乾杯
気が付くと私は1人電車に乗っていた。
何時電車に乗ったのだろう?
同級会で久しぶりに会った友人達に誕生日を祝って貰っていた後の記憶が無い。
電車は1両編成で乗客は私1人。
窓の外に目を向ける。
見覚えの無い丘陵地帯が広がっていた。
電車がスピードを落としたのが身体に伝わる振動で分かる。
進行方向に目を向けると駅のホームが近づいて来るのが見えた。
静かに電車が停まる。
ホームに出て駅名を読む。
駅名は誕生日、次の駅名は未来、前の駅名は過去。
次の駅の方を見ると真っ暗で中を見ることが出来ないトンネルの入り口が見える。
振り返り通り過ぎて来た方を見た。
ホームの先端直ぐ傍に誕生日を祝って貰っている私がいる。
その先には初孫を抱いている私がおり、そのもっと先には可愛がってくれた叔父の死に泣き崩れた私がいた。
去年の誕生日から今日までの事を思い起こしていた私の耳に発車を知らせるベルの音が響く。
電車に乗り込むとドアが閉まり電車は次の誕生日に向けて静かに走り出した。
「あれ? 主役が酔いつぶれて寝ているぞ」
「昔から弱かったからな」
「弱いくせに宴会が好きなんだよな」
「起こすか?」
「気持ち良さそうに寝ているじゃないか、寝かせておいてやれよ」
「そうだな。
こいつの誕生日と寝顔に乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」