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苦手な方はご注意ください。

婚約廃棄されてしまった令嬢は、婚約者に手を出したら

作者: パンパン

書き直しました。

連載版はこちらでございます

https://ncode.syosetu.com/n6390gm/

第5章からの更新は連載版で行います。

 1:秘密


「僕と婚約廃棄してください!」


 エリシアはぼさっとルーカスの青い瞳を見つめている。その海より深い瞳は、今でも自分を吸い込ませるほどキラキラしている。


「すみません、何をおしゃったんですか?」


 黄金の髪は日差しを反射し、柔らくて暖かそうに光っている。


「僕との婚約を、廃棄してください」


 帝国の第十三皇子は、婚約者の公爵令嬢に深々と腰を屈めた。

 相変わらず鈴を転がすように美しく、聖歌隊の伶人にも負けない声だった。

 でも、今のエリシアにとってその声は最悪の響きだ。


「…理由は?」


「僕には、好きな子ができましたので」


「ほーー、どんな子かしら。皇子様の目を惹かせるような方なんて、本当にお会いしたいですが…」


「エリシア様って!」


 急に声を上げてルーカスは不満な文句を叫び出した。


「最初から僕のことが好きじゃなかったんではないですか!」


 ああ、確かにそうだっけ。

 赤い瞳を向こうの婚約者に凝らしつつ、記憶はその日に戻る。


 一生一度の成年式なのに、国事ばかりに勤しむ父上はも久々の帰宅予定なのに、結局当日に大雨のせいで落ち込んでいた上に、必ず帰ると約束した父上の姿すらも見えなかった。


 そしてお祝いパーティーが終わる直前、いよいよ会場に辿り着いた父上への復讐として、隅っこでお菓子に夢中していたルーカスに令嬢様の目が留まった。


『このエリシア・クロトーは、えっとお名前は?…ルーカス様ですね?十三皇子?まぁいいけど……コホ、帝国の第十三皇子ルーカス・スヴィトンと婚約を結びました!』


 と、まだ口元にケーキー屑が残っているルーカスの手を握ってあげて、婚約を公言してしまったエリシアお嬢様。


 ちなみにルーカスの派閥は公爵の敵対派閥である。


 そうね、こないだは案外楽しかったから、忘れちゃうところだ…

 エリシアはついに思い出した、自分はルーカスが好きじゃないことを。


「後日にはホレス様に正式の廃棄文書を差し上げます。それでは、失礼しました」


 うんともすんとも言わないエリシアに、ルーカスは再び腰を屈めてから身を翻してドアを向いて行く。


 一歩、二歩…足音は雷のようにエリシアの耳に落ちている。

 ついに、ドアを開ける音に従って令嬢は動き始める。


「《束縛》!」


「なにッ…!」


 暗黒の魔法陣は体の周りから迸って、魔法で作られた縄が裏切りの皇子のところへルーカスのところへ飛んで行く。


「エリシア様!?これは、一体…!?」


 いくら騎士としての成績が優秀にしても、さすが想像したこともない奇襲なので、黒い長い魔法作物はしっかり縛り上げられてじっとしているルーカス。


「そうね、継続権を争えられない無力な十三皇子なんて、この私が好きなわけがないわ。ただし、ちゃんと覚えて欲しいわ、エリシア・クロトーという人物は一体何者だと」


 エリシアはおもむろに倒れたルーカスの側へ歩きながら呟く。


「物心がついた頃から欲しいってさえ言えば、手に入れないものなんてないわ…それに、私ってさぁ、思い切りが悪いのよ。直せないほど壊れちゃったおもちゃも家具も、一度も捨てなかったわ…」


