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―目を開けて、ジャン―
ハイデの言葉。これは、どちらのハイデだろうか。
―私だよ、大丈夫、もう、大丈夫だから―
恐る恐る、目を開ける。
散らかった部屋、ベッドの上、いつもの天井。
「ゆ……め……?」
手を伸ばし、天井にかざす。紛れもなく、潤の手である。身体を起こし、混乱したままの頭を振って、癖でエナジードリンクに手を伸ばした。
―ダメ‼―
ハイデの言葉が流れてくる。
「夢じゃない……⁉」
―それ、飲んじゃダメ‼―
着ていた服の、首の後ろを掴まれ強引にベッドへ引き戻される。バランスを崩して倒れ込んだ目の前に、白い髪がゆらりと動く。
「……ハイデ……⁉」
そこに居たのは、ハイデだった。
「なんでここに⁉」
―こんなの、終わらせなきゃダメだよ―
涙目で訴えかけてくる。手を伸ばし、頬に触れた。そこにハイデは、本当に存在する。
「……なにか、知ってるのか?」
―…………―
「知ってるんだな、全部」
―……私を、信じてくれる?―
「あぁ、信じるさ。ハイデはいつも」
ピンポーン。
インターホンの音が、潤の言葉を遮った。
「来たか……」
身体を起こす潤の手を、ハイデが握る。なぜだかそれが、ひどく懐かしく感じた。
―覚悟を決めて、ジャン。思い出して、ジャンなら大丈夫だから―
頭が痛い。
「全てを知るには、それ相応の覚悟が必要、だよな」
―…………うん―
苦しそうな顔をするハイデ。その手を引いて、玄関の鍵を開ける。
「お届けものです、立花潤くん」
いつもの制服を着た、いつもの男が、真っ黒の空間で箱を抱えて立っていた。




