五つ目の真相を暴くユウリ・アルシフォン
「ユウリ・アルシフォン殿」
五つ目の一員であるらしい『メーちゃん』の帰りを待つも戻ってこず……諦めた七人の五つ目から、神妙な声音で声をかけられる。
「ひとつ、お話しておきたいことが」
え、なに、告白!? って、そんなことあるわけないですよね(笑) 簡単に女の子が惚れるなんてラノベ的展開、体験したくとも体験させてくれないのがこの世界、もっと現実も優しくなろうよ!!
「……なんだ」
「“五つ目”の正体のことです」
五つ目の正体? 本当に五つも目玉があるから、垂れ布で顔を隠してるっていうこと? 服装を全員で統一してるから、すごい仲良しってことかな? 単純に仕事着だから合わせてるだけ? プライベートでもそれは大変そうだなぁ。
「……全員、同じ」
考え事が口から勝手に出た瞬間(コミュ障は、独り言が多い)、五つ目たちはざわついて目配せをし、軽妙に歩いていたアカがぴたりと歩みを止めた。
「し、知っていたのですか? い、いつから?」
え、見ればわかるよね? なに、このただならぬ雰囲気? もしかして、ちょっとずつデザイン違うの? 服とか興味ないから、そういうのわかんないよ僕?
「……最初から」
少女たちは息を呑み――恐る恐るといった調子で、一人が前に出る。
「承知の上で黙っていたのですね?
いえ、薄々、そうではないかと思っていました。ユウリ殿は、我々を“平等視”している節がありましたから」
ごめんなさい、単純に見分けがついてなかっただけです。
「やはり、エウラシアン家との婚姻は偽造工作。
あなたの真の狙いは――」
七人の五つ目たちは、一斉に垂れ布を取り払い――“同じ顔面”を露出させた。
「私たち、ですね」
「…………」
「驚かない。当たり前ですか。最初から知っていたのですから」
ぇえええええええええええええええええええええ!! 同じ顔!! 同じ顔だよ、この人たち!! 七つ子!? 七つ子なの!?
というか、この顔って――
「うわっちゃー、ばれちったー。てか、知ってるなら知ってるって言ってくんさいよー、つらいわー」
五つ目たちと瓜二つの顔をしている“アカ”を見つめると、彼女はニマニマとしながらおどけたようにそう言った。
理解の追いついていない僕の前で、五つ目の一人が口を開く。
「これも既知の範囲だと思いますが……我々、五つ目は、とある人間の“予備”として魔術造成された“人工体”です」
やばい!! この感じ!! レイアさんのストーリーに組み込まれつつある!! ガラハッド退治だけで終わらないのコレ!?
「ルィズ・エラが魔術師の育成に力を入れているのは、魔術式で生成されるこの肉体を元に戻す方法を探るため。魔力の溜まり場であり、研究地として最適なこの場所を“拠点”としたのも元に戻るためですから。
元々、我々は、このように同じ肉体をもつ存在ではなかった……“ある女”の術式によって、体のいい“予備品”と成り下がったのです」
えーと、つまり、この人たちは、元々同じ顔の人間じゃなかったけど、悪い人に整形されて“同一の人間”にされたってこと? なにそれこわい。
「ご当主様は、仰っていました。『女の存在を近くに感じる』と。憎きヤツを拷問して術式の解除方法を聞き出し、葬り去ることができれば、ようやく我々は元の肉体を取り戻すことができるのです」
五つ目の少女は、ぐいっと顔を突き出して僕の間近に迫る。
「ユウリ殿、知っているのでしょう!? 我々と同じ顔をした女を!? 顔を隠している女のことを!? そいつさえ!! そいつさえいなくなれば!! 私たちは、元の生活に戻れるのです!!」
うわー、やめてー、ぐいぐいこないでー!! 吐いちゃう吐いちゃう!! 現実逃避の多用は厳禁なんだから、そういうのやめ――あれ、そう言えば、顔をかくしている女の人いたなぁ。
「……フェム」
「え?」
「……マルスのメイドだ」
鎧大好きクラブの一員として大規模探索に参加してくれた、マルスさんに付き従っているメイドさん……確か、あの人は、いつも“兜で顔を隠していた”。
鎧大好きクラブとかいう名前だから、よほど鎧とか兜が好きなんだろうと思ってスルーしてたけど、そもそも正体を隠すためにああいう名前にしたのかな? だとしたら、すごい策士。
「そ、そのメイドは!? そのメイドはどこに!?」
えーと、マルスさんの泊まってたところだから、大体あそこらへ――指さした僕の前に、ちょうどアカが立っていた。
やばいやばい。建物を指そうとして間違えたとはいえ、人を指さしたらダメだよね。ちゃんと謝――
「なぜ」
急に声音を変えたアカは、ゆっくりとささやいた。
「なぜ、私が『フェム』だとわかったのですか?」
彼女は悲しそうな顔をして、瞳の奥に宿る魔法陣をくるりと回転させた。