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童女が来たりて風が吹く 紹介作品・『うさんごろとおばけ・瀬名 恵子』初版1977年あかね書房

今月は、各チームで怖い絵本をオススメしよか! ってなったわけやな! リアル書籍の紹介もおもろいんちゃう? という事で一番槍はワシ等おべりすくや。本来はお蔵入りする企画やってんけど、7月の紹介小説の作者さんが、作品ごと消えてもーてな。何があったんか分らんけど、またワシ等も待ってるでぇ!

 せどりも寄り付かず閑古鳥が鳴く東京神保町の古書店『ふしぎのくに』、そして系列店2号店となる古書の街より移転して天満橋商店街にある『おべりすく』。

 物語はその2号店からはじまる。

 

 店員は二人。書生の様な格好をした動物の耳みたいに癖毛が跳ねている青年と、すらりと高身長のモデルの様な青年。制服みたいな洋服に袖を通し、その表情は少し眠たげ。



「アヌさん、今日の晩何食うっすか?」

「せやなー、湯豆腐で一杯するか?」

「いいっすね。後で豆腐買いに行くっすよ」

「ばっすん香の物と酒、ワシも買うてくるわ」



 書生の格好をした男はアヌ。店長代理で、モデルの様な青年。ばっすんことバストの先輩店員になる。

 そして元来古本屋と違い、古書店と呼べる場所は常連客程度しか寄り付かない。売れ行きで考えれば赤字。そんな古書店にやってきたのは二人の童女。



「いらっしゃいませっす」



 バストは微笑んで二人を出迎える。年齢は九歳、十歳くらいだろうか? 古書店へ来るには中々に場違い感が凄い。



「「絵本!」」



 声を揃えてそう言う二人の童女はセミロングの髪の女の子と二つくくりの女の子。いずれも若さ故かキューティクルが非常に綺麗だ。

 服装は違えど、どこか二人は似ている。

 と言う事は……



「嬢ちゃんら姉妹か?」



 アヌの質問に二人の童女の一人は首を横に振る。もう片方は反応しない。なら友達かとアヌにバストは思ったところ。

 この店に絵本・・・・・・は・・・・・・



「この店なぁ、絵本とかあるにはあるんやけど、嬢ちゃんらが楽しめる様なもんとちゃうて、ヤバげなやつばっかやねん」

「ヤバげなやつ?」

「ヤバげなやつってなーに?」



 無垢な目、純真な瞳でアヌは見つめられから、う〜んと考える。そして、パチンと指を鳴らした。



「せや、嬢ちゃん達。母屋上がって行けや」



 突然の事にバストはアヌを引いた目で見つめる。その瞳に気づいたアヌはアヌが幼女を母屋に連れ込もうとしている風に捉えている事に大きくツッコム。



「アホかばっすん! こんなこんまい嬢ちゃんにワシが手出すわけあらへんやろ! 母屋にシア姐さんの絵本コレクションあるやろ? あれ、借りたらええやん!」



 シア姐さんとはこの古書店「おべりすく」の店主にして二人の雇用主。二人にとっては恐怖の対象である彼女だが、古今東西の絵本を集める趣味がある。

 二人の幼女を母屋に上げるとアヌは森永のミルクココアとカルピスどちらがいいか聞いて二人ともカルピスを所望するので、アヌはウィンクする。



「ワシの作るカルピスは濃いでぇ!」



 バストは備蓄している中から、カルディで購入していたビスケットとチョコレートケーキをお皿に盛って二人の元へ持ってくる。



「こんなオヤツしかねーすけど、どうぞっす!」



 目を輝かせる二人。本来知らない人からお菓子をもらってもついてきては行けません! と言われているが、警察立ち寄り場のシールが貼られている事を免罪符に・・・・・・それに子供は本能的にわかるのだ。相手が悪意を持っているかどうかを……



