敵のリーダー、発覚
「ユウリさん、見て下さい!! コレ!!」
『アーサー』と名乗った青年は、昼間の表通りで〝いかがわしいお店〟を指差し、驚愕の表情で叫んだ。
「安い!! ものごっつ安いですよ!! どうしますか!? 行きますか!? わかりました、ゴチになります!! ありがとうございま――」
アーサー君の脇腹に肘鉄が刺さり込み、あまりの激痛に無言で地面を転がり始めた彼を見下げ、犯行者であるヴェルナは、心底の嫌悪を隠しきれないように舌打ちをした。
「なんで、あんたがココにいんのよ? 誰もあんたをパーティーに入れるなんて、一言も言ってないわよ? そもそも、あたしのユウリは、こんなクソみたいな店には行かない」
うんうん、行かない行かない。何故かって言うと、ゲロ吐いちゃうから。いかがわしい、いかがわしくない関係なく、お店で吐いちゃうと出禁になるからね(経験済み)。
「それを決めるのは、ユウリさんだ。
そうだろ、皆!?」
「皆って、誰に呼びかけてんのよ、あんた」
「うるさいな、この人……なんで、付いてくるんだろ……せっかく、ユウリ様と一緒に冒険できるのに……邪魔だなぁ……」
「聞こえてるぞ!! そこのユウリさんの愛人一号!!」
「……本気で斬り刻みますよ?」
いいなぁ、アーサー君。普通に皆と喋ってるよ。僕はこういう子を見習いたいな。素直に羨ましい。コミュニティ能力、スゴい高そうだもん。今まで、何人もの女の子と付き合ってきて、今の彼女はめちゃくちゃ美人みたいな感じなんだろうな。ナンパテクニックとか教えてくれないかな。
「先輩の顔を見なさいよ! あんたのことをじっと睨んで、今にも殺しそうな顔してるわよ!!」
「いや、この顔は『アイ・ラブ・ユー』のサインだ。間違いない。ユウリさん、俺と結ばれましょう」
「ユウリ様。許可さえくれれば、この無法者を斬りますが? どうしますか?」
いやいやいや、待て待て。今の流れって、〝僕〟を中心に出来上がってない? 皆、僕に注目してる。吐きそうだけど、コレがリーダーってものなんだ。正直、やっていける自身はなかったけど、皆の話題が僕に集まってるってことは、十分にリーダーシップがとれてるってことだよね。
うん、良かった。今の僕は、最高にリーダーしてる。
「先輩って、本当に喋らないわね」
「ヴェルナ、わかっていませんね。そこが良いんです。先輩は無駄な口を聞かないからこそ、常に最高の実力を発揮できる。恐らく、無我の境地に至っているのでしょう。
ユウリ様は、わたしたちと違って、くだらないことを考えたりなどしないのですよ」
フィオールって、胸大きいなぁ。何センチくらいあるんだろ?
「いや、ユウリさん、君のおっぱいガン見して――」
「……加入を認める」
「え!? ホントですか!? ヤッター!!」
あぶねー!! ギリギリセーフ!! 加入を認める権利を大事にしていたからこそのファインプレー!! さすが、僕!! 今度からは、高速でちら見することにしようっと!!
「先輩、本気!? 決め手は!?」
「……放っておけない」
僕は、ささやいた。
「……コイツは、危険だ」
本当に危険だよ!! この男を放置しておけば、僕の沽券に関わる!! 胸をガン見していたことを言いふらさないように、記憶が消えるまで僕の傍にいてくれないと本気で困る!!
「先輩。それって、どういう意味?」
どこか、余裕のない表情で、ヴェルナは僕に尋ねてくる。
「ユウリ様」
神速の居合で長剣を抜き放ち――街の人たちが驚愕の悲鳴を上げる中、フィオールはアーサー君の首元に刃先を突きつけた。
「コレは、我々の〝敵〟なのですか?」
え、なに、また、レイアさんが考えた〝例の設定〟? 僕たちがパーティーを組んだのは、この世の巨悪を打倒するためとかいう設定だっけ? もしかして、アーサー君はその〝敵役〟を買って出てくれたのかな? 僕のコミュ障を改善させたいからって、ここまで迫真の演技をやる必要ある?
とは言え、僕のためにやってくれていることだし、こっちも協力するべきなのかな……とりあえず、それっぽいことを言っておこう。
「……彼が黒幕だ」
僕は、アーサー君を指差す。
「……敵のリーダーはコイツだ」
なんてね。僕もリーダーだから、コレでお揃――数瞬の躊躇いもなく、フィオールは彼を斬り下ろした。