縁側でイチジクを食べながら 紹介作品・『まさ夢いちじく 著・クリス・ヴァン・オールズバーグ 翻訳・村上春樹』初版1994.9 河出書房出版
さて、皆さん7月梅雨真っ盛りですねぇ^^ 雨の音、実は私結構好きなんですよ、雨の音を聞きながら好きなクラシックを聴いたり、珈琲を飲んだり、小説を読んだり、もちろんWeb小説を読んだり、雨が上がるとお散歩に、季節を皆さんはどのように楽しまれていますか?
リオはぶらぶらと縁側で足を振りながらスイカにかぶりつく。その横でアヌも並んでスイカのタネをぷーっと飛ばす。
「アヌ凄い!」
「そら、リオと年期ちゃうからのぉ! しっかし、リオ。お前はなんや? 生き霊とちゃうし、地縛霊的な奴でもないし・・・・・・」
バストはスイカバーを囓りながら呟く。
「水子・・・・・・っすかね?」
バストの核心を得た推理にアヌは頷く。スイカを食べ終わったリオはアヌとバストににへらと微笑む。害意はないのだが・・・・・・二人はリオに取り憑かれている。
どうしたものか・・・・・・
「リオ、お前どないしたら成仏するんや?」
「えー? わかんなーい! それより、何か絵本のお話してー」
あぐらをかくアヌの膝の上にのって嬉しそうにするリオにアヌは片目を瞑ってから、バストに言う。
「ばっすん! 冷蔵庫に何か果物あるか?」
「イチゴにスイカに、イチジクにマンゴーあたりがまだ入ってたはずっすよ」
それらを聞いて、アヌはリオの頭をぽんぽんと撫でてから話す。
「イチジク・・・・・・か、リオ。イチジク食うた事あるか?」
「ない!」
「そかそか、ならちょっと怖い話したろか? ばっすん! 『まさ夢いちじく 著・クリス・ヴァン・オールズバーグ 翻訳・村上春樹』初版1994.9 河出書房出版。持ってきてや!」
ご存じだろうか? 少し怖いというより奇妙な絵本。
まさ夢いちじく。
作者名を聞いてもあまりしっくりこないだろうが、翻訳者の村上春樹はハルキストなる信者がいる程度には超有名な作家だろう。そして本作は知らなくとも、映画『ジュマンジ』という作品を知っている人は多いんじゃないだろうか?
大傑作の奇妙なボードゲームの物語。
そう、ジュマンジの原作者なのである。当然というべきか、このまさ夢いちじくもまた中々に面白い話なのだ。
「じゃあ読むでぇ! 主人公は歯医者のムッシュウ・ビボットや! まぁそこそこ腕のいい歯医者なんやろな? そこそこえぇ服きて、犬も飼うてる。まぁ中流の生活をしとるこのビボットの元に夜中に尋ねてくる婆さんが来るねん!」
おばあさんは虫歯が痛いとビボットに助けを求める。ビボットは診療時間は既に過ぎているからと断るが、おばあさんがなんとかしてほしいと言うので、ビボットはおばあさんの虫歯を確認し、虫歯を抜く。
「いい人っすね! ビボットさん」
「まぁ、やや性格に難ありやろうけど、医者やから! しかし、この婆さん、金持ってへんねん! かわりに夢見た事が現実になる不思議なイチジクで払うと言うんや! そんで二つイチジクおいて行くんや」
リオはそのイチジクが分らないので、絵本に書かれている果物を見て、これなのかと考えていると、バストがお皿に載せてイチジクを持ってくる。
「わぁ、可愛いね! バスト」
「そうっすね! それに甘くて美味しいっすよ! このイチジク。無花果と書くんす。花のない果実は珍しいっすね! じゃあこのイチジクを食べながらアヌさんの話の続きを聞きましょうっす!」
イチジクを切り分けて、フォークで刺すとリオに食べさせ、絵本を開くアヌにもバストは食べさせる。
「もむもむ、ほどよく甘いの! 続きな? ビボットはまぁ、当然怒るわけや! アホかぁ! 何処のどいつが金なくて医療受けれると思うとんねん! ボケぇ! 帰れぇ! ってな。婆さんは、まさかの痛み止めをくれと言うんやけど、ビボットはやらずに帰ってもらう」
