第1の地域ヴェンデッタ
もしも…ならば,… もしも自分が異性だったら、もしも自分に不思議な力があったら、もしも自分が…と誰しも1度は考えたことがあるのではないだろうか。
これから始まるのは「もしも」の世界の話。ではそのもしもとは?
「おじちゃん、野菜分けてくれよ!俺の家で出来たお米分けるからさ!」
「はいよ!坊主の所の米はいつも美味いからな。おじちゃん助かってるよ」
子供の威勢のいい声に、優しそうなお年寄りが言葉を返す。
「そう言ってもらえると、ばぁちゃんと母さん喜ぶよ!なにせお米作っても、それとの交換相手がいないとなんにもならないからね!」
「ははは それでもな坊主。ここの地域は恵まれてるんだぞ。 他の地域では物々交換で物事が成立する地域はない。 力で制圧したり、見てくれだけで優遇されたり…ここは恵まれてるんだよ。」
お年寄りの話しからはこの地域での生活に感謝しているようにも感じられた。子供は不思議そうな表情で見上げている。お年寄りは続けた。
「この国は7つの地域に別れていてな ここ第1の地域ヴェンデッタは物々交換をすることで、争いなく人々が過ごせるようにと考えられているから…お前さんも含めこの地域で暮らしている者共は幸せだと、私は思うがの」
子供は話を聞いた後、お年寄りの言葉を理解出来ていなそうながらも、分けてもらった野菜を手に笑顔で立ち去って行った。
「また難しい話しを子供にしてたんですか?」
お年寄りの後ろから1人の女性が話しかける。
「これはこれは代表様。 癖みたいなもんですわ 今の生活がどれだけ恵まれてるかを、知らない子供伝えたくなっちまう。 これも代表様のおかげでございますな。」
声をかけた女性の名前は満井流花子
初代代表 満井龍之介の末裔で、天真爛漫、人々は助け合いが大切を心情に人々から愛される地域の代表である。
「そんなことありませんよ。 私は何もしてないし、この地域のルールだって先代達が作ったものをそのまま引き継いでるだけですから。」
謙遜か本心か、微笑みながらもやや否定気味に流花子は答えた。
日は落ち 地域の外は出歩いてる者も少なくなり、静かな夜がやって来た。
地域の中心に位置する平屋では明かりが灯され中にはここ第1の地域ヴェンデッタの代表流花子を初め、地域を支える重役達が話し合っていた。
「…それにしても、ここ最近怪我人が多いとは思いませんか?私が記憶するだけで8人が骨折等の負傷をしている。怪我人に話を聞いた所、皆口を揃えて[後ろから襲われた]と話す。 今までこの地域でも争いが全くなかった訳ではない。交渉の中で話が崩れ、争いになることもしばしばあったが、後ろから急に襲われて物資を強奪されるなんてことはなかった。皆それが悪と理解しており、それをしたらここでの生活が成り立たなくなると分かっているからだ。」
地域の相談役の佐田利宗が説明する。
「すると、そんなことをしてしまうのは新参者だと?」
住民管理責任者の虎太郎が話す。新参者となると最近転入してきた若いのが1人いるが…
と続けるが、利宗が割って口を挟む。
「いや、あいつにそんなことはできまい。 病弱で細身の女子みたいな男じゃし、なにより力がない。強欲を働いても返り討ちに合うのが目に見えてる。私が懸念してるのは場所が第2の地域との境目付近であることじゃ。」
一同にピリついた空気が走り流花子が呟く
「第2の地域の住民の犯行…しかし協定が…」
すかさず利宗が話す
「流花子様 協定なんぞ第2の地域に無用。奴らは力こそが全て、ルールがあっても罰則がない以上、遅かれ早かれこうなることは分かっていた。 1お互いの地域への出入りは自由。しかしその地域でのルールに従うこと。 この協定に罰則がないのは明らかに第2の地域に寄りすぎてる。 貴方様の優しさかもしれないが、これは今後代表同士で改善して貰わないと住民に危害が加わり続けますぞ。」
流花子は気を落としたように話す
「まだ第2の地域と決まった理由では…」
数分の沈黙の後利宗が話す。
「それでは地域の境目に見張りを立てて見るのはどうだろうか?それで第2の地域住民が出入りしてるかどうか、またルールを破っているかどうかハッキリするじゃろう。それでよいですかな?流花子様。」
流花子はそれを了承し、来月の会議での報告を待ちその後もう一度考えることでその日は終わった。
しかし、報告を聞くまでの時間はそんなにかからなかった。
4日後…
「流花子様!!見張りの者から第2の地域の住民と見られるものと、この地域の者が争ったとの報告がありました!」
見張りからの連絡をきいた伝達班が慌てて流花子の元にやってくる。
「わかりました。 そこに私も向かいましょう。事情を聞いてその後第2の地域代表に掛け合います。」
流花子は冷静に返答をし、その現場へ向かう。
〜地域境〜
「流花子様!!」
若い青年が流花子に気が付き声をかける。
「先程第2の地域住民と見られるものに仲間が襲われて、食料を奪われてしまいました…後ろから急な事で、僕はかすり傷で済みましたが、仲間は…」
流花子は怪我人に近寄り、ごめんなさいと呟き、様子を観察、命に別状はないことを医師から聞くと、決心したかのように立ち上がり、その場を後した。
夕暮れ時の地域境にて、2人の男が会話をしている
「さて、今日はどーするか」
「ここ最近で物資調達(強奪)の頻度を増やしたが、やっぱりこの地域の代表様はお人好しだな(笑) なにも対策をしねー。ありがたいこった。」
「なら今日も適当に調達して帰るかな(笑)」
2人の男の会話をしていると、前方より1人の人影が近づいてくるのが分かる。
「…君たち、ここの地域住民じゃないよね? どこの地域から遊びに来たのかな? ちょっと話し聞こえたんだけど、強奪ってなに?」
淡々と話す女性の声に、男二人は目を細め、歩いて来る人物が誰なのかを確認しようとする。
「お前…満井流花子か?」
「ははは お人好しの代表様が何の用だい? 」
男達は目の前に歩いてくる人物が流花子である事を確認する。
「私の顔と名前を知ってるか。 なら話は早い。 強奪という言葉を使うということは、ここの地域のルールは知ってるな?」
流花子からでる言葉はとても冷たく男2人は一瞬怯む。しかし
「知ってるとも。 だがなにか?罰則をルールに定めなかったお前達地域が、ここまで平和にやれてたのは運が良かったのさ! 俺らはルールは守ってないが、罪には問われないはずだ。 代表様よー。何しに来た?」
「私がルールに罰則を作らないのはみんなを信じてるからだ。人と人とが信じ合い助け合うことが、私の思いだ。 」
流花子は話す。
「そして、暴力について罰則を作らなかった1番の理由は…お前達みたいな奴を罰する時に私自身が罰られない為だ。」
2人の男は瞬く間に流花子の姿を見失い、空を見上げていた。
「!?なんだ 何が起きた」
男は思う。何が起きたのか、流花子は一瞬にして男達の背後に周り、二人の男の首に手をまわし地面に叩きつけたのだ。
「お前達に2つ命令する。 1今日のことを他言しないこと。2二度とこの地域のルールを破らないこと。分かったか?」
流花子の言葉に男2人は無言で頷き、逃げるように去っていった。