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成果は上々

 衛兵さんが、旅人にまで狩りを頼む理由が良く分かった。

 なんでかわからないけれど、動物たちは食料を求めている。食料を求めて、どこかから押し寄せてきている。

 空腹から苛立ち、荒れているように見えた。あくまで、猟師のカンみたいなものだけれど、オスもメスもなく、人里にまで押し寄せるなんて……動物たちのもといた場所は一体どうなってしまっているんだろう。

 でも、とりあえずこんなものだろう。魔弾で貫いた動物はとっくに五十を超えている。下手をすれば、百も越えているかもしれない。たとえ害獣であっても、食べきれないほど狩るのは僕の流儀に反している。それに、もう日が沈む。衛兵さんに狩った分のお金をもらって、おかみさんに料理してもらって、干し肉にできるように処理して、それでも余る分は明日の朝、市場に引き取ってくれる人がいないか探そう。

 とりあえず、おいしく食べるために血抜きはしてあるし、必要以上に苦しませることもなかったはずだ。これだけ狩ったのなら、上々の結果といえるだろう。

 しかし、これだけ多く狩るならやはりエンチャントをしておいて正解だった。小さな山になるくらい狩ってしまったから、手で運ぶのは骨が折れるなんてものじゃない。魔法でふよふよ浮いて後をついてくる狩りの成果。これが生きている動物だったら、ちょっとした動物園だ。


「あ、衛兵さーん。ただいま戻りましたー」

「おや、お兄さん。手ぶらってことはさっきのお姉さん同様成果は──ずぇぇっ!?」


 壁の陰になっていて見えなかったんだろうけど、さすがに狩りすぎただろうか。衛兵さんが腰を抜かさんばかりに驚いている。


「いやぁ……すごいねぇ、故郷ではさぞ有名な漁師だったんじゃないの? 害獣駆除の報酬がこのまま続くんだったら、豪邸建てれるよ、お兄さん。あ、首は落とさせてもらうよ。同じやつで駆除報酬取りに来ないよう、決まりになってるんだ」


 衛兵さんの声は、驚きからか少し震えている。けれど、手際よく首を落としていく。まあ、血抜きのために多少切ってあるから、そこから切っているだけなんだけど。


「うわぁ……ネグイモグラを短時間でこんなに狩る人初めて見た……狩猟困難で単価高いのに……なにかコツとかあるの?」

「まあ、根っこをかじるとよほど太くてしっかりした根の植物じゃない限り動くじゃないですか。風を読んで、不自然な動きをしてる植物があったらその根元にいます。まあ、かじられてからじゃないと分からないので、事後対応になっちゃうんですけど……」

「昔からたまに出るからそういう時は狩るけど……この辺の猟師は巣を探して戻ってきたところを捕まえるよ? 何その観察力……怖い……」


 苦笑しながらだから本当に怖がられているわけではないだろうけど。師匠にはこれくらいできないとダメだって言われてたから褒められるのは照れくさいな……。


「まあ、何はともあれ狩ってくれたのは事実。ちょっと待ってね、報奨金の計算して持ってくるから」


 落とした首の袋を持って衛兵さんは待機小屋らしき場所に入っていった。

 さて、それじゃあ待ってるけれど……首を落とされた動物はどうしよう。魔法の制限まではないみたいだからまだふよふよしているけれど、首なしの動物をふよふよ引き連れて歩くなんて、ちょっとしたホラーだ。


「お待たせ、お兄さん。これ、報奨金ね。あと、運ぶのに不便じゃないかと思って袋持ってきたけど、使う?」


 ふよふよしている動物たちを見て悩んでいると、衛兵さんの声がした。そちらを見ると、片手でギリギリ持てるくらいの袋と、ひきずらなくてはとても運べない大きな袋を持ってきてくれた。


「お気づかい感謝します。こんな状態で歩いて行っては町の人を怖がらせてしまうのではと思っていたところです。それにしても、報奨金がものすごいことになっているように見えるのですが……」

「そう、なんだよね……お兄さんみたいな凄腕がいると思わなかったから、一匹二匹分の報奨の銅貨しか用意がなかったんだ。普通に金貨、銀貨と交換できるだけの額だから、今日のところは証明書類を渡して、明日役場に行ってもらったほうが良いかな?」

