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時は令和、図書館デートに候 『いるのいないの 著・京極夏彦 絵・町田尚子 偏・東雅男』初版2012.1 岩波書店

皆さん、耳をすませてみてください! ついに、蝉さんのご起床のようですねぇ! みんみん、わしわし、夏の音です。蝉さんの生体もずっと分らずじまいでしたが、最近になって一月以上生きられるという事も判明されましたね! だって、私も蝉さんが樹液をなめている姿を公園などでも見た事がありました。ですので、食事をしている以上長く生きられるんじゃないかと思っていましたよぅ!

「さて、ヘカさんに洋服を見立てて頂きましたが、これは果たして普通なんでしょうか?」



 前日はお店を早く閉めて、美容院に行き、渋谷で不定期で働いているヘカに見立てて貰ったワンピースを着て普段は店主と客として出会う相手を待っている。

 リュックサックを背負った少年。その少年の姿を見るやセシャトの表情が段々と明るくなる。



「秋文さーん!」



 倉田秋文君、セシャトが店主である古書店の一号店『ふしぎのくに』の常連客である。今日はセシャトの申し出で図書館に行かないかと秋文を誘い、セシャトに好意を寄せている秋文は二つ返事でそれに応じ今にいたる。



「待たせましたかセシャトさん?」

「いえいえ、今来たところですよぅ! 神様に両国国技館の焼き鳥、ヘカさんにごまたまごとお土産を見繕っていました。さて、本日は私のお店ではなく、東京都中央図書館です。楽しみですねぇ! 新旧沢山の本に囲まれて一生かけても読み切れない程のテーマ・パークですよぅ!」



 セシャトからすれば千葉にある夢の国よりも図書館の方が何日でもいれる夢の国なのである。それ故、あえて通う事は自粛していた。

 簡単に東京都中央図書館について説明しよう。東京メトロは日比谷線は広尾駅から徒歩五分にありWi-Fi完備は当然、ありとあらゆる資料を見つける事ができる作家としても重宝する大型図書館、風景も東京タワーが見えたりデートスポットとしても中々である。

 そんな図書館に到着した二人。



「さて、秋文さん何を読まれますか?」

「う~ん、僕。セシャトさんが読む本を一緒に読みたいです」



 おやおや、それは難しい質問だなとセシャトは思う。図書館という場所は同じ本を数冊同時に置いている事は希なのだ。ごくまれに同じ本を置いている事もあるが、中々のレアケース。そんな中でセシャトは一緒に読める本を考え、数週間前の古書店ミーティングを思い出す。



「では、絵本にしましょうか?」

「え、絵本ですか? ・・・・・・僕、さすがに絵本はもう読まないんですけど」



 秋文にセシャトは微笑むとウィンクをしてみせる。



「秋文さん、絵本は実に奥深い書物ですよぅ! まさに起承転結のルールを守りながら短時間でしっかりと記憶に残してくれる文章と挿絵です。当方でもミーティングでお話をして話題に上がった作品をご紹介しましょう。アヌさんがオススメの作品です」

「えっ? アヌさんの?」



 セシャトはふふふのふと微笑むと一冊の本を取り出す。少年が上を眺めている陰鬱な表紙にある絵本を見せた。『いるのいないの 著・京極夏彦 絵・町田尚子 偏・東雅男』初版2012.1 岩波書店。



「ホラー小説の第一人者。京極夏彦先生の作品です! では少し読みますねぇ!」



 セシャトは絵本の読み聞かせを、自身の店でたまに行っている。オヤツなんかも配るし、やってくる親御さん達はセシャトが好きな甘いお菓子を差し入れしてくれる事もあり、案外盛況。