「で? どんなん読みたいんや?」

「お化けー!」

「お化けが出るのがいい!」

「ほんまかいな? 怖くて夜オネショしても知らんでぇ!」



 そう舌を出して言うアヌを再びバストは引いた目で見る。

 次は顔色を青くして……



「アヌさん、幼女のお漏らし趣味は……流石に」

「いや、何ちゅー妄想しとんねん! 逆に怖いわ! それより、お化けかぁ……せやったら、そら絵本界のお化けの重鎮。”せなせいこさん”の作品やな!」



 ウサギとお化けをこよなく愛する絵本作家・せなけいこ。コミカルで絵本らしい絵本でありながら、大人の心も掴むその技法はやはり見事と言えよう。



「となると! あれっすか? せなけいこ先生の傑作・初版1969年、福音館書店刊『ねないこだれだ』」



 バストはしてやったりの顔をして、シアの絵本コレクションから紫色の本を取り出す。



「そらぁ! 絵本界の俺TUEEEEE、”うさんごろ”やろ!」



 アヌが幼女二人とバストに見せたのは、せなけいこ作の大傑作。うさんごろシリーズの第一作1977年初版作 あかね書房『うさんごろとおばけ』



「ウサギー!」

「ウサギだぁ!」

「嬢ちゃんら、せやで、このおばけより目つき悪いウサギが、うさんごろくんや!」

「嬢ちゃんじゃない! たまき」

「私は……リオ」


 ふたつくくりの童女がたまき、そしてセミロングの少女がリオ。それにアヌは記憶するように頷く。


「さよか、たまきにリオ。じゃあ、僭越ながら読むでぇ。うさぎのうさんごろは、からだがでっかい……」



 うさんごろは、圧倒的な強さを持つうさぎ。母親から教わったパワーアップ祝詞を謳う事で、別作品においては河童の大群を屠りさる。そんなうさんごろはお化けに会いたくて、新聞広告でお墓の横にある物件に住む事になる。



「うさんごろ、お墓に住むの?」

「うさんごろ、怖くないのかな?」



 たまきとリオは物語に引き込まれ、そしてバストは静かに突っ込む。



「新聞広告も何を持ってそんな事故物件みたいなの入れたんすかね?」

「あれや、ばっすん。宗教によっては墓の横が縁起がいいって考えもあるんやで? それに昔は日本も庭に墓を作ってた時代もあるしな」



 絵本だから! というツッコミをあえてしないアヌはイラストを見せながら絵本の続きを語る。その事故物件に住む事になったうさんごろは夜まで待とうとして我慢できずに眠りにつく。



「うさんごろ、ちゃんちゃんこ着てるとこから、もしかすると墓場の鬼太郎とかに影響されとるんか、あるいは時代的なもんかもな」



 皆のよく知る鬼太郎シリーズ。最近だと8頭身の猫娘が出てきて視聴者を驚かせた事が記憶に新しいが、元々1930年代の水木しげるの紙芝居事業で生まれた作品である。同時期に圧倒的人気を誇った怪盗黒バット。後の黄金バットに比べそのリアルさやさすがは水木御大。妖怪ものとして、同時期を生きてきたせなけいこも影響を受けたであろうし、逆に水木しげるもまたせなけいこに影響を受けていたかもしれない。



「かわええやろ? ちゃんちゃんこ」

「可愛い!」

「うん、かわいいね!」



 幼女達にはふてこい顔をしたうさんごろは信じられない事に大人気だった。バストは、素っ裸にちゃんちゃんこをきて家とは言い難いお堂に大の字でひっくり返る目つきの悪いウサギに、新しいギャグではないのかと考えを巡らしていた。



「ばっすん! お前、ほんまおもろいのぉ! こら絵本や!」

「いやぁ、わかってるんすけどねぇ……でもどうしても背景とか、あらゆるツッコミポイントを探してしまうんすよ」



 子供は単純にイラストや物語、キャラクターに心奪われる。それが絵本の第一の楽しみ方であると言える。

 が……バストの様な楽しみ方も実は大人ならではの楽しみ方なのだ。これを読まれている紳士淑女、そして学生の諸君ら。大好きだった絵本を今一度読んでみる事をおすすめる。見えてくる世界が、子供の頃に心に描いがキャンパスが浮かび上がってくるかもしれない。



「ばっすんはどう思うんや? この作品読んで」

「そうっすね……お化けの方が、コミカルで可愛い……すか?」



 そう、うさんごろが眠っている間に、うさんごろのお堂の中を百鬼夜行よろしく百以上のお化けが名前付きでやってくる。この描写は見事としか言いようがない。お化けのイラスト集としても本作は持っている価値があるシーンである。知っているお化けに知らないお化け、見た目は知っているけど、名前は知らないお化け、名前は知っているけどこんな姿だったのかと思えるお化け……そして



「名前の不明なお化けがいるっすよ」



 バクの様なお化けだが詳細不明。せなけいこ氏も様々な文献を用いて本作を描かれたのだろうが、わからなかったらしい。

 そして、大人はそう言うところにやや背筋が冷たくなる。



「おっ、ばっすんもわかってきたみたいやなぁ! どんな年齢でも絵本は楽しめるんや! なんせ見れて読める芸術。それが絵本やからの!」

「よく考えると、自分達って小説メインっすけど、漫画も絵本も画集も詩集も読むっすよね? この前、何が一番かと聞かれたんすけど、アヌさんどう思います?」



 小説と漫画、どちらが優れているか議論という物をTwitter界隈でたまに見返る。そこに、もう一つ画集という物も参加させたい。

 文章で表現をするものが、至高か? 漫画という一枚絵とセリフで表現するものこそが究極か? それとイラストのみで表現するものが頂点なのか?