作品の時代を考えても1960年代~70年代くらいのフランス。もう貨幣経済の時代で物々交換なんてする事はない。
「まぁ、ビボットさん滅茶苦茶大損っすね」
「ビボットかわいそー!」
幼女リオすら、不憫に思うビボット。アヌはしししと笑いながら続きを読む。ビボットはその日の晩、戸棚に入れておいたイチジクを夕食後のデザートに食べるのだ。
冷たくて、甘くて実に美味い。医療は損をしたが、美味しいのでまぁいいかと。
不思議な夢を見る。そんな事を気にする事もなくビボットはお気に入りのスーツにステッキにとお洒落をして犬の散歩へと街に繰り出す。
「するとな? エッフェル塔が曲がっとんねん! そして信じられん事にビボットはパンツ一枚で散歩している事に気づくんや! あっ、コレ。ワシが見た夢や! ってな! どんな夢みとんねんな! アホか!」
アヌの読み聞かせは一人ノリツッコミをするのでリオは大笑い。アヌは紙芝居や絵本読み聞かせが異常にうまい。
「ビボット君は、恥ずかしい思いをするけど、冷静に婆さんの言う事を思いだす。これや! これ喰って寝た夢が正夢になるんや! やべぇ! これで勝つる! ってな! それでビボット君。自己暗示の勉強をするんや。大金持ちになる夢を見る為に何度も何度も練習を重ねて同じ夢が見れるように特訓するんや!」
静かに、こっそり言うようにアヌは語る。ビボットは少し傲慢な性格ではあるが、歯医者としての腕もそこそこあり、そしてまさ夢イチジクの効果を最大限に活用しようと練習する努力家でもある。
「結構頑張り屋さんっすね! ビボットさん」
「せやな! 何故か飼い犬に異様にあたりが強いけどな! ワシも犬やから、これに関しては遺憾に思うんやけど、それ以外はまぁ普通のやっちゃな!」
「アヌ、犬なの?」
「細かい事気にすんな。リオなんか、幽霊的な奴やろーが!。じゃあ続き読むでぇ! みんなイチジク喰いーな!」
言われるがままに甘いイチジクを食べる。なんというか、柿のような甘さでも、リンゴのような甘さでも、南国フルーツのような甘さでもない独特な甘さ。
「知っとるか? イチジク、別名は蓬莱柿って言われてな? 中国から昔の日本は輸入しとったんや! 日本や中国で言われる桃源郷の蓬莱。これチャンドラマハルの事や、要するに月の都・アラビアの事やな? 当時は礼節の国やった中国や日本からしたら、エキゾチックなアラビアはほんまに桃源郷に見えたやろ? ワシ等小説書きからしたら、異世界はずーっと遠いところやけど、昔の人からしたら異世界は生涯かければ行けるかもしれない距離の場所やったんやな? 逆に黄金の国・ジパングも日本の事やしな」
実際のアヌさんは歴史家であり、炭素測定などの理系考察から歴史を読み取るような事を行われていた為にわりと世界史や日本史について明るい。
絵本一つからよくまぁ引き出しがあるものだなとバストは思う。やや不気味さを煽るイラストだが、アヌが読み聞かせる事で実にコミカルに聞こえてくるのだ。
「よっしゃああ! もう完璧や! 今日、ワシは金持ちになる! とビボット君はその日にまさ夢いちじくを喰うて、寝ようと思うわけや! あんまり長い事置いてたら腐ってまうしな? もちろん連日、やたら飼い犬に当たりの強いビボット君。そんな当たるなら犬飼うな! 動物虐待反対やー! とまぁ、そんなビボット君の願いはかなわへんねん! 飼い犬がまさ夢イチジクを喰うてまう」
本来であれば飼い犬を殺害しかねない程の事件だが、ビボットは飼い犬に罵声を浴びせる程度で大金持ちになる夢が潰える。
