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不要不急の食事は店屋物 『はこ 著・小野不由美 絵・nakaban 偏・東雅夫』初版2015.5 岩波書店

さて、かれこれまた引きこもり生活ですよぅ! 大抵のスイーツはお取り寄せができるのですが、ヘカさんやダンタリアンさんとスポーツジムに通えないので怖くて体重計に乗っていません。今年はプールでのミーティングは中止だと思いますが、少し運動をしなければ・・・・・・おや誰かこられたようですね。

「さて、わしら関西人の特にオバハンはやたら箱を集めたがる・・・・・・ウチの店におる鬼ババァ、いや狐ババァもアホみたいにブランド物の箱集めとるよな?」



 バストとリオは、店屋物の洋食を前にグラタンをつついているアヌの話に耳を傾ける。リオはハンバーグとエビフライ。そしてバストは大好きなビーフシチューとクリームコロッケを前にする。



「箱?」

「せやで! ウチの鬼ババァのシア姐さんもお菓子の箱とかブランド物の箱とかアホみたいに残し取るからのぉ! 今回は箱の絵本や! それも有名な十二国記とか書いとる小野不由美が書いたこれまた狂った絵本やの! リオ読みたいかぁ~?」

「読みたい! アヌ読んで!」



 アヌはシアの絵本コレクションから一冊の不気味な本を持ってくる。



『はこ 著・小野不由美 絵・nakaban 偏・東雅夫』2015年5月31日初版。


 nakabanの綺麗なイラストから始まる。



「何気にこの怪談絵本シリーズで小野不由美は綾辻行人と夫婦で出し取るんやな! じゃあ読むでぇ! 小さな箱を持った女の子は箱を振るんや!」



 この箱なんだっけ? と絵本は入る。開かない箱を振ってみるとコソコソと音がするのだ。最初のこのシーンはなんだか可愛い。



「小野不由美は、十二国記も有名やけど、ゴーストハントっちゅー結構ヤバイ話も書いとる作家さんや、それ故に期待するやろ? この女の子は雨の日に傘を差して、箱を見つめとる。雨の日にカサコソ鳴ってた箱は開いてた。中身は何処にもない・・・・・・その日にメダカがおったハズの水槽にメダカがおらんくなってるねん。かわりにメダカの餌の箱が空っぽのハズやのに、開かんくなって、振るとカサカサ音がするんや」



 この物語は、箱が閉まる。何かがいなくなる。そして箱が開くとイベントが発生する。小野不由美らしい、進めば進む程に狂った世界に読者をいざなってくれる。



「なんか、黄色一色の画面っすね?」



 ナイフでクリームコロッケを一口大に切り分けてバストは一口。そのあまりのおいしさに表情を緩める。



「ほんまに、ばっすんは可愛いやっちゃのぉ! リオはエビフライの尻尾まで喰うねんな? えらいでぇ! この黄色一面のページ。この後、風が吹く日。メダカの餌の箱が開いとんねん。中には埃しか入ってへんかった・・・・・・なんの埃やろな? 中身はどこへ行ったのかな? って女の子は何かに気づいとる」



 次のシーンは女の子が机の引き出しを引こうとして開かないシーンから始まる。彼女はこう語る。

 ハムスターが逃げちゃった・・・・・・と。そして引き出しが開かない。女の子はここにいるの? そう言ってノックする。するとカサコソ、音がするのだ。



「まだ、この時点では生きてるんすね・・・・・・」



 次のページをアヌが開くと、リオはビーフシチューに舌鼓を打っているバストに抱きついた。



「バスト、怖い!」

「うん、ヤバイっすね・・・・・・」



 アヌは少し声のトーンを落として絵本を読む。そのページは真っ黒描写に白いかけら。それは曇りの日、開かないハズの引き出しが開いたと書かれていた。中には小さな骨のかけら。そう、ハムスターはそこで餓死し、骨だけになった。



「女の子は、そのハムスターの骨らしきものを見せて、おかんに話そうとするんや! でも、おかんは、そんな事より犬がおらへんという! 犬やでぇ! 犬は大事やでぇ! せやから、おかんは犬を探してって言うんや!」



 ぴょこんとアヌの耳みたいな癖毛が立つ。この時点で女の子は、家にいるペットが消える時、なんらかの箱が閉まる事に気づく。



「家にある箱を色々探すんや! でも、よく考えたら犬は箱に入る大きさとちゃう。でも女の子は不吉に思ってこう呟くんや」



 犬がいなくなっちゃった。次はどの箱がしまったの? と・・・・・・部屋から犬小屋のある庭を見て女の子は心配している。そこでやはり、箱には入らない。犬は何処にいったのかなって思う。



「家の赤いクローゼットがある描写や・・・・・・このクローゼットが開かなくなっとる事に気づくんや・・・・・・ノックすると」



 ベチャベチャ音がすると書かれている。例えば、犬が普通に生きていたとすれば果たしてそんな音がするだろうか?



「アヌさん、この中の犬・・・・・・瀕死なんじゃねーすか?」



 たとえば、クローゼットの中からぺろぺろなめている音だとすればぺちゃぺちゃなど、そして身動きをとっていればごそごそ。しかし、ここではべちゃべちゃ、予想するに虫の息で血だらけの犬が動いた時の音・・・・・・なのではないだろうか?



「ここで驚愕なんわ、女の子がクローゼットの中を見て唖然としているシーンやな。読者にはクローゼットの中は見えへんけど、十分狂った事が起きとる事がわかる・・・・・・それもこの一文や」



 誕生日、クローゼットが開いていた。

 女の子の誕生日に、犬を・・・・・・と。



「アヌ、バスト。この女の子の家。誰かが生き物を殺してるんじゃないの?」



 リオの考える事は、恐らく小野不由美が読者をそう誘導したい一番の道筋だろう。不可思議な事が起きているというより、女の子も何かに気づいている。

 次のページは女の子が橋か、道を渡るシーンなのだ。



「女の子はかなり頭がいい子なんやろな? 不安になっとる」



 また誰かいなくなるの?

