第99 4169話 腐らないように生きる
現代、鉛のような世界の中、生き辛い世界の中で彼は生活している。
日に日に削がれていく時間に、見えない何かに急かされているような感覚に陥る。
数々溜め込んでいたやることリストの上に、時間が積もっていく。
大事な日でさえも、気を引き締めることができずにいた。
そんな大事な日、彼はとある場所に行く。
会場に入り、エレベーターで三階へ。白い個室に入り、一対一の会話を行う。
「では先ず、貴方がここに来た理由を説明してください」
「……」
彼は少し考える。
「私は……腐らないためにここにきました」
「腐らない……?」
「はい。私、上から強制的な命令を受けて動く。そのような環境でないと生きていけない事がわかったんです。そうしないと、私は腐ってしまうんです」
「腐るという点がまだ把握できません。貴方の言う腐るとは、どういうことですか?」
彼は過去の自分を見つめる。腐っている自分の姿を思い返す。
「意味のないことをしている時、です。ゲームをしている時とか。確かに、ゲームは楽しいです。ですが、ゲームをある程度遊んでいると、思うんです。遊ぶのはいいけど、これの意味は何だ、と。でも、ここまで考えておいて、結局その答えは出ないまま、ゲームを終えるんです。そんな姿を思い返すと、あまりにも腐っているようにしか見えなくなったんです。これが私の言う腐るです。私は自分を腐らないようにするためにここにきたんです」
「なるほど……大体わかりました。それでは、手続きを行いますので、隣の部屋までどうぞ」
彼はその人の後に続き、隣の部屋へと入っていった。その部屋には名前が書かれていたが、彼はその名前を一瞥して吐き捨てるような笑いが出た。
『人生取り戻し管理局・手続き窓口』
(こうでもしないと、俺は腐るんだ。人の形した抜け殻になるよりはましだ)
腐った感情を消すにはかなりの時間を要することになるが、少しでも、腐敗を遠ざけるには、動かなければ。