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白い鳥の真実と、聖銀の謎

 俺は、懐から一枚の紙を取りだした。

 一見、ただの紙。しかし、魔力を通せば、一瞬にして白い鳥へと姿を変える。

 これは、俺たちの間で用いられる特殊な連絡手段。指向性を持たせたのろしとでもいえば早いだろうか。


「……くそっ、害獣共め。まんまと抜け出してくれたな」


 しかし、理解できない。教団の暗殺者、それも三人を相手取って自分は深手を追わない?

 理解できない。そんなことができるほど、暗殺者は弱くないのだから。

 やはり、新造魂の特異性から来る力か?

 だとしたら、殺さなければならない。これ以上、死者が出る前に殺人鬼どもを根絶やしに。それが俺の正義だ。


「やれやれ。ちょっと一服に、と思ったら……とんでもないところを見てしまったな」


 癖で親指の爪を噛もうとした時、背後からそんな声が聞こえた。

 しかし、声ののんきさに対して繰り出される剣戟は本物だ。抜刀しながらの斬撃は、声をかけられていなければ間違いなく、あっさりと腕か足の一本は持っていかれただろう。

「……なあ、今のは、聖銀の教会の連絡手段だろう? なんで、街の衛兵が持ってるんだ? 後輩君よ」

「……そんなことも理解できないほどボケたか? おっさん」

「言ったよな? おっさんって他人に言われると傷つく……ってな!」


 こんな町の衛兵にしておくにはもったいないほど鋭い剣劇が無数に襲い来る。

 しかし、俺も負けはしない。

 敗北とは、世界の破滅を認めることなのだから。

 それが、聖銀の教会による教えなのだから!


「なあ、衛兵になったからにはお前さんにも正義の心のかけらくらいはあるだろう? 何も悪くない旅人を害獣呼ばわりして、暗殺者を呼ぶための式を飛ばして……お前さんはそれでいいのか?」

「あんたこそ、頭わいてんのか? 新造魂を”二匹”も野放しにしやがって。このまま座して待てば、訪れるのは世界の終わりだ」

「…………なるほど。カルトに毒され切ってたんだな、お前。少し、牢屋の中で頭冷やして、毒を抜け」


 そう言うと、おっさんは腰から鞘を外し、剣と鞘で二刀流の構えを取る。


「聖銀は曇りを知らず。ただ、悪を視る術となる。正義の敵対者よ、今その行いを悔やむがいい!」


 あの構えに対しての勝率は百分の一以下。ならば──今まで見せていなかった、とっておきを出せばいいだろう?


「いい加減にしろ! おとなしくしていれば命までは取らん!」


 ああ──聖銀の指導者よ。あなたの力が、眼が私の物となっていきます。だから、ほら──普通にしていればかわせないほどの剣戟と、打撃の嵐すら、今は見切ることができる。

 一瞬の隙をついて、懐の戦闘用の式に手を伸ばし、指導者の力の一端を持って”起動”させる。

 なんと素晴らしいのでしょう。なんと素晴らしいのでしょう! 本質は紙から変わらないはずなのに──あなたの力のほんのひとかけらを流し込んだだけで、剣戟も、打撃も止めてみせる!


「なっ……!」


 ああ、指導者よ。ご覧ください、慌てふためく、愚かな敵の姿を!

 今、この者にふさわしい裁きを下しましょう。 あなた様と共に!

 式に魔力を流し込み、さらに指示を下す。


「おっさん。俺が入ってきたとき、言ってたよな? 見張り台では足元に気をつけろ、って」

「お前……!」

「最期くらい、あんたの礼儀に従ってやるよ……先輩! 足元には、気をつけてくださいね!」


 笑顔で言うと同時に、式はおっさんを見張り台の下、つまりははるか下方の地面へと放り投げた。


「うあああああああああっーーー!」


 式が紙に戻るのと、おっさんの聞くに堪えない叫びが途絶えるのとはほぼ同時だった。


「……さて、事故死の報告書、準備しないとな」


 眼下でくたばった眼の曇った者。どうせ死ぬなら、俺の手をかたずらわせるな……その間に、俺がどれだけのことができるか。

 これからすることに面倒くささを感じつつも、指導者への貢献ができた思いは、俺の胸を高鳴らせていた。

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