 また何か開かなくなるのかな? と・・・・・・そして本作で最も謎のシーンがこの次のページとなる。



「なんすか? このシーン」



 文字は書かれいない。

 小学校らしい教室の真ん中の席で、ホールの誕生日ケーキを前に座る影。これは女の子なのか・・・・・・あるいは何かを意味しているのか・・・・・・



「女の子は、もう自分の家にペットが他におらん事で、焦るんや! せやから走って家に帰る。おかんが・・・・・・お母さん消えてしまわないかな? ってな。子供からしたらおかんは世界そのものやからな・・・・・・いなくなったら嫌やろ」



 少女の不安は、安堵に変わる。そして読者はそこはかとない恐怖を感じながら、家の前で母親を見つける少女の描写を見る事になる。



「ここでミソなんは、一言」



”いた” 


 この表現は、心の底から女の子がお母さんがいて良かったと感じているシーンなのだ。そして物語はクライマックスを迎える。



「おかんは、女の子に用事があると言うんや。そんで鍵を渡される。お留守番しててねってな」



 アヌはページを開かない。リオはハンバーグをぱくり、バストはビーフシチューの人参にデミグラスソースをたっぷりつけもふっと食べる。

 アヌは暗い表情でゆっくりと次のページを開く。それは少女が家という名の箱に閉じ込められている描写。


 ”また誰かいなくなるの?”

 

 と綴られ、物語は終わる。この作品は何かがいなくなる。箱が閉まる。箱があく、いなくなった生き物がそこで死んでいる。



「これって、この女の子のお母さんが・・・・・・生き物を全部? 生き物だけじゃなくて・・・・・・自分の娘も?」



 この物語、核心を突く事を語ろうと思うが・・・・・・これは物語のオチというわけじゃない。ふしぎのくにという一読者の一見解であると考えてほしい。



「メダカは水の中におれへんとすぐに死んでまうわな? ただな? 餌の箱、カラやねん。ようするに餌与えられへんくて死んでもうたんを、箱にいれておいたらどうなるか? かっすカスの埃みたいになるねん」



 そう、続いてハムスター、最初こそ元気だったが、当然餌が無い状態で引き出しに閉じ込められているのだ。すぐに餓死し、骨だけになるだろう。



「犬・・・・・・これが賛否両論あるかもしれへんけど、べちゃべちゃ音がするんんわ。このクローゼットの中で色々もよおしていた可能性かもしれへんな? で、餌ないからこの犬も非業の死を遂げとる・・・・・・これな? 孤独死する人間の部屋ににとんねん」



 特殊清掃員が観る世界というものが最近有名だが、人間の死体以外は放置されている。大抵干からびているか、大量のハエがたかっている。



「この家、貧しいか・・・・・・あるいは母親が他に男作って女の子を捨てたか・・・・・・異様なくらい胸クソ悪い事を連想させてくれる物語なんやな?」



 美味しいハズの洋食の味がしなくなってくる。バストはアヌに思い切って質問をしてみる事にした。



「この女の子のいる家が開く時って・・・・・・」

「警察や、児童保護の職員が突入した時やろうな? まぁ、その時にはもう女の子の魂はそこにはないかもしれへんけど」



 例外なく箱が開いた時に何者かが死ぬのであれば、最後の箱である家に閉じ込められた少女は飲まず食わず、出る事も許されず。

 死に方としては最も非業の物を遂げる事になる。



「アヌさん! さすがにこの本はやべぇっすよ! くうきにんげんとか、いるのいないの? とかあれらの非じゃねーっすよ」



 小野不由美は、ゴーストハントしかり、見つからない死体。みたいな表現や描写を好む。恐ろしい物というのは身近なのに手の届かない場所にある物というアンチテーゼを描く。

 十二国記なども実はそういたメタが多くちりばめられている。

 日本人の男の子が麒麟になるのだが、まぁまぁ精神にくる。



「この作家は、人間の狂気みたいなもんを形にすんのがめちゃくちゃ上手い。これは絵本やなくて、小説でも読めるれべるのヤバさ」



 アヌはもう冷えてしまったグラタンを母屋の電子レンジで温め直すと、洋胡椒とタバスコを一ふりしてから一口食べる。味がまだ足りないかとプロセスチーズをこれでもかという程のせてオーブントースターで焼いた。



「飯喰ったらプリンが冷蔵庫にあるからのぉ! 楽しみに・・・・・・ってどないしたばっすん! リオ!」



 二人は食欲というものを完全に失ってしまった。恐ろしく面白い本作ではあるが、あまり食事時に読む事はオススメしない。



「ほんまに、ばっすんも、リオも感受性が強いのぉ! おらんハズの腐乱死体を想像して胸と灰がやられとるやんけ! じゃあ、気を取り直して。次の本は有名な俳優が書いた絵本や! ワシも大ファンやでしかし!」



 多くの人々が知っているその俳優が書いた絵本を取り出すアヌにバストは残りの力を振り絞り突っ込んだ。



「また怪談えほんじゃねーすか!」

『はこ 著・小野不由美 絵・nakaban 偏・東雅夫』初版2015.5 岩波書店

こちらですが、得もしれぬ恐怖。幽霊とか、妖怪とかそちらではない人間の暗黒面を感じる絵本となります。シアさん一推しの作品となります。そして、次回ですが・・・・・・ダンタリアンさんが持ってこられた海外の絵本をご紹介します!

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