 彼女の指先は、そのキルーカスな目尻から下へ滑って行く。


「もちろん、この目、この鼻、この口、この貴方も同じ…」


 指先がやがて胸前に止まった。

 そしてボタンを外して行く。


「エリシア様!?どういうつもり、おやめください!?」


「この屈辱を倍返してやるに決まってんのよ!ふんふん、このエリシア・クロトー様に侵された記憶を一生覚えばいい…」


「はあああ!?自分は何を言ってるのかちゃんとわかっていますか!?や、やめてください…!」


 急に両手に力を入れてルーカスの服を裂いてしまった。

 白い肌を露わにした。雪国の生まれなのかと思わせるほどの、すごくキレイなお肌だ。

「舐めないで欲しいわ!私だって、こんなの…あれ?」


 エリシアの視線はその胸をぐるぐるにした布に惹かれた。


「これは…シタギ?じゃなさそうね?包帯?胸をカバーしてるの…いや、隠してる?」


「グッ…」


 もしかして男性の間で流行ってるやつ?という疑問を抱きながら、きっちりとした布を解いみたら目に飛んでくるのはーー


「ルーカス様って…胸筋はよく鍛えていたかしら…?」


 リンゴより赤く染め上げた顔を横に向けたルーカスの反応を見ると、どういうことなのかだいたい分かって来るはずだが。


 まさか…

 エリシアは思わず、手を出してしまった。

 ぎゅっと。


「ぎゃあ…さ、触らないでください…」


「なんと優しい弾力と心地良い柔らかさ…て、手が吸い付かれている!?私が知っている筋肉とは全く違う気がするけど、むしろ羨ましいっていうべきかここは!?」


「もう…感想もやめてください…」


 そして泣きじゃくっちゃいそうなルーカスの懇願を無視し、引き続き股間を確かめると。


 ない。


 信じられないが、あそこにはあるべきものがもないんだ。

 これは一体ーー。


 コソコソ、コソコソ。


「この触感微妙だわ。挟んでいないようだが、もしかして魔法なの?身体部位を隠すやつか?」


 コソコソ、コソコソ。


「やっぱり微妙だね。ところで男の股間についてはお父さんに蹴撃した経験以外ないわ、それじゃ参考にならない。ならばズボンも脱がせてーー」


 その時、顔を赤らめながら涙をポロポロ溢しちゃったルーカスは恥ずかしさの限界に達した。


「もうーーーー!やめろって言ってんだろうが!」


「あ、すみません、今すぐやめます」


 まさかキレた勢いで圧倒されちゃったとは。


 とりあえず魔法を解除してルーカスが冷静さを取り戻すまで、話を聞くことにする。

 しばらくして、二人がソファに座り込んでから語り始める。


「実は母妃はメイド出身なので、意外と父皇の子供ができたんですけど、皇女に継続権を与えない以上、皇后と他の妃たちから自分を守るために、皇子ができたって周りを騙しちゃいました……それは僕です」


「なるほど、つまり結婚したらバレる危険性が高まるってことね」


「そ、そうですけど…あ、あの、敵対の派閥でしょう?元より僕たちは結婚しちゃいけないです」


 長皇子と次皇子により起こされた『あの政変』から、今でも空いている後継者の位を巡って兄弟同士の争いが日に日に激しくなって来る。

 現在継続有望な皇子は騎士団をはじめとする武官集団を統領する第四皇子ギネスと、『賢王』という異名を持つ第八皇子アランである。

 そこでルーカスは前者の支持者、エリシアの父親ホレス・クロトー公爵は後者の支持者という状況になっている。


 婚約というのは、政治同盟における肝要な一環だから、ましては敵対の両方が政治結婚するなんて想像できないことだったが。

 父親への嫌がらせと思いきや、実際に両方にも大変迷惑をかけてしまったことを理解した上、エリシアの今の気持ちはーー


『どうでもいいんじゃん』と。

 自分の魅力が足りないせいで浮気しちゃったなんかじゃないことはよかったねと。


「やっぱり浮気なんて嘘なの?」


「はい、そうなんですが。…お願いします!何もして差し上げますので、性別のことだけは内緒にしてください!こ、これだけ」


 頭を下げて必死に懇願してくれた瞬間、エリシアはやっと気づいた。

 自分は目の前のこの『人』から今までのない感情をもらったことを。

 もちろん好きなんかじゃないし!偉い偉いエリシア様の心を奪い取るなんて笑わせるなよ!けれど…


 乱された長い金髪が涙と混じり合って頬にくっついている可憐な様子を見ると、心のどこかである不明な感情が湧いて来た。


 顔を近づけて、そして。

 ぺろっと。


「えええええええ!何ですか急に!?」


 さっき舐められたところを押さえ、その舌は暖かい…じゃなくて!?なんで舐めたの?と考え込んでいて混乱状態に陥ったルーカスは、顔が高温すぎて感覚さえも失うところだ。

 わからない、まじでわからない。

 訳がわからないままでいきなり婚約を結ばれてから、突然の襲撃、そして今の振る舞いも、全部の全部さっぱりわからないんだ。

 この世で彼女の行動を読めるやつは生まれていないんだろうか?


