白い鳥に、平和の願いを。
宿に戻った僕たちは、おかみさんたちと交わした商売の件や、泊めてもらったお礼などを話し、宿を出た。
「キイルさーん。またお願いしますね」
「私からも、お願いします」
任せておけ、とばかりにいななくキイルさん。うん、とりあえず宿の中で起きたことについてはばれてないね。
「お二人とも、また来てくださいねー! 今度は物騒なことなんて起きませんからー!」
馬番の子にそう送りだされる。
さて、村からここまでは早朝から夕方までの一日にも満たない短いものだった。
けれど、ここから聖火山までは片道三日ほどはかかるだろう。その間に、街や村はない。ここからようやく旅らしくなる。そんな思いが、いろいろな不安の中でも期待になって僕の胸を弾ませる。
「レイ、なんだか楽しそう」
「そう見えるかな……まあ、楽しみにしているのは本当だよ」
たった一晩だけど、大きな街に出て自分が今までどれだけ小さな世界にいたのかを知った。
それを知ったなら、より大きな世界を知りたいというのは、知識欲なのだろうか。それとも、探求心?
「やあ、お兄さん。ひどいものを見せてしまってすまなかったね。申し訳ないとは思うけど、それはそれ、これはこれ。今は、旅人は読魂しないと外に出してはいけないことになっているんだ」
「ああ、それなら役場で受けましたよ。これ、証明書です」
証明書を手渡すと、衛兵さんは隅から隅まで読み、うなずいた。
「そのようだね、本物だ。じゃあ、良い旅路を」
「はい。帰ってきたときは、例の話よろしくお願いします」
「ははは、任せてくれ。私くらいの年になると、自分よりも若い子たちの方が見ていて楽しい」
僕と衛兵さんの会話に首をかしげるマイア。もっとも、もう衛兵さんの手助けがいらないところまで来ている気もするけれど。
「それじゃあ、行こう! キイルさん、お願いします!」
合図を出すふりをすれば、キイルさんは歩みだす。僕たちは、キイルさんの引く馬車に乗っていればいいだけの気楽な、けれど山賊や凶暴な動物への警戒を怠るわけにはいかない、大変な旅路。
その第一歩はもうとっくに踏み出していたけれど、数日人気のないところを進むと考えると、ここからが大変だろう。
少し歩くと、街の方から白い鳥が飛んでいくのが見えた。




