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事件、発生。

 マイアに告白のような言葉を記録された、次の日。僕は、いつも通り早朝に目を覚ました。


「……思いだしても、恥ずかしい。それはまあ、嘘ではないけど……」


 だって、あんなに真剣に言ってるのが嘘だなんて思わないじゃないか。だから、僕も真剣に、心の底からの返事をしたっていうのに……ああ、そう言えば、この間旅の演劇一座が滞在していたな。マイアの演技力が向上したのは、その人達に何か教わったのかな……。

 寝ぼけた頭でそんなことを思いながら、朝の支度をする。


「水鏡よ、汝、真をうつしたまえ」


 そう唱えながら、水がめから水を片手鍋にすくい、そのまま空中にまき散らす。

 何もしなければあとはただ床に落ちて、しぶきをあげるだけの水は、僕の唱えた魔法によって空中に浮き、僕の姿を映し出す鏡になる。

 ……うーん、やっぱり、かっこよくはないよなぁ。マイアの言葉が僕の告白のような言葉を引きだすためだけの嘘か、多少なりとも本当が混じっているかは置いて考えても、マイアの隣に立てば僕などかすんでしまう。

 髪の色は、地味なことこの上ない黒。せめてものアクセントは、後ろで伸ばしたものを、細く一束にまとめている所か。日々の生活で贅肉こそついていないものの、けして恵まれているとは言えない体格。我ながら気弱にしか見えない顔つき。そして何より、僕は新造魂。そのどれもが、マイアにふさわしくない。


「……いや、どうせ嘘なんだから、そんな気にすることはないのだけれど」


 ぶつぶつと独り言。目やになどの汚れがないこと、寝癖などの乱れがないことを確認し、僕は水鏡を片手鍋に入れ、ただの水に戻す。


「火よ、其はその熱で万物を等しく熱せ」


 かまどに片手鍋を置きながらそう唱えれば、注ぎ込んだわずかな魔力が火となり、水を沸かす。


「優しき風よ、一時我が意に従いたまえ」


 着替えをしながら、親切な方に分けていただいた茶葉を風の魔法で運び、片手鍋のお湯で煮出す。

 お茶なんて、本来なら僕なんかが飲めるはずもないのだけれど、この村の人は、高級品だというのに気軽に分けてくれる。それも、そろそろなくなるころを見計らって。

 その恩に報いなくては。そう考えた僕は、狩猟で動物を食材にすることを考え付いた。早朝に起きるのも、その為だ。

 お茶を煮出す間に、僕が狩猟の際に使う魔弾の猟銃と、肉をはぎ取るための魔刃ナイフを手入れする。猟銃は、注ぎ込んだ魔力を半物質化させ放つ、先代猟師の方から譲り受けた特別品だ。半分は魔力だから発射後も自分の意思のままに動かせるけど、半分は物質になっているから、万が一弾詰まりでも起こせば暴発してしまう。だから、メンテナンスはとても大切だ。

 ナイフの方は、魔力を刃に変えるための魔法が込められた魔道具。詠唱さえすればこれなしでもナイフは作れるのだけれど、人を傷つける可能性のある魔法としてその使用は厳しく制限されている。このナイフだって、人に対して使おうとすれば即座に安全装置が働いて、刃の部分は消えてしまうのだ。


「うん、清掃完了。ナイフも問題なく使えるね……後は、今日の僕の調子次第だ」


 家を出て、すぐのところの木を見上げる。僕が生まれる前から植えられているらしい、その大木から一枚の葉が散るのを見て、僕は銃を構える。

 気流、温度、湿度推測──標的補足。一発分の魔力を猟銃に込め、魔弾を放つ。

 パシュッ──火薬を使う銃よりはるかに小さな音を立てて放たれた魔弾は、僕の意思のままに針のように細くなり、木の葉の端を撃ち抜く。

 だけど、それで終わりではない。魔弾は軌道を曲げ、二度、三度、幾度も木の葉を撃ち抜く。


「……うん、上出来だ」


 何度も、何度も貫かれて落ちた葉を拾い、僕は少し笑みを浮かべる。

 弾痕は、マイアの頭文字になっている。何もここまでする必要はないのだけど、狩りをする上では、やはり獲物に必要以上の苦しみを与えたくないから、精密操作のために、これは日課になっている。