「まぁ、内緒してやっていいけど」


 銀髪を弄りながらさっきの行為をスルーしてエリシアはどうでも良い口調で語る。


「ただし、婚約を廃棄しないってのは条件。それを受けないなら、ルーカスは女ですって全国の隅々まで行き渡ってやるのよ」


「そこまで!?は、はい、わかりました」


 最初の目的から完全にずれてしまったが、弱みを握られて仕方ないことだ。それに何より、『大事な秘密』はバレていないし……

 と考えつつ、ルーカスはこっくりした。


「それは一つ目、二つ目はーー」


 ギュッと、抱きしめた。


 女同士とはいえルーカスの方は背が高い、そのおかげで男装しても疑われることは一度もなかったんだろう。

 頭を完全に彼女の胸前に埋め尽くした。

 さっきと正反対の小さな声で囁く。


「ーー次は裏切ったら許せないわ、絶対絶対許せない」


 珍しく本音をはいたエリシア様である。

 だが気持ちは届かなかったみたい。


「え?何を言ったんですか?エリシア様?」


「……帰れ!今すぐ帰れ!」


「えええ?は、はい、では失礼しまし…あああ、自分で歩けますから押さないでくださいーー!」


「ちっ、ちっ、行け!」


 こうしてルーカスを追い払ったのち、部屋の中にはエリシア一人しかいないようになった。

 窓から差し込んできた日差しに彼女の頬がより赤く映えた。

 不本意だけどルーカスとの記憶は脳内で流れている。あいつの声、あいつの涙、あの馬鹿馬鹿しい笑顔…一つ一つ、忘れたい所が忘れられないんだ。


「もう…アホか…」


 従来、将来について望みも何も期待していなかったエリシアはまさか明日に期待するようになっていた。


「性別の隠して男と偽るなんて…女なんて…もう…え、偽る?」


 聡明なエリシアはその解釈に不自然な所を気付いた。


「生まれた直後、性別の確認は基本だろう?ならばどうやって性別を隠したの?…そう、そうだ!確かにルーカス様にはーー」


 2:双子


 ラートン帝国第4代皇帝アムフ・スヴィトンは息子20人娘12人、合計32人の子供を作った。

 子孫繁栄というのは歴代の皇帝たちが求めていたものとはいえ、この数量では流石に多すぎ。

 皇子の間、そして皇子の母親及び其の後ろの各貴族たちの間では、政治闘争の波は1日も静まらない。


 皇子を持つ妃にしても、強力な後ろ盾を持たない限り早かれ遅かれ政治暗殺されてしまう。

 例えば十三皇子ルーカスの母親は子供が5歳になる年に、皇宮庭の池に身を投じて『自殺』した。


 しかしながら、不幸か幸運か、小さい頃から同輩より甚だしく優れる英知に満ちた表現で、ルーカスは四皇子ギネスのお目に留まって双子の妹レイと一緒に引き取られることになった。

 なので、年齢差が大きなギネスは二人の兄であり親のような存在である。



「ただいまーー」


 レイは帰ってすぐ書斎に入ることにした。

 皇子は成年後に皇宮から賜る邸宅に引っ越しすることになる。皇女の場合は嫁入りまで皇宮に住むというものだが、ルーカスの請求で双子は一緒に住めるようになった。

 無論双子の仲が良いとは理由の一つだが。


「おかえり」


 部屋の中に目の前の山ほど多い書類を処理しているルーカスがいた。

 お二人は瓜二つ、中性で美形な外見は全く同じだ。

 青春期に入ってからホルモンのせいで少しはずれがちだけど、適切に飾ったりメイクしたりして誰でも二人を見分けられないんだろう。


「どうだった?」


「…ごめんなさい、できなかった」


「はぁ?まさか、あのチビ魔女はお前のことをそこまで好きなの?」


「いや…そ、そうじゃないけど…じ、実は色々があって…」


「もしバレたか、まぁそれでも想定内だ。俺が教えてあげた通りに言った?」


「言ったけれどぉ、けどぉ…あのね兄さん、とりあえず女装をやめたら話そうか?どうして家でも女装してんの?」


 妹に言われて立ち上がったルーカスは見せびらかすように身を回し、淡い黄色のドレスが踊るように漂う。


「可愛いからに決まってんだろう」


 向こうは王立学校の男性制服を着ているレイ。


「もう知らない!だから兄さんを偽るなんてダメって言ったのに…どうしよう…」




 世界中の各国は基本男権の社会構造。

 何せ人類の体には『血統』という特殊な能力を封じており、血統覚醒すると強大な力を手に入れられ強大な存在となる、それは《騎士》と呼ばれる。

 男性の体質は血統覚醒できる傾向が強く、長年の流れで騎士の主体は基本男とするようになっていた。


 女性の体質には血統覚醒する傾向が弱い一方、魔法の才能に溢れている。歴史上に名を残している有名な大魔法師や聖職者はも基本女性である。ただし、希少金属や特定な術式で魔法を抑える《反魔法》という対策さえ持っていれば魔法を使えなくなって一般人になる故に、たかが騎士のサポート役。