「まぁ喰われてもうたもんはしゃーない。短い夢やったとビボット君は枕を涙で濡らすんや!」
「あんがい、ビボットさん、いい人っすね」
「リオなら泣いちゃうよ」
ビボット君の株がどんどん上がっていく。が、この絵本はそういうところを全面的に出しているのではない。ビボット君は普段から犬にやたらと当たりが強い。そしてどうも傲慢なところも見て取れる。
そんな人物にしっぺ返しはやってくるのである。
「目が覚めたビボット君は、なんか、ベットの下におる事に気づくんや。なんやここ? 出なアカンと思ったら目の前に革靴。そしてのぞき込んでくるのは・・・・・・ワシや! ワシがおる! とベットの床のスキマからビボット君が覗きこんでるんやな? そこでビボット君は何が起きたか気づくんや!」
そう、前日にまさ夢いちじくを食べたのはビボット君の飼い犬。その飼い犬は毎日のように強い当たりを受けていて、自分がビボットでビボットが犬だったら良かったのになと思い続けていたらしい、そしてそれを夢に見て・・・・・・まさ夢いちじくが叶えてしまう。
「まぁ、もしビボットがもっと犬を可愛がってたら、犬はビボットと一緒に幸せになる夢でも見たかもしれへんな? 悪い性格はいつか滅びを産むで! というお話やな」
世にも奇妙な物語にでもありそうなやや不気味で奇妙な物語。クリス・ヴァン・オールズバーグの作風はこのような物が多い。最終的に持ってくるオチも古き良きものから、やや斬新な物まで多岐にわたる。
是非、オススメの一作を探してみてほしい。
「さて、お前等。今日喰うたイチジク。ほんまはまさ夢いちじくやねん!」
バストは呆れた目で見るが、リオは心底驚いた顔で、ごくりとイチジクを飲み込んだ。アヌは作品を読み終えてもその世界感で作品を楽しませてくれる。保育士にでもなった方が天職なんじゃないだろうかとバストは考えながら、甘いイチジクをパクりと食べた。
「アヌ、どうしよ! リオ、生まれてこれるかな?」
「・・・・・・うっ」
まさかのカウンターパンチを喰らうアヌ。面白おかしくそして子供を少しだけ驚かせてやろうと思った発言が、なんともデリケートなところに届いてしまった。
アヌはリオの頭に手をのせてから少し考えて言う。
「さぁ、どうやろな? 生まれ変わる事はできるかもな」
死んだ後の事なんて当然、生者であるアヌもバストも知るよしがない。一人ばかし神を名乗るちんちくりんがいるが、アテにはならないので論外。リオは残りのイチジクも食べると、何度も何度もお祈りをしてから母屋の仮眠室へと向かう。
「アヌさん、アレどうするんすか?」
「あぁ、アレなぁ・・・・・・スーパーで特売してたイチジクやしなぁ・・・・・・昔、ワシがもろたイチジクやったらまだしものぉ」
バストは、アヌが口を滑らせたパワーワードを聞き逃さない。アヌは時折犬の耳のような癖毛をピンと跳ねさせる。
「えっと・・・・・・もしかして、アヌさん。元々犬でまさ夢いちじく食べて今の姿になったんすか? まじすか?」
「えっ? 知らんかったん? 言わんかったっけ?」
驚くバスト、まさかこの本に書かれている事は事実だった。というか、これはアヌを元に描かれた絵本だったのかと、空いた口がふさがらないバストにアヌはぽんぽんと頭を叩いてから言う。
「冗談に決まっとるやろ!」
ふふふのふ! 今回は私のオススメ『まさ夢いちじく 著・クリス・ヴァン・オールズバーグ 翻訳・村上春樹』初版1994.9 河出書房出版 ですよぅ^^ 私はオールズバーグさんの世界感が結構好きなんです! ちなみに村上春樹さんの作品も殆ど読ませて頂いています。村上春樹さんの翻訳は分りやすい物が多くて、これもグットですよぅ! 是非、一度図書館などで見かけたら読んで見てくださいね^^