抑えてヤバイ話とはどんな物なのか?



「じゃあ解説しながら、読み進めていくで?」



 熊かネズミのヌイグルミに箸で餌を与えている少年の描写、窓は草が生えまくり・・・・・・

 カタカタカタ、方カタカタ、窓がカタカタなっている。と綴られる。

 風が吹いているのかと少年はカーテンを開けてみるが、外の木の葉は揺れていない

 食器が置いてある流しの描写に細く白い木が何故か映っている。



「これは、子供が読んでも絶対に意味わからへん話や、これは幽霊も怪奇現象もおきへん、せやけどもっと怖いもんが読み取れるんや」

「なんですか? 僕はただただ意味が分らなくて気持ち悪いなって思っただけで、怖いとはおもわなかったんです」



 そう、この絵本は意味が分ると恐ろしい作品として描かれている。



「おかんらしき人の言葉で、そろそろおねむの時間でしょ。と書かれてるやろ? で歯磨きした描写に、少年はおやすみなさいと返すんや。よう覚えとき」



 ママはお台所で洗い物。少年は「はーい」と返す。

 以下、抜粋。

 

 カーテンしめて窓のそと

 方カタカタ

 カタカタカタ

 

 

「うたかね君。このテレビを新聞で覆っている描写。富士山の大噴火の記事が載っている。これ、おかしないか? 何故テレビの画面のところに新聞を覆ってニュースが見えるようにしているのか・・・・・・、まず第一のヒントや。このテレビ、古すぎるねん! うたかね君が生まれるよりも十年以上前のテレビとVHSビデオが一緒になったテレビデオや・・・・・・こんな骨董品がある部屋、おかしいやろ?」

「えっ・・・・・・それはどういう事なんです?」

「ふふ、かわえぇな。続き読むで」



 以下抜粋。


 方カタカタカタカタカタ窓がカタカタなっている、地震かな、天井の明かり見上げても電球ちっとも揺れてない 茶色い大きな木が写っている。



「地震の記事があるから、地震が起きようとしているんですか? でも、何も揺れてないですよね?」

「せやね。ここで少年が「おやすみなさ〜い」って言うと少年のおかんが「おやすみ」と返す

おとんという名の大きな木はゴロンとテレビを見てる描写。というか貼り付けた新聞やな? そのニュースで火山が噴火したと書かれてる。これ、多分過去に富士山の噴火があったんやろな?」



 本作に関して、是非手に取って読んで頂きたい。意味が分ると人間の狂気ここに極まれりである事を感じる。



「ここで、少年がカーテンから部屋を覗く描写や。次の文章よく意味考えや」



 以下抜粋。

 方カタカタ 方カタカタ 窓がカタカタなっている。お布団の中で目を閉じて眠りたいのに眠れない。

 そっとカーテンの隙間からお外をのぞいてみたけれど、雲の間にお月様。

 


「そこで「まだ起きているの?ママがお部屋を覗くので、お布団の中に入ったよ」と書いてるやろ? これな? この噴火があった時の事を多分、模倣しとんねん」



 少年。ぬいぐるみと眠る描写

 

 以下抜粋

 方カタカタ 方カタカタ 窓がカタカタなっている、お目目を閉じてすうすうと妹隣で眠ってる。



「ヌイグルミを妹? って言っているのがもし過去に火山の噴火があって、それ家族を失った人がここで疑似生活を送っているのだとすれば、全て繋がりますね・・・・・・」 


 

 以下抜粋。

 僕も真似してすうすうと「おやすみなさい」と目を閉じた。


 

「シアさん、それって・・・・・・この男の子って・・・・・・」

「元・・・・・・男の子ちゃうか? それを考えながら続き読んでみ」

「は、はい」



 窓の外の描写、めちゃくちゃ葉っぱが生い茂っている。


 以下抜粋。

 カタカタカタ カタカタカタ

 何がカタカタなっているの?

