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古書店『ふしぎのくに』の業務日誌  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 『夏に泳ぐ緑のクジラ 著・村上しいこ』初版2019年7月29日
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カレーを食べる時には片手に本を

さて、大型台風がやってきましたが、九州方面の方は大丈夫でしょうか? 東京の方は晴れていますね! さいきん、古書店『ふしぎのくに』では地元のお店でお金を少しでも使いましょう。という事でお食事代を頂きました。コロナの影響で閉店してしまうお店が少しでも出ないようにしていければいいですねぇ!

「うへぇ、アヌそんなにラッキョウ食べるんだ?」



 共栄堂のスマトラカレーをアヌとたおは食べにきている。裏メニューにポークなしポークカレーという物があるが、店に迷惑がかからない程度に注文する事をオススメする。



「ここのカレーめっちゃ美味いやろ! 実は……このラッキョウも超うまいんや」

「うん、でもほんとに美味しい。私カレーってこんな上品な食べ物って思わなあったなぁ」

「アホやなぁ、カレーは昔は洋食の王様、上流階級の食いもんや!」

「あ! またアホって言った!」



 アヌはしまったなと思った。ここは東京、アホと言われて気分を害する人が大半なのだ。



「あれや、ワシら西の人間が、普通の会話中にアホ言う時はちょっと天然で可愛いっちゅーことや」



 相手がかわいくてバカだなぁという感じに似ているのだろうか? それをきてまんざらでもないたおはカレーを一口。



「つちんこは、お京に、お前の頭の中みたいに空っぽって言って笑ってくれると思った事になんだか似てるね?」

「せやな」



 お京は今時の子、昭和の人は自虐のギャグが好きだったかもしれないが、今の人間はそうでもない。つちんこに笑ってくれると思ったと言って、昔の人はそうだったかもしれないというお京。普通に失礼だと彼女は言う。



「ここは、お京がやや大人に感じるな」

「私より?」

「当たり前やろ。だってコレ書いてんの、えぇ大人やぞ。物語の子供は明らかに精神年齢が高い。これは物語を進行する為に仕方がないのと、書いてる人間の年齢に左右される部分があるの」



