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精霊を操る?

 まず最初に、とんでもなく怒られた。

 逃げまどいながらも、マイアは治療系の魔法をかけてくれて、左手の穴は完全にふさがった。

 しかし、それしかなかったとしても、僕の体を傷つけることが許せなかったらしく、治してくれている間、ずっと怒られ続けた。

 そして、噴石飛び交う山のふもとから離れた僕たちは、枯れ木ばかりの山脈、そのか細い川の流れで体の汚れを落としていた。もちろん、男女別で。


「いやぁ、ほんと助かったよ、兄さん。華奢に見えて力もあるし、魔力も申し分なしだ!」

「日ごろの鍛錬が無駄にならなくてよかったです。ところで、失礼かもしれないですけど、一ついいですか?」

「命の恩人の言うことだ。多少の質問には答えようじゃないか」

「ありがとうございます。じゃあ、聞きますけど──」


 精霊を宿しているからだろうか。こういうのにも、敏感になるみたいだ。


「あなた、山賊ですよね? ずっと気になってたんですけど、その指輪には短剣の術式が組んである。貴重品だったら錆びを気にして、こんな水場では外しそうなものですが、それもしない。近くの集落では略奪の跡もあった。となると、結論は、導き出せます」

「……やれやれ。これでも、山賊の中じゃ殺しは嫌いな方なんだが。ばれちまっちゃぁ──」

「リィン」


 良く分からないけれど、ミャイケニッヒは名字のようなもので、その下が名前にあたるものなのだろう。それに、元からフルネームを呼ぶ余裕もない。


「……ばれちまっちゃぁ、口封じですか? 殺しが嫌いなんて大嘘じゃないですか」

「あんたに言われたくないね……少しでも体を動かせばぶっ刺さる氷槍をこんな数、ほぼ無詠唱で作るような化けもんに……!」


 顔を改めて洗ってから振り向くと、なるほど。確かに抵抗しようがないだけの密度の槍ができている。リィン、少しやりすぎじゃないかな? まあ、今回は相手が相手だから別にいいけど。


「はーい、じっとしててくださいねー。この指輪は没収です。それじゃあ……まあ、やったことがやったことですし。僕たちが衛兵さんを呼んで、あなたを捕まえに来るまで一切動かず眠らずで耐えてください。少しくらい罰は受けないと。心配はいりませんよ。氷をくわえることができるようにしておくので、水分は摂取できますから」

「そ、そんな!」

「じゃあ、最短でも三日か四日。頑張ってくださいねー」


 ……やりすぎかな? でも、魔弾で作るロープは始点と終点を固定しないといけない以上、後ろ手に縛って連れていくわけにもいかないし、そうなるとマイア達に危害を加えないようにするには、置いて行くしかない。


「お待たせー、マイア。出発しよう」

「レイ? あの男の人は?」

「ああ、うん。悪い人だからここからは別行動」

「……? 良く分からないけど、分かったことにしておくね」


 笑顔で言いきると、案外受け入れてくれるものだなぁ。そんなことを考えながら、馬車は再び走り出す。

 この山脈を超えれば、またあの街に寄れる。少しでも早くみんなを喜ばせたいなら、あのあたりの森は安全だから夜も走ってもらえばいい。

 とりあえず、盗賊の人も人だし、死ぬまで放置はかわいそうだから街による必要があるなぁ。

 だったら、ついでに腸詰やサラミの作り方も教えてくれるようなら教えてもらおう。香辛料の配合までは無理かなぁ。絶妙な加減でとてもおいしかったのだけれど。

 胸躍る、旅の帰り。

 まあ、小旅行だったし、それなりに苦労もあったけれど。

 それよりも、マイアと親密に、思いあえたことが何よりもうれしくて。

 そこまで思って、ふと気が付く。

 村長に、どう話せばマイアとの仲を認めてもらえるだろうか、と。

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