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噂話『影送り』3

少し短めです


「あんたがやったのは、かげおくりだねぇ」


「かげおくり?」と、聞きなれない言葉に幸崎と早見は首をかしげた。

カウンターの奥で作業している三峰の影がゆれる。

『とある喫茶店』の中は、まだ日が高いにも関わらず室内は薄暗い。

ダークブラウンの木目調の家具で設えられた店内は、落ち着いた雰囲気といえば聞こえが良いが、少し不気味な空気も醸し出していた。


じり、じり、じり、


じり、じり


じり じりじり


ネルの中に入った珈琲の粉にゆっくりとお湯が注がれていく。

じりじり、と珈琲の粉がお湯を吸って鳴く音が空間に静かに響いていた。

「小学校の頃習わなかったのか?」

「何を?」

各テーブルに小さな花を模したテーブルランプが置かれ、昼間であるにも関わらず火が入れられている。

揺れるような灯りが、薄暗い店内で不安げに揺れた。

「『かげおくり』が出てくる絵本だよ。昔は国語の時間で必ずやったんだが...最近じゃやらないのかねぇ?そこの坊主はどうなんだ?」

「えっ!?ぼ、僕も習った覚えは...」

「はて、ジェネレーションギャップってやつかねぇ?」

「何世代分のギャップだぐえっ」

「なぁにか言ったかい?」

背後にから首を絞められ、幸崎の口から蛙が潰れたような声が出た。

「な゛っ、なぁ゛に゛ぼぉっ」

「宜しい。では、話を続けようか?」

ふわりと香る珈琲の芳ばしい香りが彼女の人間片腕に載せられた盆の上から漂ってくる。

「物語自体は戦争孤児になった女の子から見た戦争の物悲しさを描いたものだ。そして、その物語に出てくるのが『かげおくり』」

ごくり、と幸崎と早見は喉をならす。

各人の前に置かれた陶器のティーカップに、注がれた黒い液体が注がれていく。

静かに食器がぶつかる音がして、各々の前に珈琲が出揃った。

四人席の片側に幸崎と早見が並んで座り、その前に三峰は腰をおろす。

「さて、ここで『かげおくり』のやり方だけどね。『よく晴れた日に、自分の影法師以外が無い真っ平な場所を選んぶ。そして、地面に浮かんだ影法師を瞬きをせずに10秒見たあと空を見る。』そうすると、自分の影法師と同じ形の白い物体が、空に浮かび上がるんだ」

「白い、影....?」と早見がぽつりと呟く。

「へぇ...不思議な遊びもあるんですね」

「不思議なもんかね。これは人間の脳の誤認を利用した科学的な遊びなんだよ」

「は?科学?誤認?遊び?師匠の口からえらく現実的な用語が...」

「事実を言っとるだけだ。『かげおくり』ってのはね、陰性残像現象って現象を利用した遊びなんだよ。人の脳ってのは一定の刺激を受け続けると脳が馬鹿になるんだ。

この『かげおくり』の場合は、『同じ物体を見続ける』ことで誤認を引き起こす。人間の目ってのはね、黒を見続ければ、白い残像を視覚に残すように出来ているんだよ」

「あぁ、だから空に白い影が見えるんですね?」

「そういうことだ。特に道具も必要ないし、小学校ならだだっぴろい校庭があるので場所の確保も容易だ。そのうえに国語と科学...小学校のころは地学やらごちゃ混ぜで『生物』の授業としてひとくくりだったか?ーーまぁ、二教科を一度に実体験できる内容ということで重宝されたんだよ」

「へぇ~そうなんですね~。

.........って、それが今回の事とどう関わってくるんですか?」

三峰がカップを持ち上げ、一口珈琲を含む。

唇に引かれた血のようなルージュが、カップの口に赤い跡を残す。

「早見...とか言ったかい?」

びくり、と早見が肩を揺らした。


「お前がやった『かげおくり』の影は黒かったんじゃないのかい?」

続きます

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