 女騎士、男魔法師のような方もいるけど、さぞその先には多難な前途があるだろう。


 特に軍事大国として騎士道を崇拝するラートン帝国の法律により、貴族の継続権を含めてあらゆる政治活動を行うには正式騎士の資格は必要となる。特に皇子にとって騎士ではなければ普通な生活を送ることすらできなくなる。

 ルーカスには並外れの知能を持つ一方、残念ながら病弱で剣術をはじめとして騎士と言える才能の片っ端でも身につけなかった。その代わりに双子の妹レイは性別に関わらずに騎士才能に溢れる。


 そこでルーカスのとんでもない脳内にとんでもない計画が浮かべて来た。

 逸材のレイは兄の名に乗って兄の代わりに王立学校に通い、騎士として卒業したのち元に戻るということだ。

 入学試験も完璧に無事に済み、通学も完璧に無事に済み、保護者のギネスにしても双子の仕業を見破っていない。

 なのに、『白雪の魔女』に遭遇したとはな。



 事件の経過を聞いてルーカスは怒り狂うほど叫んだ。


「クソッ、あの日行かなきゃよかったのに!あのキチガイチビだけは行動読めねぇ!」




 クロトー公爵家の娘の成年式パーティーは、十三皇子の完璧な一生に唯一の汚点をつけたとも言えるものだ。


 元々偽装せずそのままで参加するつもりだったが、よりによってルーカスは妹の社交能力を鍛えようとしたくてーーもちろん兄を偽ってもお菓子としか交流してなかったレイだけど。