「まず、本作はこの表紙の少年が、お婆さんの家で暮らす事になるというところからはじまります! 夏休みなどに遊びにきたわけではなく、暮らすんです」



 そこで秋文はドキンと気づく。セシャトが何を言いたいのか・・・・・・図書館内のエアコンが妙に寒く感じる。



「男の子のお父さんとお母さんは?」



 とても古い家に鞄を持って男の子は家に入る描写。秋文の質問にセシャトは少しだけミステリアスな表情を見せてからこう返答。



「分りません」



 本作が恐怖を煽るところは、ほとんど何も背景があらゆる事に関して分らない事である。人間は知的好奇心の塊、それを寸止めさせる事で得られる新しい恐怖の形である。



「猫さんは可愛いハズなんですが、恐怖を煽る時にはよく用いられます。猫は化けて出るなんて言われてるからでしょうか? とにかくこの家には猫さんが沢山います」



 縁側から庭を見てこの家が全部木で出来ている。床は板と畳だ。天井は高く、柱は太くその先は暗い。男の子は恐らく以前はマンションにでも住んでいたのかもしれない。



「そんな天井をジュースを飲みながら、眺めてお婆さんに話しかけます」



 恐らくは十数メートの高さがある天井。太いハリを眺め、大人が台に乗っても梯子をかけても登れないそこに少年は高いね? と尋ねるとお婆さんはあぁ高いよ届かないよと返す。



「男の子は天井にある小さな窓を見つけます。そしてそこを中心にハリには電灯があり、上の窓より少し明かりが入ってくる事に気づきますが、それでも暗いです。男の子は上の方は暗いねぇ? と尋ねますが、お婆さんは”でもほら下の方は明るいよ”少し支離滅裂な返しをされるんですよね」



 チラリと秋文を見ると、秋文は食い入るようにセシャトの持つ絵本を眺めている。それにセシャトはしめしめと、大好きなお客さんである秋文との読書を楽しむ。

 ここの挿絵は逸品である上から下を眺めた描写なのだが、少年は恐る恐る上を眺め、お婆さんは確認できるだけでも13匹の猫に餌をあげている。



「秋文さん、この13匹の猫。覚えておいてくださいねぇ! 考察サイトでも誰も気づかなかった事をアヌさんが指摘しているんですよぅ!」

「下の方が明るいならまぁいいか・・・・・・って男の子凄い胆が据わってますね・・・・・・でも結局気になってますね・・・・・・僕も怪談とか聞くとトイレとか怖い時があります」



 気にするなと言われれば気にしてしまう人間の性である。少年はお婆さんに天井に登った事があるか聞いてみるが、当然高すぎるので登れるわけがないと返答する。



「こちらの挿絵をみてください。物が多すぎるというより、完全にゴミ屋敷なんです」



 年老いたお婆さんだけだから片付けが滞っているというには酷すぎる部屋の描写がされる。散らかっている部屋は霊を呼びやすいと、当方シア姐さんが語っていたが、その表現なのかもしれない。あるいは・・・・・・この家は・・・・・・



「もしかして本当は誰も生活していない家なんですか?」

「わかりません」



 二度目の分らない。



「ある日男の子はハリの上の暗がりをみているんですが、この描写が実に怖いですねぇ!」

「うん、ちょっと不気味です。ここで男の子は気づくんですね。窓の横くらいに怒った男の顔があったと・・・・・・ですが、控えめに言ってここの男の子挿絵が凄いんですよね」



 このページの男の子の挿絵は、本作最高に怖い。なんならオチのオッサンより怖い。怖いというかヤバイ! 是非読んで欲しい。

少年は逃げ出した描写。そこで気になるのが、奥に森と神社が一緒になったような場所がある。そこで書かれた文字は一言。


”怖い”



「男の子はお婆さんに聞くんですよね! 天井のハリのところに誰かいるよと尋ねるんです! ここ挿絵がまた怖いんですよ」



 一見すると何の変哲も無い庭。作業道具の類いが並ぶ。ビニール手袋とホース、そしてスコップ。おわかりいただけるかもしれないが、死体処理に必要な最低限のアイテムを日常の物でチョイスされているのだ。



「どういう事ですか?」

「ふふふのふ! アヌさんやバストが私達に教えて頂いたんですが、秋文さんももっと成長されたら気づけるようになるかもしれませんねぇ! ではこのご本は借りて喫茶店で読みましょうか?」