 そういう物なんだと言いながらたおは楽しそうにカレーを食べているが、ふと気がついてアヌに言う。



「ねぇ、これいいの?」

「読書しながらカレー食うのがか? そもそもカレーは本読みながら食べる食い物やから何も行儀悪くないよ」

「違うくて、売り物の本持って来ちゃってるけど」



 アヌはそっちかとうなづく。



「えぇよ別に、もしたお買わなくてもワシが買うわ」



 アヌの家の書斎数千冊は小さな児童文庫と言っても過言ではない。本当に貸し出ししてくれるから笑い物だ。ボロボロになってもそれが本の命やと笑ってくれるアヌ。



「おかっぱって嫌だなぁ、お京可愛そうじゃない?」



 たおは綺麗なストレートのセミロング。大抵の女子が憧れそうだ。そして見せるための青いキャミが若さを感じる。



「女の子はどんな髪型でもかわええよ」



 そう言ってたおの頭をポンとてを置くアヌ、それと同時に店内に入店者。それを見てアヌは「おっ、噂をすれば」と笑った。



「欄ちゃん! ヘカが今日ジャンケンで負けたのはわざとなんな! 本当はスマトラのカレーが食いたかったん!」

「はいはい、ほんとヘカ先生めんどくせーっすね」



 おかっぱに黒いゴスロリの少女と、極めて露出の激しいショルダーカットされたシャツとぴったりとしたデニムを履いた癖毛の美女のツーショット。



「おーい姉さんら!」



 アヌの呼びかけに反応した二人。美女は人懐っこそうに手を振り、少女はじとっとした目で見つめ、近づいてくる。



「アヌさんなん。こんなところで何してるん?」

「お客さんと店外、読書や」



 ペコリと頭を下げるたおに美女・欄も丁寧に頭を下げた。



「こちらはヘカ先生、自称天才Web小説家っす。で、自分は欄。ヘカ先生のマンションの居候っすよ」



 二人はアヌ達のテーブルに自然に座るとアヌの横に当然陣取るヘカ、そしてたおの横に座る欄。



「『夏に泳ぐ緑のクジラ 著・村上しいこ』なんな。セシャトさんがオススメしてたんでヘカも読んだん。中々痺れるんな! でもヘカの方が面白い小説書けるんな!」



 誰も聞いちゃいないその言葉だったが、ここで知らないのは欄。どんな話なのかと言うので簡単に今までの話をしてから続きを読む。当然二人もスマトラカレーに舌鼓を打ちながら。



「田舎に住めばお婆ちゃんが困る、それを拒めば母親が困る。私はここに捨てられに来たんだ……これ、小説というより、主人公の日記みたいっすね」

「ですです。欄お姉様、ここなんかすごくないですか? お京が自分が邪魔なんだねって言って泣いてるのに、お婆ちゃんは泣いても何も解決しないって言うシーン」

「分かるっす!」



 二人は何故か意気投合していた。お京は邪魔じゃないと言って欲しかっただけだと思っていたが、ヘカがカレーを大きく口を開けてパクリと食べる。



「んまぁいん!」



 目の下の隈が凄い。おかっぱパッツンにゴスロリ。さらには少し痛い子。あんまり自分が好きなタイプではないと思った。だが、たおはよく見るとヘカはありえないくらい白く、そしてありえないくらい美形である事、そして我が道をいくその態度にさらに少しだけ嫌いになった。



「株で失敗して家や娘の貯金に手を出すとかクズなんな! 脳の一部がやられてるん!」



 そしてお京のお父さんについて度ストレートな意見を述べる。心の病気、所謂ギャンブル依存症。



「まぁ、実際ギャンブル依存症は心だけやのーてほんまに脳にダメージ受け取るからな。で、ワシはこの婆ちゃんのリアルな事に驚くは、人生諦めも肝心、そしてお京は諦めないといけない事が増える」

「アヌ、どういう事?」



 アヌは答えるか迷った。されど、そこに口を出したのはヘカだった。



「たおたんの家はお金持ちなん?」

「えっ? いきなり何?」

「お金持ちなん?って聞いてるんな」

「私は知らないけど、多分お父さんとかは社長だから、それなりに持ってるんじゃない?」



 それを聞いたヘカは続ける。



「塾や家庭教師は行ってるん?」

「まぁ、それなりに」

「お金があると様々な教育を受けられるん。一概には言えないんけど、学力も家庭の財力に比例するところが今の時代はあるんな。それが奪われたお京は努力をしないといけないん。でも努力をしてもいい学校に経済面で行けないかもしれないん。それは悲しい事なんな? って欄ちゃんがこの前テレビ見ながら言ってたん」



 そう言ってヘカはデザートの焼きリンゴを注文する。セシャトがカレーの後に三個食べた事は有名な伝説になっているスマトラの焼きリンゴ。是非とも東京神保町にきたら食べていただきたい。続きを読みたおはヘカの言った事に共感してしまう。



「これキツいね。舞波ちゃんは、進学塾の合宿に行くんだ。この子、きっと街のいい高校に行くからなんだろうね……マジきっつい……しかもカイ君? なんかお京みたいに辛い状況だし私、胃が痛くなって来たよ」



 そんなたおの事を3人は面白そうに眺める。小説の楽しみ方として百点の反応を示すたお。



「中学三年生、子供じゃない年齢っすね。そして大人でもない年齢っす。もしかすると一番心が不安定な時期かもしれないこの状況でお京ちゃんは中々厳しい状況に置かれてるっすけど、その辛い状況になっているカイキ君に会おうとしているのはなんででしょうね?」



 素直にカイキの事が心配だから、とたおは言おうとしたが、お京は頼みの綱であった。舞波は自分の事ばかり話し、挙句何故かお京の事を何処か抜けているとイラついて電話を終える。お京の行動は良心からだけじゃない。