 敵対とはいえ、クロトー公爵は帝国における皇帝様の次に最も偉い方なので、ご令嬢の成年式のお誘いを断ることは政治的死亡と同じだ。

 公爵ご本人は遅刻したおかげで緊張な空気を避けられてありがたいと思った瞬間、その娘はまさか『自分』に求婚したなんて思わなかった。


 そうーーいきなりのプロポーズなのでその場の全員を黙らせるほどのショックだった。

 反応が早い妹に偽ったルーカスは必死に暗示を送ろうとしていた。


 けれど、驚かれ過ぎて最初から空っぽな頭がさらに過度回転していたせいか、結婚宣言した次の瞬間レイは兄の代わりにこっくりしてしまった。


 その時にルーカスはただ水に身を投じて天国の母さんに会いたいと思っていた。


 四皇子ギネス様の顔色は公爵様と揃った。

 最悪なのは、自分の忠誠心を疑われてしまうことになった。

 当然のことだ。ギネスから見れば、自分が手塩にかけた弟なのに堂々と自分の敵と結婚宣言した。

 それに『それは俺じゃない妹だ!』と言えない。大罪だから、ギネスにさえ知らせたらすぐ捕まっちゃう。


 もっと最悪なのは、色々な推測して公爵側の反応を観察した上、エリシアの求婚は公爵側の陰謀ではないという結論しか得なかった。

 ガチ恋?それは不可能だ。ここまでの人生の中に双子は公爵令嬢と会話のようなことでもしていなかった。

 レイは正直な子、そして嘘の下手なバカ、自分を裏切るわけがない。

 つまりこの全てはエリシアの勝手な行動、それ以外の可能性はない。



「お前はさぁ、やっぱ積極過ぎた?デートとか多すぎじゃなかった?」


 記憶によると、毎週末のデートにレイはいつもノリノリで一度も欠席してなかった。


「だって〜!約束したのに行かないと悪いだもん!」


「…レイ、ひょっとしてお前もガチなの?」


「はぁ!が、ガチなんて…あり得ないじゃないか!女同士だし…確かにすごく美人だし小柄で可愛いし意地悪いけど実は優しいし…」


 ジーーー


「そんな目で見ないで!もう!兄さんは自分で言ったら!?何で私が言わなきゃならないの!?」


「嫌だ!」


 ときっぱり拒否したルーカス。

 かつて幸運にもまだ子供であるエリシアは公爵の大切な所を撃破した場面を目撃したあの時以来、一生あのキチガイと関わらないようと誓ったルーカス。

 それに何より、自分を偽ったレイは彼女と近過ぎ。見破られる危険性もあるので、そのままで良いと判断した。


「幸いには『ルーカス』は女だと思い込んでるだろう?じゃそれをほっとけ、こないだ俺らはこのままで良いのだ」


「はい…」


「お前も疲れたんだろう?早く休もう」


「わかった、おやすみ……そうだ、あのね兄さん」


「何?」


「このままでって言ったけど、実は兄さんが女装にハマっちゃって自分がしたいかなって…」


 ジーーー


「じょ、冗談です!おやすみなさい!」


 逃げるように部屋を出てドアを閉めた。


 ため息をつきながら再び書類の山に打ち込む。

 これらは全部ギネスに頼まれた政策を検討する書類。自分のせいでこんなジレンマに陥った以上、想像を絶する努力をして忠誠心と価値を示さないと。

 そんな集中力でも同時に混沌のエリシアの件を思慮することも問題ではない。


「エリシアっか…どうやら婚約廃棄のルートはもうダメだ。じゃエリシアを『放棄』すれば…?」


 急に何かを思いついたように、新たな紙を取って書き始めるルーカス。


 3:令嬢

 レイはちっちゃい物事が好きなのだ。

 可愛いことが好きとは女性の本能というか、そんなものを見ると昔の弱い自分を思い浮かべちゃうというか、とにかく好き、目がないほど好き。

 これはあの意味不明なプロポーズを思わず受け入れた原因の一つである。


 あの日、大雨のせいで湿気が重く、頑張って貴族たちと話し合おうと兄に言い付けられたけど、人見知りの性格に加えてだらりとした気分で誰にも話をかけようとしなかった。

 レイと同じく元気がないのはこのパーティーの主人公であるエリシア様。


 子供並みの身長、銀色の長髪にルビーにような瞳、まるでお人形みたい。

 一目惚れではないが若干好意を抱いていた。

 守ってあげたい!と思わせるほどの外貌に相応しくないのは生まれつきの魔法天賦と高飛車な態度。


 王立学校には『騎士部』と『魔法部』を設置してある。名の通りに騎士と魔法師を育てる機構である。

 普通の騎士学校や魔法学校と違い、王立学校から卒業すると正式な職として帝国に認められ、立派な騎士や魔法師として活躍できる。他の学校の場合、当地の騎士団や魔法協会で資格試験を受けなければならない。


 帝国に仕える人材を育てるという以外、結婚活動、略して婚活というのはも用途の一つ。

 騎士部には男ばかり、魔法部には女ばかり。学校の婚活を利用して貴族の政治結婚を企てるということだ。必ずしも学生同士を結婚相手にするわけではなく、未婚の貴族たちにも大歓迎だ。

 卒業してすぐ結婚の割合は9割。

 もちろん真剣に知識と技能を身につけ、より優秀な自分を目指すのも必要なのだ。


 兄を偽って学校に通っていた間で、一度もエリシアに会えることはなかった。なぜなら、それは王立学校の学生なのにエリシアはずっと出席していないからだ。

 彼女の魔力は特殊な種類なので、通常な教育手段は適用できないらしい。

 そうだったら何で入学したかというと、無論婚活のためが、全ての婚活をさらっと欠席したという噂でもある。


 要するにエリシア様の心を惹かせるやつはいないんだというもんだ。


 というわけで、たとえ預言者はレイに『今夜エリシア様はお前にプロポーズするんだ』と言っても信じてやらないだろう。

 ましてや『おめでとうございます』と挨拶したのに相手はただ『うん』と返事してくれた。

 こっちを見ることすらもなかったな。

 でも皇族を含めて全員に冷たい態度だから、実は嫌われたんじゃなさそう?


 結局兄と偽ったレイは高級菓子に目がなくなって、妹と偽ったルーカスは代わりに貴族を立ち回るようになっていた。

「あら、レイ様とお話しするなんて珍しいですね?」と言われるたびに、「お兄様に言われましたので頑張って皆様と話そうと思っています、おふふ」と愛嬌笑いしつつ不甲斐ない『兄』を睨み付けたルーカス。


