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女性は物語など書くべきではないのか?『怪物が現れた夜「フランケンシュタイン」が生まれるまでリン・フルトン 作 フェリシタ・サラ 絵 さくまゆみこ翻訳 初版 福音館書店2018年十二月』

さて、またしても自粛が東京の方で発令されそうです。毎週、皆さんで珈琲を飲みに行っているのですが・・・・・・それもまたお預けになりそうですねぇ^^

リモートお茶会でお取り寄せスイーツを発表ですねぇ!

「集合!」



 四畳半から十六畳にヴァージョンアップした局所空間。

 平成の境目に取り残された忘れられた者達。そのリーダー格であるピンク色の髪をした女は朝から叫ぶ。

 一升瓶を抱いて寝る女。自称大悪魔のダンタリアン。そしてその近くで自作のモンスターマシンをカタカタとタイプする気怠そうな青年サタ。

 また手鏡でメイクを仕上げ、自分にウィンクして見せてその完成度に満足するギャルファッションの少女・レラ。



「姉御、今朝も早よから何事ですかい?」

「君たちに問いたい! 小説は女性が書いていい物なのかい?」



 圧倒的な差別発言と取られるそれに、サタは興味を持つ。まさかダンタリアンがそんな事を言うとは思いもしなかった。



「ジェンダーレスを推しているわけではないにしても、お前がそんな事言うなんてどう言う風の吹き回し? この一言でSNSで拡散されて炎上される時代にさ」

「まぁ、アタシ達は平成と令和の狭間にいるわけだけどね。今ってWeb小説を書いている女流作家も沢山いるじゃない? それが普通の社会。でもひと時代違えばそうじゃなかった。二人とも知っている? 最も有名な怪物の作品をかいた作者は女性だったのよ? フランケンシュタイの物語」

「メアリー氏か、聡明な女性だったよ。お前と違ってな! ダンカス」



 サタは少しだけ懐かしそうな表情をする。

 小説を書く、本を読む、そんな趣味がなくても殆どの人が知っているであろうフランケンシュタインという怪物。

 頭にボルトがついて、凶暴な怪物……と言うのは後で付け足しされた姿と設定である事を知っている人は少ないかもしれない。

 何なら、フランケンシュタインという物語が生まれた理由を知る人はもっと知らないかもしれない。



「二人とも、詳しいねぃ! レラ全然知らないです。でもフランケンシュタインってデカくてゴツくてやばい奴だろう?」

「『フランケンシュタイン〜あるいは現代のプロメテウス 著・メアリーシェリー 初版1818年』の話でもしたいのか? 後にも先にも彼女以上の天才女流作家はいないと僕は思っている。やめておけよダンカス」



 ダンタリアンはサタの言わんとしている事に満足そうな表情を向ける。200年前にホラー、純文学、自己摘発に社会風刺と評論を交えた小説をかいたメアリー・シェリーについて軽々しく語るのは恐れ多い。



「いやね。そんな面倒な事アタシは突然の思いつきで、話そうとは思わないよ。それはまたの機会ね! 今日はこれについて少しお話ししようよ!」



 ドンとダンタリアンが置いた物は絵本。



「姉御、絵本ですかい?」

「レラちゃん程のヴァッカでもわかりやすいように絵本にしてきましたー!」

「あはは、なんか照れるぜチクショウ! でも、さっきのメアリー・シェリーって姉御の話だねぇ」


『怪物が現れた夜「フランケンシュタイン」が生まれるまでリン・フルトン 作 フェリシタ・サラ 絵 さくまゆみこ翻訳 初版 福音館書店2018年十二月』


「この絵本ね? 珍しくノンフィクションでメアリー・シェリーがフランケンシュタインを書いた話をドキュメンタリー調に進む。面白いものなんだ! じゃあ読むよ!」



 見た目からはやや想像がつかないダンタリアンのアニメ声は、絵本朗読に向いていた。彼女はかつて、古書店『ふしぎのくに』と呼ばれた古書店で店長業務を行っていた自称大悪魔。


 “私の家族に、エリザベッタに、作と挿し絵の人のメッセージから始まる。これが実に海外らしい。



「この格好の付け方、日本人には中々できないよね? 日本人は面と向かって友達に愛してるの一言も言えないから、まぁ当分無理だね」



 カラスの一枚絵。それが何を物語っているのか、憶測は考えられるが、寂しい場所。あるいあ辺境を意味しているのかもしれない。

 何故なら舞台は二百年前、メアリー・シェリーは嵐の夜に詩人パイロン卿の別荘に避暑に来ている。

メアリーは物語を考え、作家になりたいのだ。 

 彼女の家族も旦那も作家、それだけに彼女は言葉の力を信じていた。



「言葉の力を信じていたって……絵本の表現じゃないな……あぁ、大人向けなのか」



 いつもはダンタリアンに背を向けて話すサタもまっすぐにダンタリアンを見つめて話を聞く。本作は恐ろしく心を打つ表現が多い。

 メアリー・シェリーは想う。今、夜空を切り裂く稲妻のような世界を揺さぶる作品を作りたい。でも取り敢えず今は怪談を一つ書かなくてはならない。

 本を読むメアリーの描写、続いて語り合う男女の描写。

 何日も続く雨で引きこもっている人々が交代で声に出して怪談を語る内に、それぞれ皆で怪談を作り、1週間後に読み合い。誰が一番怖いかを比べようとパイロン卿に言われるのが事の発端。



