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外面だけは完璧なコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
最終章 外面だけは完璧だったコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる
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騎士団長と語りたい

 ヴェルナは、動いた。

 

 優雅に馬上で抜剣した三騎は、ヴェルナの視線と動作に釣られて、手綱を操ろうとし――完全に静止した彼女を視て驚愕する。


簡易霊唱(イジアウル)浸透せよ(トヴェスタル)

 

 騎士の顎の下の空気が揺らぎ、“破裂”した。思い切り下顎を打ち付けた騎士は昏倒し、馬首の下に入ったヴェルナが思い切り手綱を引く。


 恐慌を起こした馬が泡を噴き、前足を高々と上げる。恐怖が伝染した馬たちは暴れだして、残る二騎はどうにか制御しようと躍起になった。それこそがヴェルナの狙いであり、彼女はほくそ笑んで狙い撃つ。


 指先から、放たれる気弾。穿たれた兜が正反対を向き、暗闇に閉ざされた彼らは、パニックを起こした。


「行きなさい、冒険者ども!! 喰らえ、数の暴力!!」

「ひ、卑怯くさ……」


 無力化された騎士たちなど、怖くもなんともない。突然の急襲で腰の引けていた冒険者たちは、掌返ししてときの声を上げ、馬から騎士たちを引きずり下ろして縛り上げた。


軽装戦士スカーミッシャー、走りなさい!! 見張り塔まで行って、周囲に伝令役がいないか確認!! そこの精霊使い!! 気精シルヴェストルと契約してるなら、彼らについていって怪しげな影は狙い撃ち!!」

「あー、そこの君たち、騎士のポイ捨ては禁止ですよ。ヴェルナさんの指示に従って、担ぎ上げてる彼を解放しなさい。捕虜の使い道はこれからなんだから、せっかくの実験材料を無駄にしないでくださいよ」


 脅迫にきた先遣隊を秒で潰し、近くにいるであろう伝令兵を無効化する命令を伝える。


 王が不在となった現在、王都にいるのは民と冒険者、そして王に忠誠を誓う者たち……その中心は、聯盟騎士団(リベルム・ベト)であることは間違いない。


 王都に閉じ込められている現状。この事態を引き起こした黒幕を打倒するためには、民、冒険者、騎士団の三本の矢が必要となる。そのためには、騎士団に実権を引き渡す手も考えていたが、軍事力に権力が加わってろくなことにならないのは歴史が証明していた。


 かと言って、民がこの事態に対応できるとも思えない。


 だからこそ、ヴェルナは、王都に根付かぬよそ者集団、権力が集中し得ない“冒険者”を中心に据えると決めていた。


「ヴェルナさんヴェルナさん。手の指先には、神経が集中しているらしいですよ。

 ところで、こんなところに、指と爪の間に入りそうな針があるんですが、使用の許可を与えてもらっても――」

「却下」

 

 トマリは、頬を膨らませて不満を示した。まるで、子供である。


「少し、お願いがあるんだけど」

 

 なるたけ、優しげに微笑んで、ヴェルナは騎士たちにささやきかけた。


「騎士団を統括している立場の人間……騎士団長でいいのかしら? その人とお話できる? 警戒してるなら、念話石テレパストーンを介してもいいわ」


 目の前のサイコパス・トマリから助けてもらったという事実もあってか、三人の騎士たちは露骨に安堵の表情を浮かべ語り始める。


「わ、我々は、捕縛命令を受けていただけで、功をあせってしまったのだ。ば、抜剣しろとまでは命令を受けていない。連れてこいと言われただけだ。団長殿は関係ない」

「ヴェルナさん、コイツ、頭の回転が星の自転についていけてませんよ」

「責任の所在を明らかにするつもりはないの。ただ、あの黒霞のせいで、誰も王都から出られなくなって、完全に外部と遮断されてしまったでしょう? 今後の方策も含めて、話し合っておきたいだけなのよ」


 いきなり駆け出したトマリは、数人の呪術師シャーマンを連れて戻ってきて、きらきらと目を輝かせながら口を開く。


「ヴェルナさんヴェルナさん。呪術師シャーマンの方に呪術爆弾の調合方法を聞いてみたんですが、人間の体内温度で培養できる細菌兵器を作製できるみたいですよ。

 ところで、人間爆弾って知ってま――」

「却下。

 ね、お願い。貴方たちの違反行動については言及しないし、無為な私刑を行うつもりも全くないから。信じて」


 ヴェルナは、手を合わせてお願いしてみる。三人は顔を見合わせてから、仕方なさそうに目線で腰の布袋を指した。


「トマリ」

聯盟騎士団(リベルム・ベト)が通信用に使っている、通信路が暗号化された念話石テレパストーンですね。コイツらの内の誰かの魔力を流し込めば、波長が合致して設定された通信先との念話が可能になるかと思います。

 クソ、ふざけやがって。第三世代じゃないですかコレ。天災害獣研究機関うちらなんて、未だに蚤の市(フリマ)で買い溜めした第一世代使ってるのに」

「お、お前! よく視たら、天災害獣研究機関(MRI)のものではないかっ!! なぜ、王都に対する反逆行為を犯す者たちに味方するのだっ!!」


 口紅を塗りながら、けろりとトマリは答える。


「バカの側についたら、全員、死ぬからですね。それに騎士団の頭は硬すぎて趣味が合わないし、この子の顔がちょろそうだから」

「あたしは偉いから我慢するけど、そろそろ、チョップかますわよ」


 右から左に受け流され、魔力の波長を合わせた、念話石テレパストーンを差し出される。


 嘆息を吐きつつ、ヴェルナは言った。


「こちら、『燈の剣閃(ランプ・フリッカー)』所属の冒険者、ヴェルナ・ウェルシュタイン。聯盟騎士団(リベルム・ベト)の統括者と話がしたい。

 王印で封印された公式文書は手元に存在しないが、床に伏せる前の王から今件の対策対処を一任された。口頭での受諾とはなるが、同席していた天災害獣研究機関(MRI)のトマリ・アダントも承認してくれている」

「はい、承認しました」

 

 気軽に肩に頭を載せてくるので、ヴェルナはしっしっと手で払う。

 

 回答を待ち、数秒の沈黙の後――


「ご、ごめんなさ~い!!」

 

 気の抜けるような大声が聞こえてきて、ヴェルナは目を丸くした。

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