 同時に、小動物のデザイン可愛い〜!それに美味しい〜!と思ってケーキーを頬張ったところを、レイは突然誰かに手を掴まれてしまった。


 顔を上げるとエリシアだった。

 思わずケーキーを呑み下ろして彼女の話を聴こうとしていた。


「このエリシア・クロトーは、…えっと、お名前は?」


「えい!?れ…じゃなくて、ルーカス・スヴィトンと申します」


「ルーカス様ですね?十三皇子?」


「はい…」


「まぁいいけど」


「あの、何がありましたか?」


「コホ、帝国の第十三皇子ルーカス・スヴィトンと婚約を結びました!」


「なるほど、婚約ですね、コンヤクって……ちょちょちょっと待ってください!どういうこと…えい!?公爵様いついらっしゃったんですか?…」


 銀髪赤目の、お人形ような可愛らしい顔は急に近づけて来た。

 近い、睫毛一本一本数えるぐらい近い。

 そして、ちゅっと。


「よろしくお願いしますね、『ルーカス』様〜」


「よ…よろしくお願いします…」


 一瞬、我を忘れて人類原初の欲望に従い、こっくりしてしまったレイ。



 その後はめちゃくちゃ兄に叱られたんだけど。


 相手は公爵令嬢だからこそ、短期内で婚約を取り消すのは不可能。仕方なくギネスからの不信を耐え続けてレイは婚約者としてエリシアと付き合って来た。

 付き合うというか、相手は通学していないし実は週末しか会なかった。それにしても毎週一回のデートは正直楽しかった。確かに噂の通りわがままでちょっと性悪な令嬢だけど、馴染んだらただの拗ねる子供だった。

 寂しがり屋である一方、異常な魔力を持っているせいで周りに怖がられたり孤立されたりしていて、だんだん歪んだ性格となってしまった。


 大好物は辛い食べ物も、レイは知っている。

 テンションが上がったらしていた鼻唄は、他界した母親が教えてもらったことも、レイは知っている。

 街で遊んでいる子供同士や散歩している親子を見るたびに、いつも羨ましそうな表情することも、レイは知っている。


 しかし否が応でも別れの日が必ず来る。廃棄の件は失敗したが、将来はどうなるのかレイにはわからない。

 せめて卒業する前に、自分は『ルーカス』である限りあの子の側にいてあげたい、というちっぽけな願いを抱いてレイは寝入りした。



 翌日。


「お、重い…」


 自室で寝坊していたレイは重圧のような不快感に襲われて目を覚めてしまった。

 頭を少し上げると、広いベッドなのによりによって自分のお腹の上に乗って寝ている『真犯人』を即時見つけた。


 それは猫耳の獣人少女。外見は10歳ぐらい、仕事用のメイド服を体に纏まっているのに今はすやすやとして眠っている。


「しょうがないね…ほら、起きて、リリー」


「うーーにゃーー」


 大袈裟にあくびしながら、柔らかそうな体を伸ばして寝ぼけな目でレイを見る。


「レイ…様…おはようございま…すやすや…」


「ほら!まだ寝るじゃないよ!」


 リリーは双子家に唯一の使用人。王立学校に入学する前にルーカスは使用人たちを全部解雇し、代わりに奴隷市場で一人の獣人少女を買って来た。それはリリーだ。

 戦争によって故郷が滅びされ大陸を放浪する獣人たちは人類社会の底辺となり、頑丈な体格か美形な外見のせいでよく奴隷商人に狙われるようになっていた。

 獣人は概ね『近獣種』と『近人種』に分けられる。リリーのような獣耳と尻尾以外の部分は人類と同じな『近人種』は一般に使用人として人類に仕えるという仕組みだ。

 獣人だけを使用人にする理由も簡単、秘密というの知っている人が少なければ少ないほど安全、そして全てを失った奴隷の獣人なら誰かのスパイである危険性がほぼない。


 そう見てもリリーは立派なメイドであり、非の打ちどころがない。居眠り以外だな。

 猫だからというか、リリーはよく人の上に乗って寝るという癖がある。特に起こしに来たのについ添い寝してしまうのはレイの日常となっていた。

 まぁ、可愛いから許してあげる。


 もう真昼だし起きよかと思って、レイは着替えようとする。


「もうキツい男装なんて勘弁してくれよ、休日だし外出の予定もないしのんびりにしよっか」


 一番好きなドレスを着替えたばかりのところリリーは起きた。


「う…ん…おはようございます、レイ様…」


「おはようーーもう、どっちが起こさせるのよ〜〜よしよしよしよし」


 よろよろ起き上がったリリーはまだ寝ぼけているような、寄ってきてモフモフの頭をレイの胸に擦るつけながらなでなでに満喫している。

 突然、何を思いついたようにその猫耳がピント立ってビクビクする。


「すみません、忘れちゃいました。お客様がいらっしゃたんですので、早く行かないとルーカス様に怒られちゃいます」


「お客様って?誰?」


「なかなか可愛いお嬢様です。私より背が少々高い、白い髪に赤いひ…レイ様?転げちゃうよぉ、気をつけてください〜〜〜」


 4:意外な来客


 双子の家は貴族区の外側にある庭付きの2階建て。面積もファーニチャーも、貴族のどころか富んでいる平民と比べても『地味』にも言える。使用人がほとんどいないことに加えて誰でも一見すればただの下位貴族の屋敷だと思うだろう。