「そうだ。確かにフランケンシュタインの物語はこんな戯言が生まれるんだった。イギリス人の愚かな男尊女卑を打ち砕くようにね」

「のんのん! サタさん。絵本はまだ始まったばかりさ! 楽しまなきゃ! というかアタシの登場レアなんだから、続けさせてよ」



 ダンタリアンはページを開くと読み聞かせを続ける。

 メアリー達が滞在する別荘で、男の人たちはすでに血に飢えた吸血鬼や復讐に燃える幽霊の物語を書き上げていた。一番面白いのは詩人のパイロン卿だろうと思われていた。偉そうだがと……メアリーは考えても面白い作品が全く思い浮かばない。



「物語を考え、書くのは実は労力と精神力を使うからね。アタシ達のチームの師匠ちゃんは1ヶ月かけてたった100万文字も書けなかったらしいし、一ヶ月で100万文字も書けないど底辺の作家でも苦しむんだ。同じく彼女は考え、葛藤するの」



 階段を降りるメアリー。

 男達が別室で真夜中に科学の実験について語っていた。電気で死んだカエルの足が動いていたと……



「ボルタかルイージの実験の事だね? 年代的に時系列が合うよ」



 どちらも有名な科学者。ボルタ電池のボルタ、生態電流発見のルイージ。本来心躍るその実験を聞いてメアリーはベットで震える。子供の頃に聞いた恐ろしい実験の話。電気を使い死体を動かしたというもの。



「姉御にサタの兄貴、するってとこれはもしかしてあれかい? そもそもフランケンシュタインみたいな化け物の話の前例みたいなのがあったのかい?」



 渋谷や原宿にいてもおかしくないギャルメイクにギャルファッションのレラの使う江戸口調。今やダンタリアンもサタも気にすらしない。



「レラちゃん、いいところに気がついたね! そう、この天才メアリー・シェリーですら、元ネタを使って作品を考えていたんだ。だから、テンプレートだ何だ言っている連中は恥を知るべきだね」



 何かに影響される事、それは創作にとってあるべき形だという事が200年も前に証明されいる。

 メアリーは恐怖を逃すためにロケットに入れている母の肖像画を眺める。メアリーが赤ちゃんの時にお母さんは亡くなっていた。メアリーの母親は物書き、どちらかと言えば小説家というより、評論作家に近い。メアリーは母の墓石で文字を覚えたらしい。メアリーは母の書いた書物を全て読んだ。民主主義や女性の権利についての本。人々を励ました反面反感も買っていたと……

 女性が本を出すなんて生意気と言われた時代。メアリー・ウルストンクラフト。


 “女性は自分で考えを持つべきではない“


 男性の中で一人浮く女性の、メアリーの母。



「どうだい? 考えられるかい? 今や、超有名女流作家なんて日本、国外大勢いるじゃないか! 性別が違うから慣性は違うかもしれないけど、同じ文字を扱うのさ! 身体能力で競うわけじゃない!」



 時代である。



「紀貫之も、土佐日記で女の自分も男がする日記を書いてみようみたいな今だと炎上しかねない書き出ししてるもんな。文字なんてかければそこに大きな差はないか、むしろ販売されている書籍で台本みたいに読みづらい物も数多くあるし」



 皆さん、日本の女流作家で強烈な人物を知っているだろうか? 自信過剰のブロガー……そう、ダンタリアン……ではない。彼女のモデルになっている史実存在した随筆家。清少納言。今でいう人気ブロガーであり、多くのインスタフォロワーを持つであろう彼女。彼女らはある意味姫という身分であったことからメアリーやメアリーの母ほどの侮蔑を受けた事なく、伸び伸びとした作品を書き上げてきたのだろう。



「ははーん、泣けてくるねぇ。メアリーは母上が批判された事を思い出し、女性の書いた作品だって男性の書いた物に負けないはず。母の正しさを示したいと思ったわけかい……いいねぇ! 燃えてくるじゃねぇか!」



 そう、実はメアリーのこの時の創作への起爆剤は、見返したいというその気持ち。ある意味負の気持ちである。



「嫉妬心や、復讐心は使いようによっては力になるんだよね!」



 下の部屋で語る男性達と夜の描写

 命のないものに命を与えることができれば自然を打ち負かしたことになる。人間の勝利だと興奮していた。

 化学実験室の描写、これはメアリーの想像だろう。

 メアリーは考える。命の秘密を自然が人間に隠しているのにはそれなりの理由があるはずだと、それに本来はいハズの命を与えられたものはその後どうなるのか?