 ……マイアの頭文字にするのに、特に意味はない。けっして、にくいわけでも愛しいわけでもないぞ。うん、それはもう決して……。


「ヌーフェリア。今朝も良い調子だな」

「ふぇあっ!? サ、サグレさん! いつの間に僕の後ろに!?」


 慌てて木の葉を握りつぶすも、先代猟師にして師匠、サグレ・メルティナさんの表情を見るに、僕が木の葉をどう撃ち抜いたかはばれているらしい。


「魔弾の操作に集中している者の背後を取るなどたやすい。しかし……そうか、そうか。ヌーフェリアはグランジールの譲さんにお熱と見える」

「ち、ちがいます! マイアのイニシャルが、この村に住む人の中では一番書きやすいだけですから!」

「グランジールの譲さんのスペル、かなり複雑なはずだが?」

「難しいほうが鍛錬になるじゃないですか!」

「おや? ついさっき簡単だからグランジールの譲さんのイニシャルにしたといっていたではないか?」

「あー……うー……と、とにかく! 深い意味なんてありませんからね!」

「ヌーフェリアがそう言うならそうしておくか」


 うう……絶対そうしていない……顔がにやついている……。


「……師匠、食べたいもの、ありますか?」

「肉も良いが、やはり健康のためには野菜も食べねばな。森の奥深く、精霊の泉近くにのみ植生するアワユキソウなど食べたい気分である」

「うっ、収穫した直後から溶け出す、持ち帰り難度最高クラスの食材……」

「あー! なんだかヌーフェリアが、朝の訓練と称して葉にグランジールの譲さんのイニシャルを撃ち抜いていた事を話したくなってきたなぁ! 誰彼構わず! 誰彼構わず!!」

「わかりましたよ! 採取してくればいいんでしょう! 前世と現世の経験合わせて新造魂をからかうなんて、嫌なお師匠様だなぁ本当に!」

「わかれば良し。ほれ、早く狩りに行かねば、皆起きだすぞ?」


 今から行ったところで、森の奥深くまではいる以上、朝食には間に合わないと思うのだけれど……反論したところで、この練習をネタにされるだけだろうし、早く済ませてしまおう……。


「ああ、ヌーフェリア。今日は何かがおかしい。何が、と言われると返しにくいのだが……気をつけるように」


 立ち去り際に放たれたその言葉に、気を引き締める。サグレさんが”おかしい”といった時、必ず何かがある。

 ちゃっと行って、ちゃっとすませる気でいては、ケガをするかもしれない。お茶を飲みながら気を引き締める。何がおかしいのかは……まあ、行かないと分からないだろう。

 田舎村の近く、しかし人が多く訪れる森。僕たち村民にとっては観光資源でもある、精霊の森。ここには、精霊が住まうと言われている。

 ……まあ、そう言われている場所はいろんな場所にあって、魔法を使えることへの感謝として行われる巡礼の行き先一つに過ぎないのだけれど。たしかに、今日は何か様子が違う。


