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おのぼりさんは害獣駆除がお好き?

 ……はっ。眠気にすっかり負けていたようだ。慌てて外を見ると、空はすっかり赤く染まっていた。

 これはまずいかもしれない。畑を荒らす害獣のリストには、昼間に活動する動物もいた。夜行性の動物も活動しだすことも考えると、まさに今が狩場にいなくてはいけない時間だ。

 もう少し気持ちのいいふかふかに身をゆだねていたい、という欲望を振り切り、猟銃を片手に急いで部屋を出る。


「おかみさん、ちょっと狩りに行ってきます!」


 ちょうど受付にいたおかみさんに声をかけ、街中へと出て、門の方へと駆け出す。猟銃という人を傷つけることもできる道具を持っていてもだれも驚かないのは、入るときにしっかりと封印がかけられていることをみんな知っているからだろう。それだけこの街が平和だという証拠かもしれない。

 だからこそ、この街の人にできることはできるだけしておきたい。平和は、あると当たり前のようだけど、とても尊いものだと思うから。それを乱すのは、たとえ食料がちょっと減るだけでも防ぎたい。

 もちろん、害獣といえど命は命。それを狩る以上、しっかりおいしくいただく。それも猟師の務めだ。今から狩れば夕飯に間に合うだろうから、おかみさんに料理してもらうのもいいかもしれない。


「衛兵さーん! 害獣狩りに行くので、封印といてくださーい!」

「お兄さん、本当に来てくれるとは思わなかったよ! 街中でだけ機能する封印だから、壁の外に出れば撃てるようになるよ!」

「はーい! それじゃあ、行ってきます!」

「おう、頼んだよ!」


 手を振って見送ってくれる衛兵さんにこちらも手を振り返す。街に入るときと同じ衛兵さんだったけど、ちゃんと交代してやってるんだろうか。平和な街だからか、そこまで重そうな防具はつけていないけれど、それでもずっと立ってるのはつらいはずだ。


「さて、何を仕留めるにせよ、弾込めをしないとね……魔弾装填、貫かれし命あったもの、我がもとに集うべし」


 城門を出てすぐのところから見える範囲でも、仕留めた害獣を一頭一頭拾いに行っていたら時間がいくらあっても足りないぐらい畑は広範囲に広がっている。

 ……そういえば、リストにはネグイモグラもいたな。名前の通り植物の根っこを食い荒らす生き物だから、土の中まで届く魔弾じゃないと仕留められない。姿が見えないのは、根っこを食べられている植物の不自然な動きを頼りにするしかないけれど、それも何度かやったから慣れている。


「追加装填、万象貫く力となりて奔れ」


 一発の魔弾に二つのエンチャントをするのは、結構高等技術らしい。師匠曰く一つのコップに、コップ二杯分の水を注ぐようなものだとか。つまり、それだけの無茶をしているということで、気をつけないと暴発してしまう。


「キミ、すごいねぇ!」


 だから、そう声をかけられて少し慌てた。


「ああ、ごめん。二重付与なんて初めて見たから、つい。でも、本当にすごいや! 大雑把な魔法しか使えないボクじゃ、一生かかってもできないだろうなぁ……」


 集中を乱すと危ない、そう理解している様子なのになおも話しかけてくる。その声は、ボクという一人称に反して女性の物だ。

 とりあえず、撃ってしまえば暴発の危険はないけれど、撃ったら撃ったで農家さんや、作物に当たらないように気をつけないといけない。そこまでの集中は、この人と話をしながらではできないだろう。そう思って、いったん魔弾を魔力に戻し、声の方に目をやる。


「すいません。褒めてもらえるのはうれしいですけど、集中できない、の、で……」


 そして、言葉に詰まる。

 女性は、白い短髪に健康的な褐色の肌、すらりと伸びた手足、腰は細く、それなのに女性らしい丸みのある魅力的な外見だった。

 惜しげもなく肌を見せる服装は多くの男を惹き付けるだろう。だけど、美女を見ただけで言葉に詰まっていては、異様に積極的になったマイアの相手はできない。

 僕が、言葉に詰まった理由は──


「ミャイケニッヒリィン……!?」


 ──褐色の美女の傍らに立つ、もう一人の女性の姿だった。

 茶色の長髪、色素の薄い瞳はミャイケニッヒリィンとは大きく異なる。

 だけど、他人の空似で済ませるには、あまりにも似すぎている。

 だって、髪の色と瞳の色を変えれば、彼女はもはやミャイケニッヒリィンそのものといってもいいほどに、それ以外の要素が一致しすぎている!


「みゃいけ……? 何のこと?」


 褐色の美女は、そういって首をかしげる。


「あ……すいません。ちょっと、その人が知ってる人に似ていたものですから」

「なるほどねー。でも、この子はそのミャイケ何とかさんじゃないよ。この子はニケ。ボクの旅の相方さ! 今は、キミと同じで害獣駆除をした帰り。ただ、場所が悪かったのか、それとも僕の魔法の使い方が悪かったのか見てのとおり手ぶらで帰ることになってねー。いやぁ、悔やまれるよ。長旅では貴重な、おいしすぎるくらいの条件のお金稼ぎ兼食料調達だったのに、ざんねーん。でも晩御飯食べたら夜行性の獣を狩りにもう一度来る予定だからまだあきらめるには早──もがっ!?」

「悪いわね、この子、自分の感情に素直なうえに一度話し出すとなかなか止まらないの。ほら、行くわよ」


 褐色美女はもう一人に引きずられるように、でもこちらに手を振りながら去っていた。なんというか……なんだったんだろう……。


「……まあ、いいや。魔弾装填、貫かれし命あったもの、我がもとへ集うべし。追加装填、万象貫く力となりて奔れ」


 魔弾の装填、エンチャント二つをかけ直して、猟銃を構える。はるか遠くの針の穴に通せるだけの集中を、視界全てにめぐらせろ。師匠からの教えだ……それがどれだけ難しいかは今までに十分すぎるほどわかっている。

 けれど、それぐらいの集中をしないといけない。ここは、僕しか人のいないあの森じゃない。農作業を終え、帰ろうとしている農家さんもいれば、害獣から守るべき作物もある。それをもう一度肝に銘じて、リストに名前のあった動物を探す。

 安全を重視するなら、まずは人のいない場所。上空を舞う鳥から撃ち抜こう。

 そう判断して、僕は魔弾を放った。

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