「えぇ! 教えてくださいよぅ」



 セシャトは秋文と手を繋ぎながら近場にある喫茶店に入る。本を読むならカフェよりやはり純喫茶。それも個人経営の店なら尚良い。

 スナック・喫茶と書かれているお店を指さしてセシャトは言った。



「大人のお店ですねぇ!」

「こんなところ入っていいんですか?」

「お昼は喫茶店、そしてこういうお店の珈琲は実に良い物をお手頃価格で出していただけたりします! こんにちわぁ!」



 がちゃりと開けると、そこにはセシャトのよく知る金髪のちんちくくりんが黒髪ロングにうさ耳カチューシャの少女がフルーツパフェを食べさせているシーン。



「ほれ、神様。あーん」

「うむ、あーん!」



 ガチャリ。セシャトはこんないかがわしいシーンを秋文に見せまいと、秋文の手を引いて公園へと向かった。



「たまには缶入りのジュースも悪くないですねぇ! では公園のベンチで読みましょうか?」



 ページをめくりセシャトは語る。



「お婆さんは、男の人の事を相談すると、見たのかい、じゃあいるんだね。と答えるんです。ここはミソです! 見えたのかい? ではなく、見たのかいなんですよねぇ!」

「お婆さんはその男の人の事を知っていたって事なんですか?」

「・・・・・・そこも、分りません。男の子は、アレは何と聞くんですが、さぁ、知らないよと、男の子は思うんです。知らない人の顔なのか、怖くないのか? それにお婆さんはこう帰します」



”上を見なければ怖くないよ”

”見なければいなくなるの?”


 男の子は歯を磨きながら、そんな質問にお婆さんは首をかしげてこう言う。



「さぁ、見ないからいるかいないか分らないよと、これが第四の分らないです」



 廊下の挿絵がされる。これまた気持ち悪い程猫がいる。



「でもいるかもしれないよ。それは怖くないの? それに何もしないから怖くないさと、確実にその存在を示唆している事を返す反応をされていますよね?」

「お婆さんってもしかして・・・・・・その男の人の関係者なんですか?」

「分りません。ですが、何もしてこないのか? という男の子の質問に、しないよ。だってあんなに高いしね。見なければいないのとおんなじだ・・・・・・なんて言ってしまいます。ある種長く生きてこられた貫禄故なのかもしれません」



 最後の最後まで老婆は怪しく謎で、やや不気味なのだ。

 ラストは少年の部屋でここにも猫がいる。



「猫の種類にヒマラヤンがいるのが、挿絵を描かれている方の猫好きここに極まれりですねぇ! そして寝る時に上を見るんです」



 でも見ちゃう。いるかもなと思うと見ちゃう。

 見たら。見たら見たら



「見たら怖いさ」


”いるからね”


 怖い顔をした男が男の子を上から眺めている描写で終わる。この男が何者で何を物語っているのか全てにおいて分らない。



「うわぁ! 怖かった・・・・・・でも、絵本。面白かったです」

「実はこの物語の終わりはここではないんです」

「えっ・・・・・・」

「最後のページをめくった先に猫さんが一杯います。数えてみてください」



 一、二と秋文は数え、その猫の数を答える。



「十四匹です」

「えぇ、この作品内で十三匹以上の猫が描写されるシーンはないんです・・・・・・もしかすると十四匹目は男の子かもしれません」



 これは、当方の勝手な想像でしかなく、本来の意図とは全く違うのかもしれないが、京極夏彦氏が書かれているわけで、可能性は多いにありうる。

 絵本をポンと閉めて、何処かで甘い物でもと思った二人の元へ、神様と手を繋ぐ黒いロングヘアの少女が公園にやってきた。

 そして二人は砂場の前までやってくると両手をにぎり少女は語り始める。



「今日は、神様。付き合ってくれてありがとう。これで成仏できる。思い残しはもうない」

「そうか、それは良かった。良い旅をな?」



 夕方、十六時。逢魔ヶ時と呼ばれる時間の始まる刻。セシャトと秋文の目の前で明らかなオカルトが展開されていた。セシャトと秋文に気づいた神様は、蓮華微笑を向けて公園を去って行く。

 季節外れの木枯らしが吹いたそんな初夏。

さて、今回はアヌさんのオススメ『いるのいないの 著・京極夏彦 絵・町田尚子 偏・東雅男』初版2012.1 岩波書店 有名なホラー絵本ですねぇ! 今回は皆さんのオススメの絵本紹介となるんですが、最終回はシアさんのオススメです! これはぐっと来ました! 是非皆さんのオススメの絵本を教えてくださいね!

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