「うっわ、自分でこんなこと考えるのホント嫌だけど、多分お京って自分と同じ辛い人とあって落ち着きたいんだよね? 自分だけじゃないって」



 Web小説と出版されている本の違いは媚び方だろう。文章表現もさる事ながら、Web小説と読者の関係性は友人なのだ。これは出版されたばかりの小説にも言える。が、何冊と新刊を出す作品と読者の関係はお店とお客さんくらいの距離感がある。

 だから、ルールに則ったサービスというなのストレスや感動を大いに与えてくれる。今はストレスターン。お京は母親に胸の内をぶつけ、あんたが母親だなんて嫌だとそう言った。



「親は選べないんからな、子供の意見は尊重すべきなん。まぁヘカは両親なんていないんけど、多分そうなんな。プロ野球選手になる夢を持ったカイキの家にきたお京は、そこで折れたバットを見るん……これはどうやら絶望なんなって読者は思うんよ」



 アヌ達、西の古書店員は野球が大好きだ。バストとシアと3人でテレビに向かってタイガースの応援をする。夏の高校野球は地域関係なしにビール片手に応援をする。



「まぁ、想像に容易いよな……そしてカイキはつちんこが見えるし、カイキの部屋にも出て来たな。多分、このカイキの家は誰か死んだ」



 本作はホラーではない。どちらかと言えば純文学寄りの推理物ではないミステリーだ。そして、本作は大人向きなのかもしれない。見たくない人間の本質をお京の語りで覗き見する事になる。

 なんでもかんでもストレートに言うつちんこに時に読者は怒りを覚えるかもしれない。だが、本作に書かれている人間模様のリアルさ、不思議と感じる潮の気配。強烈な倦怠感にも感じる読了欲どれをとっても逸品である。



「なんつーか、自分も物心ついた時から両親って知らねーんすけど、子供にとって親の死は身近な絶望なんすよね」



 ピピピピ! ピピピピ! ヘカのゴテゴテにデコってある最新型のアイフォンがアラームを鳴らす。それにヘカは虚な瞳でこう呟いた。



「欄ちゃん、映画いくんな。『働く細胞』はじまるん」

「もうそんな時間っすか、じゃあいきましょう」



 ヘカはたおをじっと見つめる。それに「何?」と聞き返すたおにヘカは虚な瞳で口元だけ緩めるとこう言った。



「また一緒に何か本を読むんな! 今日は楽しかったん!」



 ヘカのその台詞を聞いてたおは無意識に呟いた。「ヘカちゃん、可愛い……」何故自分が初対面で彼女を嫌っていたのかわからない程度にはヘカを愛くるしく思えた。



「う、うん!」



 たおは手を振る。そして二人がいなくなったところで、アヌに尋ねた。カレーの皿は綺麗さっぱり片付き。冷たい水を一飲みして。



「アヌはどういう関係なの? あの二人と」



 若干彼女面をするたお、ヘカや欄と仲良くなれた事と、男女の関係とは別問題なのだ。それにアヌはコーヒーを飲みながら答える。



「ワシが今研修中の古書店『ふしぎのくに』の店長さんの妹、いや姉ちゃんがヘカさんで、確か国際指名手配犯が欄ちゃんやったんちゃうか?」



 サラっとすごい事を言われて頭が追いつかないたお、アヌは『夏に泳ぐ緑のクジラ 著・村上しいこ』の本を大事そうに抱えてこう言った。



「すんませーん、勘定お願いします!」

『夏に泳ぐ緑のクジラ 著・村上しいこ』ですが、私が自腹でふしぎの皆さんに本を配りました。是非読んで頂きたいなと思いました。次はプロ作家でもあるバストさんのオススメを紹介する事になっていますが、紹介月は未定ですよぅ! こちらでは漫画や詩集なども紹介していきたいなと思っていますので、是非ご連絡くださいね!

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