 成年した皇子の中にの末っ子としても、こんな物件を選ぶなんて王室の面目に泥を塗らせてしまう。


 しかし、ルーカスはここに住むことに決めた理由は十分だ。まず、大通りに臨んでおり、家から中へ進めば皇宮、外へ行ったら平民区、どっちでも便利である。そして、遠くない所には夜警部隊の総部があって暗殺とかはやり難いというわけだ。

 でも上位貴族としての公爵家と結構の距離を置かれ、そのせいで毎週恒例のデートの際、いつもレイからエリシアの家へ迎えに行くという。

 まさかあのわがままなお嬢様は御自らいらっしゃるとは。


 急ぎこんで部屋を出て階段を下ろし、探し回っていたがどこでもエリシアの姿を見つけることはできなかった。


「申し訳ございません〜〜〜エリシア様〜〜!!寝坊しちゃって…あれ?いない…いない…こっちもいない!?」



 後ろについて来たリリーは頭を横に振る。


「わかりません。あのお嬢様を応接間に通しましたが、どうやら待っていられなくてお帰りになりましたようです。すみません、私が眠っちゃいましたせいです」


「うんん、大丈夫よリリー…次に会ったら僕が謝るからさぁ」


 猫耳を平たく伏せて気が滅入っているようだが、急に廊下へ行った。


「どうしたの?」


「こちらから妙な音がしましたので、少々気になります」


 リリーが窓を開けると、その妙な音が明晰になった。


「ゆらり〜ゆらり〜ゆれる〜♪白い〜白い〜あなた〜♪静かな愛情〜月明かり〜♪」


 これは…覚えのある声だった。

 ちょっぴり下手な歌声が微風に乗せて部屋の中へ入って来た。

 首を窓の外へ伸ばすようにすれば、滝のような銀髪はしゃがんだ小さな体を覆い、一見をすれば雪玉みたいな光景を目にした。

 周りには双子家が飼っているウサギの群れ。


 そのウサギは西の特産品、商会に2匹を貢いでもらった。

 中央地区生まれならウサギを食べることに慣れないので一応飼っておこうというつもりだったが、予想外の繁殖力でついに十数匹まで増えていった。ルーカスにも言われたことがあるけど、可愛くて食べることも捨てることもできず、そのままでペットとして飼って来たのだ。


