はじまり、はじまり
はじめての投稿です。気長にお付き合い頂ければ幸いです。
茜差す帰り途。
都内にある一の橋という橋の上。
学生服に身を包んだ少年が一人佇んでいた。
川面から仄かに香るすえた匂い。
郷愁を誘う光と影のコントラスト。
めまいを伴う眩さと、
頭上を通る高速道路から落ちる影。
春一番にも似た冷たい強風が、汚れた桜の花びらを数枚散らした。
学年が変わっても、自分の環境は全く変わらない。
疲れた
ため息を吐くように、口から感情が溢れた。
面倒臭い。
何もかもが面倒臭い。
そう感じるほど、精神は疲弊していた。
何よりも、遠い昔に置いてきてしまった大事なものを彷彿とさせる景色に、今の自分の姿が在ることに絶望すら覚える。
少年はふらふらと覚束無い足取りで、一の橋の真ん中まで何とか足を進めた。
目映い光の中へ足を踏み入れたとき、ふと思い出したように、彼は己の足元を見た。
夕暮れの赤い色の日差しに照らされて、影が斜めに走っている。
それを瞬きもせずに、じっと見つめた。
もう、何もかもどうでも良い
全部、疲れた
かといって、自分に何ができるわけでもない。
空を見上げる。
何もない。
「ははっ」
乾いた笑いが口から漏れた。
自分はどこにも行けない。
たとえば、この橋から身を投げ出して、川に落ちたとして、自分にはそのまま沈む勇気はないだろう。そして、学校のプールと同じくらい狭いこの川幅では、身を投げたところで、簡単に泳ぎ切れてしまう。
結局、そう生存方法に検討をつけている時点で、本気で飛び込む気などさらさらないのだ。
汚れるだけ。
無駄な想像ーーもとい妄想だ。
緑がかった汚れた川面に目を向けて、少年は諦めに項垂れる。
ぴちゃり
ふと、視界の端で水が跳ねたのが見えた。
なんだろう?あれは...?
川辺に並ぶ小型船舶の薄い影に、それよりも濃くてどろりとした黒い物体が浮いている。
しかし、少年がよく見ようとはしげたから身を少し乗り出せば、それは『どぷり』と音を立てて、水のなかに姿を消した。
(何だったんだろう?)と視線をずらせば、目の前を黒い何かが横切った。
驚きと共に、くらり、と体が傾いでコンクリートに尻餅をつく。
「痛ってー...」
周囲を見渡しても、何もない。
貧血でもおこしたかな?と、立ち上がる。
数瞬前となにも変わらない景色があるだけだ。
少年は、いぶかしみながらも、踵を返す。
橋を渡り終え、高速道路の落とす影から抜け出すと、彼は何とも言えぬ違和感を覚えた。
『ねぇ』
耳障りな幼子の声。
『影はどこにいったの?』
ハッとして少年は視線を落とす。
ない。
斜陽に照らされ、斜めに走っているはずの見慣れたものが、ない。
影がない。
靴底から地面に伸びているはずの『自分の影』が、コンクリートの地面からなくなっていた。
どくり、どくり、と心臓の音が加速する。
ぴん、とはりつめた空気が流れる。
無くした。
落とした。
そんなあり得ない言葉が過り、少年は周囲を見渡す。
すると、橋の対岸の地面にぽつりと影が落ちている。
けれど、本能的にそれは『自分のものではない』と悟。
その影は、自分のものにしては小さかったし、影の頭にあたる部分に二つ髷のような影が付随していた。
ただ
その、影の持ち主は、存在していない。
影のみが、そこに、落ちていた。
「っつつ!」
少年は走り出す。
悲鳴にもならない小さな声を吐き、少年は走り出す。
影に背を向け走り出す。
恐怖に背を向ける。
遠く、彼の姿が小さくなって、消える。
人気の失せた橋上。
『どぷり』
と、何かが沈む音だけが、響いた。
不定期で続きます。誤字脱字ありましたら、教えて頂ければ幸いです。