 否。

 断じて否。


 それらを比べる事は異種格闘技にも近い。そんな事を言う輩には我らがアヌ兄さんはこう言う。



「金子みすずが言うとるやろ? みんな違ってみんなえぇ。甲乙つけたがる奴は、何かに追われて生きとるんやろな」



 アヌとバストがやや大人の会話をする事にたまきとリオはアヌの着流をぐいぐい引っ張る。



「アヌ、続き読んで!」

「読んで! アヌ読んで!」

「めっちゃ呼び捨てやん! まぁええけど。そろそろクライマックスや! お化けの苦手なもんは何や?」



 たまきとリオは考える。うさんごろの周りには付喪神の類や、妖怪と一般的に呼ばれる様な者に囲まれる。一般的に人が死んで出てくるうらめしや的な幽霊はいないのだが、日本では変化、妖、怨霊、死霊。そんな者をひっくるめて二つの言い方がある。


 神。

 そしてお化け。


 怖い物は祀り上げてしまえ、菅原道真ですら妖怪扱いされていたわけで日本人のビビり気質とタダでは転ばないその気質は未だ変わらず。そして日本は世界的に見ても珍しい太陽信仰。死の象徴である太陽をしてあの強烈な光と力と熱に大いなる命を、生をみる。



「光! 朝!」

「太陽!」



 お日様の香りなんていうくらい日本人の太陽、日差し、朝や日中への生活時間への安心感は半端ではない。そして、古来よりお化けの時間は夜で、朝になるとお化けは逃げていく。

 当然、うさんごろとお化けの百鬼夜行も朝が近づくにつれて、お化けは逃げ出すのだ。

 その一晩、主人公うさんごろは何をしていたのか? 


 これは絵本としてはもうびっくりである。うさんごろは終始寝ているのだ。お化けが何をして驚かそうと、起こそうと彼は起きない。そして朝になり、目覚めた挙句、全くお化けが出ない事に……



「うさんごろは、お化けがでーへんかった事にブチギレて、借りた部屋から出て行っておしまい! ありえへんやろ? 普通は怖くて逃げるっちゅーところが、お化けでーへんから怒って出て行くねん! これは作者であるせなけいこ先生の『寝ない子誰だ?』へのある種アンチテーゼやな!」



 大人が、虫を怖い。お化けを怖いなどというと子供はそれに対して、同じ恐怖を持つ。親が嫌いな食べ物を子供は食卓で口にする機会がないから、それが嫌いになる可能性が高いなど、そんな影響に対して……

 お化けは怖いものじゃないと一貫してうさんごろを見ていると感じるのだ。



「うさんごろ、かっこいい!」

「かっこいいね! うさんごろ!」



 たまきとリオはご満足。おやつも食べてお腹も膨れ、うとうとしてきた頃にアヌはウィンク。たまきは迷子札を持っていたので家に連絡していた。

 すぐにたまきの母親はやってきた。


「本屋さん、ウチのたまきがご迷惑おかけしました」



 ペコペコと頭を下げる母親にアヌは笑う。



「かまへん、かまへん! 古書店は人がおらんとあかんねん! 特に元気な子供の声は古書も元気になんねん! お母さんも今度一緒に遊びに来いや!」



 絵本を2冊程たまきの母は買ってくれてお店を出る。そしてもう一人、リオ。アヌはリオの目線に合わせてからリオに尋ねる。



「リオはお家帰らへんのか?」

「……さっきのリオのお母さん。たまきは、リオの妹なんだよ」

「は? せやったら何で……」



 アヌとバストは顔を見合わせる。

 ここにはたまにやってくるのだ。特殊なお客さんが……



「リオね? 生まれてくる事ができなかったの」

『うさんごろとおばけ・瀬名 恵子』初版1977年あかね書房 これ一度2000年代に復刻しとるけど、今はプレミア価格のレア絵本になってもーてるな。絵本ってだいたい可愛いやん? せやけど、この絵本に出てくるうさんごろ、めちゃくちゃふてこい顔してんねん! それがウチ、滅茶苦茶好きでな? 段々可愛く見えてくるねん! 手に入れるのは難しいかもしれへんけど、瀬名 恵子先生の絵本は大体図書館とかにあるから読める機会は有るはずやで! 一度楽しんでみてな? 次回はちょっと怖い作品紹介していくでぇ!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こんにちは!!  古書店と言うのに惹かれてきましたが、語り口がコミカルで面白いです。あと、いきなり絵本というのには驚きましたが、インパクト抜群です(笑)  それと、ビブ○ア古書堂の事件手…
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