 前提と結果のみで、後々起こりうる事を考えない男性達は議論を続けいてた。

 そこで初めて怪物達の描写がなされる。これもメアリーの想像と思われる。

 メアリーは下にいる男性達にお休みをいうと、幽霊やドラキュラについて考える。それら仲間のいない者の寂しさについて考える。されどまだメアリーは何を書いたらいいかわからない。



「この時点で、メアリーはある種の答えに着地しようとしているのかもしれないね? ウサギは寂しいと死ぬなんて言うじゃない? あれ、ウサギは死なないけど、人間は死ぬのさ。寂しいと後を追うようにね。どんな物語でもそうさ。人間の作り手を超える創作物は存在しない」



 鏡に映る自分をメアリーが見る描写

 稲妻が光り、鏡に映った自分が死者のようで驚く。そこで考えた。死者が蘇る事より、蘇った死者が生きて行くことの方がもっと恐ろしいかもしれないと

 アリーベットで横になる描写。

 外の音を聞きながら眠りにつかず考える。

 実はもう夢を見ているメアリー、あるいは妄想の中のメアリー

 台の上に横たわる人間のようで人間ではない傷のあるおぞましい顔をした何か。蝋燭を手にかがみ込んでいる学生。この学生はとんでもない野心をもち自然の秘密を暴き出して台の上にいる死者に命を与えてしまった。

 だが、学生は怖くなった。どうしていいのかわからず。逃げ出す。死者の命が消えてくれる事を祈りながら……

 メアリーはベットで恐れる。

 その学生が自分のようで、自分が作り出した怪物が自分を探していることを考えないように……



「おいダンタリアン、メアリーはまさか……」

「そうさ! 一部の作家や読書家が陥れる。ゾーン。アタシ達が同化と呼ばれる現象を体現している歴史上発表ではもしかすると一番最初かもしれないね」



 起きているのに、その世界の質感や匂い、深度が深いと味や、知らないはずの街や人々に会う夢見たいな現象。同化。その最初の体現者がメアリー・シェリーかもしれない。

 怪物がこちらを見ている。

 そのうちねじ曲がった大きな灰色の手がベッドのカーテンを開けようとして、そしてカーテンが開くと怪物の飛び出し黄色い目が覗きメアリーを見つめる。

 怪物は一体何をして欲しいのか? と綴られる。

 メアリーは悪夢から目覚める。そこは見慣れた部屋で、月の光が差し込んでいる。怪物はどこにもいない。全ては空想そして心臓はまだドキドキしている。



「完全に同化じゃねーかチクショウ! 俺っちもまだ経験した事ねーんだぜ、どんな気分何だよ。教えてくれよう姉御にサタの兄貴ぃ」



 同化した気分、未だ解明されていない脳領域。ただし、脳波測定をダンタリアンが行なった際は中脳のドーパミンが薬物を使用した時ほどの異常放出されていた事から、幻覚や夢に近い何かの反応が起きているのだろう。



「いずれ経験できるようになるさ。同化する事だけが読書の楽しみ方じゃないしね。それより、メアリー・シェリーのこの言葉、どうだい?」



 メアリーはうれしくなってもいた。


 “ようやく物語が生まれてきたからです。“


 メアリーシェリー、フランケンシュタイン。あるいは現代のプロメテウス 

 最初女性が書いた作品という事で笑われていた。

 本当のフランケンシュタインは暴れ回る怪物じゃない一人ぼっちの可愛そうな怪物の物語。

 それが評価されるのにさして時間は必要がなかった。

 二百年前だ。二百年前に人工的に作られた命が葛藤する話を考えた女流作家がいたのだ。



「一人ぼっちの可哀想な怪物。まだ夜の闇が深く、女性の身分が低かった頃、女流作家は一人ぼっちの怪物だったのかもしれないね」



 サタは呟く。それにダンタリアンは大きな口を開けて笑うのだ。



「女性は今だに怪物だよ。色香に惑わせ、一国を落としかねない力を持つしね。最初に母がいたんだ。母は女性さ。女性は神なんだよ」



 ダンタリアンの締めくくりに、サタは頭を抱える。それはそれで……



「お前、炎上しても知らないからな!」

『怪物が現れた夜「フランケンシュタイン」が生まれるまでリン・フルトン 作 フェリシタ・サラ 絵 さくまゆみこ翻訳 初版 福音館書店2018年十二月』本作はダンタリアンさんオススメの絵本となります。正直、子供向きの絵本ではないかもしれません。プロメテウスは私も初版から改編版。日本語翻訳版も読みましたが、実に面白いお話でした。メアリー・シェリーさんがどんな想いで作品を書かれていたのか、それを垣間見れた気持ちになりますよぅ^^

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