「……魔力濃度が普段と違う? 薄いけれど……ものすごく濃くなっている場所もあるような……」


 おかしいな……こんなこと、僕は聞いたこともない。

 分からないけれど、なにか不気味だ。サグレさんに口止めをお願いするためにアワユキソウを採って、後はいつも通り狩りを済ませよう。できる限り、迅速に。


「魔弾、装填。この弾頭に貫かれしもの、全て我がもとへ集うべし」


 猟銃を額に当て、魔弾に追加効果をエンチャントする。制御が複雑になるから普段は使わないけれど……急いで帰りたい。


「……行こう」


 わざと音を立てて森の中を駆ける。その音に反応して、獣が動く気配を感じ取る。

 その方向へと僕は猟銃を構え、発射する。空気を裂いて飛ぶ魔弾。魔弾とは、第三の目であり耳。その魔弾の周囲は、僕に見える場所で、聞こえる場所だ。

 大きな草食獣を見つける。その頭を正確に、一撃で撃ち抜く。

 少し離れた場所に群れがいたらしく、危険を伝える鳴き声が聞こえる。逃げ出す姿が見える。その後を追うのは心が痛むけれど、狩らなければ、僕たちは飢え死にしてしまう。せめて、子供が育つようにオスを狙って撃ち抜こう。メスが生きていれば、子供に母乳を与えることができる。

 森の最奥、精霊の泉にしかサグレさんに要求されたアワユキソウは生えていない。この嫌な感じの森から少しでも早く帰るために、少しでも早く駆け抜ける。

 三匹、四匹、五匹……大きいから、これだけ狩れば十分だ。なんなら、保存用の干し肉だって作れるだろう。

 体を動かしながら魔弾の操作をするのは、なかなか難しい。少し苦しめてしまった獣もいるけれど、心の中でわびながら倒木を乗り越える。

 その時、唐突に魔弾の制御ができなくなった。


「え……!?」


 最後に魔弾から見えた標的。

 それは、僕だ。


「っ、魔弾装填!」


 何のエンチャントもかけず、こちらへと飛んできている魔弾を狙い、今込めた魔弾を放つ。

 パァン! と大きな音を立て、魔弾と魔弾がぶつかり、爆ぜた。


「…………」


 慌てて気配を殺し、物陰へと隠れる。

 ……魔弾を、乗っ取られた? 不可能ではないらしいけれど、いったい誰が、何のために?

 ナイフに魔力を流し込み、刃を出して地面につきたてる。地表を流れる魔力は、自然に流れていく。どこまでも、どこまでも。

 あたりに魔力を吸い上げている存在はいない……つまり、人はいないか、隠れているか……。

 ……いや、なにかがおかしい。かなり距離はあるけれど、魔力の山ができているような……僕の魔力が、はじかれているような感覚がする場所がある。

 ナイフを引き抜き、物陰からその方角を覗き見る。


「…………?」


 泉のそばに……なにかが、いる。

 なにかは、わからない。けれど……たった今、危険な目にあったのに、あれは、危険ではない。そんな感覚がする。

 ぼんやりと立ち上がり、泉の方角へと歩み出す。

 泉のそばまでたどり着き、なにかを見上げ、手を差し出す。


「レイ!」


 聞きなれた声、それでハッと正気に戻る。


「マイア!? どうして──」

「それから離れろ!」


 ここにいる理由を聞く前に、必死の形相でこちらに駆け寄ってくるマイア。それで、目の前のものが危険な存在なのだと理解する。

 手の代わりに、猟銃を向け、引き金を引き、それと同時に後ろに飛びのく。

 しかし、不定形のなにかは、形を変え、魔弾を避ける。そして、僕の方へと向かってくる!


「させねー……よっ!」


 駆け寄ってきたマイアに突き飛ばされ、二人そろって泉の中に落っこちる。


「マイア、あれは何なの!?」

「説明は後! とにかく逃げるぞ!」


 有無を言わせず、マイアは僕の手を引いて、泉から離れようとする。

 だけど、その直後、下半身に強烈な寒気を感じ、足が動かなくなる。


「……くそっ。ご丁寧に、凍らせやがって……!」


 いつも静かに揺れる水面は、今は凍り付いて、微動だにしない。あれが魔法を使って凍らせたのか!?


