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コミュ障冒険者、リーダーになる

「ユウリ・アルシフォンが、パーティーに入ったらしいぞ!!」

「嘘だろ!? 今まで、どこのパーティーにも入らなかったのにか!?」

「なんでも、エウラシアン家の次女から、猛烈なアプローチをかけられてたらしい」

「結局、アイツも女か」

「バカ言うな! 今まで、どれだけの美女が、アイツに粉かけてたと思ってんだ! 今更、そんなもので揺らぐようなもんじゃねぇだろ!」

「なら、理由はなんなんだよ?」

「俺が聞いた噂によると、エウラシアン家の次女が、過去に亡くした恋人にそっくりだったらしい」

「おれは、例の王裏の仮面キングス・マスカレイドが絡んでるって聞いたが」

「何言ってんだ、王裏の仮面キングス・マスカレイドなんて組織は実在しねぇよ。アレは、よく出来たうわさ話だ。

 俺様の聞いた話によると――」


 一夜にして、ユウリ・アルシフォンがパーティーに加入したという噂は、街中どころか世界中に広がり――


「ユウリ・アルシフォンは、世界を救おうとしてるらしい」

 

 不確定な噂は、世に知れ渡っていった。




「改めまして、フィオール・エウラシアンです! よろしくお願い致します!」

 

 ニコニコとしながら、僕の正面に腰掛けているエウラシアン家の次女――フィオール・エウラシアンは、流麗な金髪をなびかせながら、心底嬉しそうに自己紹介をした。


「ヴェルナ・ウェルシュタイン。

 よ、よろしく、先輩」


 どこか緊張しているヴェルナは、僕の直ぐ隣に腰掛けて、ちらちらとこちらを窺いながら挨拶をする。


「改めまして、『燈の剣閃(ランプ・フリッカー)』への正式加入ありがとうございます。本パーティーは、わたしとヴェルナで構成された〝Sランクパーティー〟ではありますが、わたしたちは二人とも〝Aランク〟の冒険者です」

 

 冒険者のランクは、ギルドが定めた公式依頼の達成率と所要時間、その他諸々の適正を図って決定される。


 パーティーランクにも、同じような仕組みが導入されており、そのパーティーに加入している冒険者のランク自体はあまり関係がない。パーティー全体で達成率や所要時間が共有され、一個の集団(パーティー)としての実力が見られる。


 つまり、パーティー内の息があっていればあっている程に、効率的な任務達成が容易になって、ギルドからの評価が受けやすくなる。逆にどんな実力者であろうと、パーティーの和を乱すような人間が加入すれば、あっという間にパーティーランクは下がっていくという仕組みだ。


 パーティーランクを上げるには、パーティーの人数が多すぎても少なすぎても難しい。バランスが大事なのだろう。


「どう? 先輩? どう? すっごいでしょ? あたしたち、Aランク二人だけで、Sランクパーティーなのよ? すっごいよね?」

「……あぁ」

 

 ぐいぐいと身体を近づけてきて、褒めて欲しいとばかりに、猛アピールしてくるヴェルナ……可愛いのは可愛いが、吐いちゃう(前科持ち)。

 

 いやでも、Aランク冒険者二人だけで、Sランクパーティーの認可を受けるなんて、あまり聞いたことがない。余程、連携がとれていない限りは無理だ。ということは、褒めるに値することだということだよね?


 よし、褒めよう。頭を撫でよう。知ってるぞ、僕は。頭を撫でたら、一瞬で女の子が惚れるということに。ならば、撫でるべきだ。よし、撫でるべきだ。撫でろ! 撫でるんだ、僕!!


「せ、先輩!? 手、どうしたの!? なんか、三十個くらいに増えてるけど!?」

 

 緊張のあまり、右手が高速で痙攣して、残像が生み出されていた。あまりの速度に突風が起こって、ヴェルナの前髪が真上に上がる。


「ヴェルナ、わからないの?」

 

 その光景を見たフィオールは、得意気な顔で解説を始める。


「コレはね、わたしの稲光の足運び(ブリクスト)の応用例。掌だけで魔力を制御して、左右に高速で移動させてるんだよ。そうすることで、わたしたちに、お手本を見せてくれているの」

「な、なるほど! さすが、先輩ね!」

「……フッ」

 

 とりあえず、『フッ』って言っておけば、生きていける気がしてきた。

 

 しかし、レイアさんは、何を考えてるんだろう? この世に巣食う巨悪を打倒するための同志だっけ? 何を思って、そんなことを言い出したんだ?

 

 そっと、僕がカウンターにいるレイアさんを窺うと、彼女は視線に気づいて、どこか哀しそうな微笑を返してくる。

 

 その微笑を見た瞬間――僕は、全てがわかってしまった。


「……なるほどな」

 

 理解した。完璧に理解しちゃったよ。なるほどね。レイアさんは、僕のコミュ障に気づいてるんだ。前々から、そのことに気づいてたレイアさんは、僕の将来を案じて、あんなお芝居をしたに違いない。僕のコミュ障を改善させるために、強制的にフィオールのパーティーへと加入させたかったんだ。


「……やれやれ」

 

 なんだか、レイアさん、僕にだけ優しいとは思ってたんだよね。アレは、『コイツ、大丈夫かな?』という意味合いだったに違いない。ふふ、普段から小説を読んでるせいで、僕も女心ってヤツがわかってきたみたいだ。困ったな、ココまで女性の心理を把握してる人間、僕以外にいないかもしれないぞ。


「……仕方あるまい」

 

 でも、それを受け入れてこそ、真の――


「ありがとうございます、ユウリ様! やっぱり、受け入れてくれると思いました!」

 

 ん?


「わたしたちのパーティーのリーダーは、ユウリ様以外に考えられません! ね、ヴェルナ?」

「う、うん。まぁね。いいんじゃない、先輩で」

「……あの」

 

 もしかして、僕、口に出てた? 『やれやれ』とか『仕方あるまい』とか、口に出ちゃってた? それが噛み合っちゃった? 話、少しも聞いてないんだけど?


「これから、よろしくお願いしますね、リーダー!」

「あんたの指示で、あたしたちのパーティーランクが決まるんだから。しっかりしてよね、リーダー」

 

 あ、ダメだ。今更、断れない流れだ。


「……フッ」


 僕は全てを受け入れて、伝家の宝刀『フッ』を繰り出し――恐らく、世界で初めてのコミュ障リーダーが生まれた。

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