「良い子〜♪良い子〜♪良い子はだーーれだ〜♪」


 ついに側顔を向けてくれて、白いウサギを抱いて遊んでいるエリシアの姿を見えた。


 あんなエリシアの顔なんて見たことない…!か、可愛い!でも呼ぶべきか呼ぶべきではないかどっちがいいのかここは!?と思いこんでしばらく見守ってあげることにしたレイ。


「ぴょんぴょん〜♪ぴょんぴょん〜♪」


 完全にふわふわ罠にハマってしまってこっちを気づいてないようだが。

 多分抱かれ過ぎて不機嫌になったんだろうか、ウサギはいきなり振り切って逃げてしまった。

 そしてエリシアはウサギが逃げる方向に、旅立つ恋人と別れるように「あーー、ウサギちゃん〜!…元気にいてね!」と叫び出す。


 楽しそうだな。


 しょんぼりと逃げた方向に見つめながら、立ち上がって服についている毛玉を打ち払ったエリシアは、振り返ったら主従二人と視線を合わせた。


 次の瞬間、微笑ましい雰囲気が凍り付いてしまった。

 チョコチョコと歩いて来て、頑張って背伸びしてレイの襟元を掴めた。


「…いつから見たの?」


 垂らした前髪が顔を遮ったが耳元が真っ赤になったことははっきり見られちゃった。


「えっと…『ゆらり〜ゆらり〜ゆれる〜♪白い〜白い〜あなた〜♪静かな愛情〜月明かり〜♪』からかな?」


「私にはまだ仕事がありますので失礼します」と言い残して逃げるように立ち会ったリリー。


「おお、お疲れ。…あの、エリシア様?ひょっとして恥ずかしがってますか?いやぁ、可愛いと思いますよ、そんなエリシア様なんて見たことなかったなって…」


「………《束縛》…」


「ちょちょちょっと待ってください!ごめんなさい誰にも言わないから許してくださいーー!」




「この子はユキちゃん、この子はツキちゃん、この子はワタアメちゃん…」


「全く同じなのじよく分かれるね」


 その後レイは1匹ずつ、ウサギを紹介して行く。

 特産品だからこそ真白な毛色で雑色の毛が1本もなく、優良な品種である。そのせいで魔法による複製品のような同じ様子しており、せめてエリシアには区別なんてわからない。


「そう?全く同じではないと思いますけど。例えば、ほら、ユキちゃんの毛色は最も白い、ツキちゃんの耳が最も短い…皆は違っていますよ!」


 と言いつつ1匹のウサギを渡してあげた。

 エリシアはこの子を見たり地面で走っている子を見たりして違い所を探そうとしても。

 だめだ、全然わかんない。


 多分こいつしかわからないだろう…

 期待を込めた目付きしやがっているレイをチラッと見て、ため息をついてエリシアは話を逸らした。


「ところで、どれぐらい好きなの?小動物。飼ってるなんて思わなかったわ」


「ははは、本当に好きなのですよ、毎食にこれがないと困っちゃう程度です」


「マイショク?って?」


 レイは歯を見せるように不気味に笑い出し、わざとウサギを顔に寄らせる。


「ああ、毎食ウサギを食べるに決まってんじゃん。うまいぞ、特に脳味噌はすっごく柔らかくて汁も多くてーーー」


 と言いつつウサギに頬ずりする。

 まるで変質者の振る舞い。


「…‥……」


 エリシアの身の回りから魔法陣が現れ、暗黒の魔力は湧き出しそうだ。


「すみません!ジョウダン、冗談だけです!確かに食用ですけど食べてませんよ!ただ思いついたのでからかってみよかなぁって…ビビらせちゃってごめんさい!許してくださいーー!」




 めちゃくちゃお仕置きされて大人しくなったレイは口をきいた。


「あの、今日は何のためにいらっしゃったんですか?」


「あんたは迎えて来なかったから」


「迎えって、何?」


 目を白黒させたエリシア。


「例のあれ」


「あ…」


 そう言えば雨天決行とする毎週一回のデートだが、今週のはまだ行ってない。

 昨日はあんなことがあったからすっかり忘れてしまったというか、そもそも婚約廃棄を前提にしてデートの予定なんてない。

 エリシアは双子の家に来たのは初めて、いつもレイが御宅に行って迎えてからデートに行くからだ。

 今朝から家でずっと待っていたのに来なかった。自宅まで来たのに主人が寝坊しているせいで邸宅をぶらぶら歩き回し、最後はウサギに気を取られて遊んでいたエリシア様でござる。


 なんか悪かったと思い、レイは謝罪として改めてデートに誘おうとする。


「ではエリシアお嬢様、よろしければこの僕と共にお出掛け…あっ!」


 片膝をついての騎士っぽいポーズをしたところ、両足は今日に互いに引っ張りあってしまい転げちゃった。

 地面に濃厚接触してから自分がドレスを着ていることを気づいた。


 脳内に、まず『ヤバイ!バレちゃった!』と思い浮かべ、次に『いや!今の私は兄を偽ったけど女だと思われるはずなの!』、最後に『つまり、私は女だと思われる兄だけど真実の性別も女…か?』という混乱状態に陥ってしまってるレイ。


 ついに快刀乱麻を断って『男のルーカス』として行こうと、レイは身を翻し部屋の中へ向かう。


「えっと…着替えに行って来ますので、少々お待ち…」


「待て」


 凛とした声と共に、レイの肩が小さな手に掴められた。


「エリシア様?」


「えへ」と花が咲くような笑顔を見せながら、容赦無くレイを外へ連れて行く。


「せっかくですので〜そういう格好でお出かけしましょうか〜〜」


「け、結構です…やっぱりいつもの格好で……あのエリシア様!?反則ですよ、また魔法を使っちゃって……わかりました、このままでいいですから自分で歩かせてくださいーー!」


 同時に、2階で遠ざって行く二人を注目しているルーカスは、湯気が立っているコーヒーをゆっくり飲んでいる。

ストーリーと設定の一部が変更しましたので、それについての感想や批判もお願いしたいです。

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