「レイ、今からお前の足元を熱して、氷を溶かす。少し熱いかもしれねぇけど、我慢してくれ。そのあとは、ひたすら逃げろ」

「だめだよ! マイアを置いてなんていけない!」

「心配すんな……あいつの標的はお前だけだ。俺なんて目にもとめねぇよ」


 安心させるように笑うと、マイアの髪は光を放ち、風もないのに乱れ舞う。それとともに、僕の足の周りは急速に氷が溶けだす。

 これでいいはずがない。マイアは、僕には平気でうそをつくのだから。


「逃げるなら一緒じゃないとだめだ! 魔弾装填、其は万象焼く火と成りて奔れ!」


 マイアの足元を狙って、熱の魔弾を放とうとする。

 なのに。引き金を引こうとした刹那、猟銃から魔弾が消えた。


「くろノ……ぬる、じーる……」

「……!? しゃべっ、た?」

「わたしハ、ナリたい。ちから。ぬるじーるノ、ちから……」

「うるせぇ! レイをあんなもんに巻き込むな!」


 この様子、マイアは何か知っているのか? 気にはなるけれど……今はそれどころじゃない。

 でも、いったいどうすればいい? マイアの言う通り、マイアを置いて逃げることはできる。僕の足周りは、マイアの力で溶けきっている。


「……っ、ナイフ!」


 幸い、ナイフは握ったままだ。マイアの方へと駆け寄る。


「馬鹿! さっさと逃げろ!」


 たしかに、逃げることは簡単だ。でも──


「僕が助かったって、マイアなにかあったら、僕は死んだのとおんなじだ! 魔刃よ、燃え盛れ!」


 ナイフに熱をエンチャントして、マイアの足元の氷を解かそうとする。

 けれど、その間にもなにかはこちらにゆっくりと近づいてくる。


「さっきのでわかっただろ! あいつの狙いはお前だ! 俺の心配は──」

「だとしても! マイアに危害を加えないって決まったわけじゃない! 僕に逃げてほしいんだったら、マイアも自分が動けるようにして!」

「だーっ! この大馬鹿野郎! そんなんだから俺みたいなのに惚れられるんだ!」


 そう言いつつも、僕が逃げる気が無い事は分かってくれたのか、自分の足周りにも火の魔法を使うマイア。

 だけど、氷はなかなか溶けてくれない。おそらく、マイアは僕を逃がすためにほぼすべての魔力を使いきってしまったのだろう。

 僕の方は、純粋な火の魔力を持たない。エンチャントという形である程度純度をあげているとはいえ……時間稼ぎが必要だ。


「御弾、装填……我、命尽きるとも、怨敵討ち果たすことを望む!」

「バカ、やめろ!」


 マイアが慌てて叫ぶ。それも当然だろう。僕が今込めたのは、魔弾ではなく、御弾。魂そのものだ。これを撃てば、僕の魂は飛距離に応じて削り取られて行き──やがて、死に至る。


「僕が目当てなら……それ以上近づかないで。あと一歩でもこちらに来たら、この御弾を撃つよ」


 何かも、言葉の意味は理解しているらしい。これ以上近づいたら、僕は死を覚悟の上で、あの何かを撃ち殺す。たとえ避けられても、適当に飛ばし続ければ僕はそのうち死ぬ。僕に何かをしたいというのなら、僕が死ぬような行動はとらせたくないはずだ。


「……ナリたい。くろノ、ぬるじーる、ちから」


 なぜこのような態度をとられているのかわからない。そんな困惑に似た感情を、何かは浮かべたようだった。

 それでも、こちらへと来ることはなさそうだ。時間稼ぎは成功、か……。


「大丈夫? マイア、今助けるから」


 今のやり取りの間に、片足は動かせるようになっている。あと、もう片方!