「それでお願いします。旅の身としては、いくらお金でも荷物は減らしたいですし」

「そりゃそうだ。それじゃあ、書類作成頼んでくるから袋詰めでもして待っててくれるかな?」


 その言葉にうなずくと、衛兵さんは大きいほうの袋を僕に渡して、もう片方の袋を一生懸命抱えて小屋に戻っていった。なんだか苦労をかけて申し訳ない……。

 黙々と袋詰め。魔法は袋に入れても効果が続くから、持ち歩くのに不便することはない。

 さて……ほかの宿泊者さんにもおすそ分けすれば何とかなりそうだし、どんな料理にしてくれるか楽しみにしよう。

 味でいうと果物を食べる動物。おかみさんの技術でいうとやはりネグイモグラだろう。果物を食べる動物は良く肥えて、ほんのり果物の香りがしておいしい。ネグイモグラは土の中にいて、根っこと一緒に土も食べてしまうから肉が土臭かったりする。それを香草なんかで消してやると独特の食感でおいしいのだけれど。


「──さん、お兄さん! よだれたらしてどうしたの?」

「はっ……すいません、おなかがすいて、これをどう調理してもらおうか考えてました」

「食いしん坊だねぇ。まあ、育ち盛りにはいいことだ。持ち込んだ材料で作ってくれるいいお店紹介しようか?」

「安くておいしいですか?」

「もちろん! 彼女さんと一緒にどうだい?」

「あ、いや、彼女というわけでは……まだ」

「それなら今晩なっちゃえばいい! そういうことならおじさんおごるよ?」


 おごり。その言葉に少し心が揺らぐ。

 いや、さっきの袋いっぱいに銅貨が入っているとなると、めったにお金を使わない故郷では余裕で一年は余裕でもつくらいだと分かっているんだけど。ほら、使わないで済むなら使わないほうが良いものではあるし。

 そして、衛兵さんは僕とマイアをくっつけるためにいろいろ手を回してくれるだろう。この話の流れなら。

 そうなると……今後の旅路が不安だ。僕の理性が、それはもうとっても。


「お気持ちだけいただいておきます……付き合いたての恋人がべたべたしながらでは、巡礼しても怒らせてしまいそうなので」

「それじゃあ、巡礼が終わってここにまた来ることがあったらその時にしよう。いやあ、楽しみ楽しみ! あっはっは!」


 巡礼が終わったら、か……うん、それならいいかもしれない。実質僕とマイアは両思いだし、後は村長の許可を得るだけ、というところまでなら進んでも……いい気がする……。


「先輩、おじさん特有のおせっかいやいてないで仕事してください」


 色ぼけたことを考えていると、それを中断させるように冷たい声が響いた。


「あとハンターさん。これ、証明書です。今日はもうしまってますけど、明日役所に持って行けば交換できるので」

「あ、こら。そうやって必要最低限のことだけ言って去っていくのはやめろって。それと自分で言うならいいけど人に言われると傷つくからおじさんはやめて?」


 衛兵さんの後輩らしき人は僕に書類を渡し、衛兵さんにもう一言毒づいてから小屋に帰っていった。仲が良いのか悪いのか……。


「……いやー、愛想があれば、あいつもいいやつなんだがねぇ。まあ、そう言ったら下手に関係を築いても業務に支障をきたすだけです、って言われて終わりだろうけど」

「大勢と仲良くなると、その中に悪いことをしてしまう人が出てしまうかもしれませんから、後輩さんの言うことももっともなんですけど……とっつきにくいのも考え物ですよね」

「そうなんだよねー……あれじゃ信頼されるかどうか」


 少し雑談をして、宿へと向かう。やっぱりあの衛兵さん、良い人だなぁ。

 そう言えば、さっきの人はどこに行ったんだろう。夜行性の害獣を狩りに来る、とか言ってたから衛兵さんと話してる間に声かけられてもおかしくないと思ったんだけど。

 あのニケという人は、いくら何でもミャイケニッヒリィンに似すぎていた。できればお話をしてみたかったけれど……見つからないのでは仕方ない。こちらから探したところで、この街中からたった一人を探すのはマイアに心配されない程度の時間ではとても足りないし。


「信頼は時に万金に勝ると言います。後輩さんがもうちょっと柔らかい対応ができるように、お祈りしています」

「ありがとう。お礼と言っては何だけど、旅路の安全と、お連れさんとの良縁を祈っているよ」


 その言葉に、少しだけ困った笑みを浮かべて返す。まあ、男女二人っきりで旅をしている時点で恋仲か、それに近いと思われても仕方ない……のかな?

 なんとなく一礼を交わし、僕は衛兵さんのもとを立ち去った。

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