 

 続いて溶岩の描写。



「ここで元少年はもう一度起き出しカーテンを開けると誰かがのぞいてるんや。読むで? ”真っ白なお顔が今晩わ。だけどお目目もお口もないよ。お鼻もどこだかわからない。のっぺら棒のお顔だよ。それじゃ絵本が読めないよ。すうすうおやすみできないよ・・・・・・ってな?” これ、火山噴火で火傷した人間の事見た記憶やろ・・・・・・えげつないケロイドで耳も鼻も落ちてたんかもな」


 

 以下抜粋・・・・・・火山噴火があった当日の事を思い出したすれば、この描写の意味が見えてくる。

 泣いている少年の描写

 大声出して泣いたけど、パパもママも気やしない。何度も何度も呼んだけどママもパパも気やしない。妹すうすう眠ってる。涙でゆらゆら何にも見えない。方カタカタカタカタカタ 窓がカタカタなっている。

 ネズミか熊のぬいぐるみに布をかけて横で寝ている描写

 パパもママも気やしない。妹すうすう眠っている。



「これって・・・・・・PTSDですか?」

「うたかね君、難しい言葉知ってるやん! 多分、正解や」



 とんでもないくらいに生い茂った窓の外。


 勇気を出して少年は窓の外を見る。そしてこう続く。のっぺらぼうはもういない。だあれも何にもいやしない。

 

 泣いている少年らしき不気味な顔。

 窓を閉めたらそのお顔! 映っていたのは自分のお顔、お目目もお鼻もついているお口もちっちゃなおちょぼ口。



「この絵の描写、うたかね君。どう思う? 正直に言ってみ」

「・・・・・・子供の顔じゃ・・・・・・ないですね」



 そう、この絵で殆ど全てが物語られている。少年として描写されているが顔はどう考えても中年なのだ。



「ここでおかんが「あらあらどうして泣いているの?」そしておとんが「怖い夢でも見たのかな?」なんて語りかけてくるけど、この元少年は狂ってる。茶色の木に父と書いた木、白い木に母と書いた紙を貼った木。それを見てやっとお部屋にママとパパ・・・・・・この元・少年は

壊れてもーてるんやろな」



 意味が分ってしまうと、この物語は怖い話ではない・・・・・・恐ろしく、悲しい話なのである。



「最近、地震や台風、自然災害の恐ろしさを嫌という程、みんな知ってるやろ? 幽霊や妖怪が人の命を奪ったという事実は存在せーへんけど、自然災害という神は人の命を平気で大量に奪うんや」



 うたかね少年は声に出して読む。


 以下抜粋・・・・・・両親と妹がいた頃の事を思い出して、子供の頃の記憶が再生されてしまった壊れた人間の妄想と捉えて読むと激しく、もの悲しい。



「お兄ちゃんなのにおかしいよ」

「まだまだ赤ちゃんなんだもの」

 パパはハハハ……と笑ってる。抱っこしながら笑ってる。

「自分のお顔にびっくりしたの?」

 ママも笑って

「はい抱っこ」

 

 ぬいぐるみを死ぬほど握りしめている描写

 妹すうすう眠ってる。



「多分、この握りしめている描写で、こんな事をしても意味がない事に気づいたのか、悲しみが押し寄せてきたんか・・・・・・いずれにしても我に返ったんやろな」



 少年、窓から抜け出していく描写

  それを見るように白と茶色の木

 方カタカタ 方カタカタ 窓がカタカタなっている。すうすうすう すうすうすう 妹すうすう眠っている

 

 富士山噴火している描写。

 カタカタ 方カタカタ 窓がカタカタなっている。


 絵本では何も説明されていないが、これらが恐らく、本作の全てだろうと思われる。恐ろしい者は狂ってしまった人間、そして人間を狂わせる自然の驚異。



「シアさん、確かに怖いじゃなくて・・・・・・辛い絵本ですね」

「せやろ? だから、ヤバイんや。じゃあウチは、そろそろおいとまするから、友達に教えたり、本は貸したるわ」



 着物を着ているのに、足下はヒール。シアは一万円札をテーブルに置くと「これでタクシー乗ってかえり」と颯爽と店から出て行く。

今回はよくTVでお見かけする佐野史郎さんの『まどのそと 著・佐野史郎 絵・ハダタカヒト 偏・東雅夫 初版2019年7月』でした。絵本らしさを追求しつつ、意味が分ると感じる恐怖に驚きと感動です! ちなみにかいだん絵本シリーズは今回で終了です。7月最後の怖い絵本は・・・・・・ちょっといい絵本かもしれませんよ! 是非お楽しみに!

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