 炎のナイフを、マイアがやけどしないように慎重に刺す。もちろん、猟銃には御弾を込めたまま、何かへの注意も忘れずに……。


「うわっ!?」


 その直後、ぼちゃんと音を立てて、僕の腰から下くらいは水に浸かった。おそらく、魔法が解けたのだろう。

 一瞬目をそらしたすきに、何かもいなくなっていた。まるで、幻でも見ていたような気分だ。


「何が何やらわからないけど、マイアにケガがなくてよかっ──」


 しゃべりながらマイアを見上げようとすると、唐突に抱きしめられた。


「馬鹿……っ! カッコつけないでよ! あれがもしも御弾を暴発でもさせれば、レイは死んでた! 私のために命なんてかけないで! レイがいなくなったら、私、私……っ!」


 そこから後は、涙声でよく聞き取れなかった。ただ、その声は、僕のことを心の底から心配してくれているのだ、と良く分かる声で……それゆえに、その、抱きしめられている姿勢や、顔にあたっている部分が、その、ちょっと、問題が出てしまうというか。

 できる限り力を込めずにマイアの腕から逃れ、立ち上がる。


「マイア、大事に思ってくれるのはうれしいのだけど、その……新造魂だろうと、マイアの前世が男だろうと、今は年頃の男女だってことに変わりはなくて……あまり、今みたいな抱きしめられ方をされると、我慢できないから……ね?」


 それにしても、マイア……ひょっとして、男口調は無理してるのかな。今、私って自分の事を呼んでいたし。


「ご、ごめんなさい。私……はしたないわ」


 女性として恥じらいを見せたマイアは、鼻血が噴き出るかと思うほどに愛らしい。


「でも、レイなら……いいのよ?」


 やめて……そんな潤んだ、何かを期待してさえ見える目でこちらを見ないで……。


「と、とにかく、何か今のは危険だったんだよね? だとしたら、早く逃げた方が……」

「そ、そうね。姿を消したみたいだし、少しの間は安全だと思うけれど……」


 びちゃびちゃ。

 唐突にそんな音が響き渡る。

 音の元、水面を見ると、澄み切った水に、不思議な色が広がっていた。

 それと同時に、気づく。

 僕の腹が、何かに貫かれている。なのに、痛くないことに。


「レイ!」


 声を出そうとしても、出ない。

 なんで。マイアを安心させてあげたいのに、体が動かない。


「──……! かっ……ひゅー……」


 ようやく、息ができたと思ったら、それは、重傷を負って、いまにも息絶えそうな人の呼吸に似ていた。

 なんでだ!? 痛くもかゆくもないのに、なんでこんなに……!


「うぷっ……がはっ! げほっ……!」


 突然の吐き気。衝動のままに吐き出したものは、泥のような何かで、泉に沈んで、そのまま水底の泥になじんでいった。

 あれ……? さっきまで、僕の腹を貫いていたものはどこに行ったのだろう。

 ふと気が付いてあたりを見渡すけれど、その痕跡は僕の服に空いた穴くらいしか見つからない。傷跡すらない? え、なんで?


「レイ! ごめんなさい……ごめんなさい! 私が近くにいたのに、守れないなんて……!」

「大、丈夫だよ、マイア。もう痛みもないし、吐き気も収まったから」

「大丈夫じゃないわ……あれは、レイの中に入ってしまった。もう、始めるしかないのよ……」

「マイア……? あれとか、始めるとか、何の話? 説明してくれないと、分からないよ」

「……そうね。みんなに伝えるのも兼ねて、いったん村に帰りましょう。説明は、お父様がしてくれるわ……」

「う、うん。そうだ、アワユキソウ……あれ? さっきまで、生えてたのに……」


 サグレさんの口封じ用のアワユキソウは、ほんのりと光る、魔力が構成の大部分を占める植物だ。だから、今の騒ぎの中でも光っている植物は視界の端に見えていたのだけれど……。


「……あれは、きっともう生えないわ」

「それって、どういう……?」

「……帰りましょう。ない物を探しても、無駄だから」


 妙に力のこもった言葉。男口調の時も、女口調の時も、今までこんなマイアは見たことがなくて。

 だから、僕はマイアに従って、泉を、森を後にした。

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