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クロックロック  作者: 海咲えりか
明晰夢(めいせきむ)
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『運営から返事来てたぞ、名前変更アイテムは課金だけど、アーリーだから実装してないってよ。テストも出来ない段階なんだとさ』


 カップめんをすすりながら、クロから届いたメールに目を通す。


『はいはぁいジャンくん、まだ起きてるかしら? れいのおつかいクエの報酬について、やっぱりバグだったみたい。明日のログイン時間までに修正して、ジャンくんのインベントリに追加しておくって』


 今度はユリィからのメールだ。見ての通り、運営との連絡は他のメンバーに任せていた。

 数日前から運営の送って来るメールがどれも文字化けするようになってしまい、潤から問い合わせる事が出来なくなってしまったからだった。その件についても原因を調べているが、運営によるとフリーメール側の問題らしい。違うメールソフトに変更しようかと申し出たが、クリアまでに修正を試みるのでそれまで放置、報酬のクロックアカウント受け渡しで行き違いがあっては困る、本人確認が大変、という返事。運営の緩さにはほとほと呆れ返ったが、大事なクロックアカウントの為を想えば不便も我慢するしかない。


「はぁ……眠い……とりあえず了解ってだけでいいか……」


 適当に返信して、パソコンの前から離れた。ベッドに横になり、見慣れた天井をぼんやりと見つめる。

 どのくらいそうしていただろうか。ベッドの下に落ちていたスマホが振動した。


「あれ、なんだ?」


 手を伸ばすと、通知が一件入っている。ロックされてから、どのアプリもクロックと連携して何もできず、充電したまま放置していたスマートフォンだ。今さらなんの通知が、と開き、息をのんだ。


『HEIDE』

「へ、へい……ハイデ⁉」


 本来、通知はどのアプリからのものか、アイコンが表示される。しかし、この通知はただの文字だけだった。恐る恐る端末のロックを解除して、通知に触れてみる。何かのアプリが開いたような挙動をしたが、画面は真っ暗だった。


「…………電源落ちた?」


 呟くと、白い文字が浮かび上がる。


『潤くん、起きてるでしょ?』


 首元からぞわぞわと鳥肌が立っていくのを感じる。


『聞こえるよ、潤くんの声』

「俺の……声……」


 思わず声に出す。


『そう、聴こえてる。優しい声。大好きな声。救われる気分になるの』

「俺の声が聴こえてる……のか……通話……?」

『違う』


 真っ暗な画面に、白い文字が浮かんでは消える。たった二週間そこらなのに、懐かしくも思える表示。クロック配信のコメントのようだった。


『潤くん。声が違う』

「何言ってんだ……よ……お前、誰なんだ?」

『潤くんの声、もっと高い』


 返事に困る。ゲーム内での出来事を思い出した。潤の事をアウルと呼んだハイデ。潤がゲーム内で意識的に声色を変えている事も、知っているという事なのか。


「あー……これでいいか?」

『わぁ‼ 懐かしい……変わってないね、潤くん』

「お前、本当の名前は? 誰だ?」

『私は……私は*@・?◇』

「おい、文字化けしてるぞ」

『……まだダメみたい。でもね、信じてるよ』

「何をだ?」

『私の事、忘れてないって。私、信じてるから』

「知り合いなのか?」

『どうだろ、ね』


 ハイデの返事は、浮かんではすぐに消えていく。


『私も、声でお話したいな』

「お前本当は声出るんだろ?」

『潤くんはチートってどう思う?』

「は?」


 会話が成り立っているようで、噛み合わない。しかし、出来るだけ会話を長引かせようと、こちらも話を続ける。


「はぁ……チートなぁ……公式が認めてるような、コマンド系はなんとも思わないな。そういう遊び要素だから」

『潤くんらしいね。じゃあ、外部ツールを使うようなものは?』

「それは反対。特にオンラインはな。チート対策に奔走させられてる運営も可哀想だろ?

そこに人員と時間を費やすくらいなら、他に機能を追加したり、イベントや遊び要素が充実していく方がいい」

『ふふふ、そうだね。知らずに関わっちゃった人が被害を受ける事もあるし』

「きちんと正規ルートで買って、純粋に楽しんでるプレイヤーまで被害を受けるのはな。かと言って、きちんと見極めてペナルティを科す運営側の力量が足りないかって言われたら、それも違う。禁じられている事をやる奴が悪い」

『じゃあ中古品を買うのは?』

「それは別に……ゲームを楽しみたいけどお金がないってのは、気持ちもわかるしな。あぁでも、転売は嫌いだ。もし余裕があって、その作品が好きならきちんと新品を買った方が良い。応援したいなら、なおさら」


 ただの雑談になっているが、内容が内容なだけに口数が増える。いつ、だれに言われたのかも思い出せないが、アウルは普段口数が少ないわけではない、コツを掴めば沢山喋ってくれるようになる、と言われたのを思い出した。


『転売は許せないね、私も嫌いだな。でも、潤くんも似たような事、するでしょ?』

「なんのことだ?」

『レトロゲーム』

「あぁ……生産終了してるものだからな、大体が。ゲームデータそのままが落ちてる事もあるけど、それよりはマシかと思ってる。プレミア価格の意味が違うと思うしな」

『でもそれは、潤くんの主観でしょ?』

「そうだけど……」

『終わったものを懐かしむのもいい、けど、終わったものを終わったものとして思い出にして、無理にそれを引き出さない方がいい時もあるんだよ』

「言われてみりゃ、いざやってみると操作性が今と違って、変に難しかったりするよな」

『そうそう。それが当たり前だった時代と、出来る事が増えた今の時代にやるのでは、また変わって来るものだよ。楽しかったな、で終わらせるのも選択肢の一つだと、私は思うなぁ』

「……何が言いたいんだ?」

『そのうちわかるよ。さて……そろそろ限界かな。ねぇ、潤くん』

「なんだ、ハイデ」


 返事をすると、画面が真っ暗なままで返事が来ない。


「なんだ? おい、ハイデ?」


 画面に触れてみるも、反応はない。何気なくぽつぽつとタップし続けていると、画面がぐるりと歪み、形をなしてこちらへ飛び出してきた。


「え⁉」


 それは人の手のような、脈動する液体のようにも見えた。その手が、あっという間に潤の手首を掴み、圧倒的な力で画面へと引き摺りこもうとする。


「どっ……なっ……やめっやめろ、やめろおおおおおおおおおお‼」

「っはぁ‼」


 目が覚めた。見えたのは、いつもの天井。自分の手を確認するが、特に変わった様子はない。汗だくになっているのに、肌寒く感じた。


「夢……?」


 身体を起こす。スマホは、ベッドの下で静かに充電されているままだった。


「なんつー夢を……」


 時間を確認すると、午後二時。ログインするには早すぎる時間だった。


「……はぁ……風呂、入るか……」


 混乱したまま、風呂場へ向かった。

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