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巨悪と戦うSランクパーティー

 ヴェルナ・ウェルシュタインは、自分の実力に自信があった。


「……あ?」

 

 自信があったからこそ、決闘開始一秒後に、〝触れられてもいないのに〟地面へと優しく寝転されたことが信じられなかった。


「ま、負けてない……」

 

 彼女はぽつりとつぶやいた後、大きく口を開ける。


「あたしは、負けてないんだからーっ!!」

 

 心からの負け惜しみが空に響き渡り、ユウリ・アルシフォンは、10メートル離れたところでせっせと自宅の窓の修理に励んでいた。




「大変、申し訳ありませんでした」

 

 冒険者ギルドの隅のテーブル、僕の前に座ったフィオールは、隣に座っている赤髪の女の子の頭を無理矢理下げさせる。


「……負けてない」

 

 ぶすっとした表情の彼女の顔の半分には、幾何学的な紋様が描かれており、まだ幼さが残る顔つきに異様な図面を投影しているようだった。

 

 赤みを帯びた紫髪、紋様、痩躯とくれば、間違いなく『猩猩緋の民(クレアドル)』だろう。紋様が身体に現れているということは、成人の儀式を終えて、正式に精霊との契約を交わした後ということだ。


「あの、ユウリ様」

「……なんだ」

「なぜ、そんなに、距離をとっているんですか?」

「……癖だ」

 

 また、ゲロかけちゃうからだよ。


 というか、ふたりとも、可愛いなぁ。なんだろう、両手に花っていうの? 自分自身の中でさ、人生に勝ったという感慨が浮かぶ。え、どうしようかな、突然立ち上がって『こいつら、俺の女だから』とか言ってみようかな。そうしたら、ふたりとも、僕の行動力に惚れるかもしれない。いや、まぁ、やらないんですけどね(笑)。


「コイツ、なんで、こんなに口数少ないの? 真面目な顔して、裏では気持ち悪いこと考えてんじゃない?」

「ヴェルナ!!」 

 

 的中!! ヤバい、的中!! 脇に変な汗かいてきた!! レスキュー、レスキュー!! バレたバレた!! 気持ち悪いこと考えてるのバレました!! ウーウー!!(サイレン音)。


「ユウリ様は、敢えて、口を開かないの! わたしたちと違って、発言ひとつで国が動くんだから!!」

 

 本当に怒っているらしく、顔を真っ赤にして詰め寄ったフィオールに対し、赤髪の少女は慌てて「ち、ちが――ご、ごめん!」と謝罪する。


「本当に申し訳ありません。この子、わたしが怪我をした原因が、ユウリ様にあると勘違いしていて……いきなり出て行ったと思ったら、まさか、決闘を申し込むとは……『腕試し』と称して、投げ飛ばした男の方にも申し訳ないことをしました」

「だって、ユウリ・アルシフォンなら、フィオのことも無傷で助けられたでしょう!? 『ユウリ・アルシフォンの裏表』で読んだもの!! ほら、324ページ!! 『どこからともなく現れたユウリは、一瞬で数万人の人間を救ったのだった』って!! ほら、この行!!」

 

 猩猩緋の民(クレアドル)の女の子は、懐から取り出したボロボロの本を開いて、僕に突きつけて熱心に弁舌を振るう。


「ふふん、言っておくけど、あたしが知らないユウリ・アルシフォンは存在しないわ。身長から体重、好きな食べ物に嫌いな食べ物、何月何日に何をしたかでさえ、あたしの頭にインプットされてるんだから」

「すみません、この子、ユウリ様の崇拝者フリークなんです。年齢別ごとのユウリ様の写真が、所狭しと部屋に貼られてるくらいでして。その上、超がつく負けず嫌いなので、本当に面倒くさいんです」

「わーっ! なんで言うの!! なんで言っちゃうのぉ!! 言わないって言った!! 絶対、本人には言わないって言ったぁ!!」

 

 泣きそうな顔でフィオの肩辺りをぽかぽかと殴った後、彼女は羞恥に耐えられないとばかりに顔を覆い隠す。


「……そうか」

 

 つまり、僕のファンってこと? えぇ、困っちゃうなぁ。アレだなぁ、サインとか書こうかなぁ。今、さらっと手持ちの紙に書いて『はい、どうぞ。大切にしてね。これから、よろしく』なんて言えたら格好いいんじゃない? とりあえず、一回、空中に書いて練習してみようっと。


「ユウリ様、なぜ、唐突に精霊文字を宙空に――全員、今直ぐ、ここから離れなさい!! 誰かがこちらを狙っている!!」

 

 えっ。


「ユウリ様が、精霊を召喚しています!! 時間がない!! 我々に敵対する何者かが、こちらを狙っている証拠です!!」

「……いや、あの」

 

 僕がオリジナルサインを宙空に描いたことを契機に、冒険者ギルドでたむろっていた冒険者が、怒涛の如く出口に駆け出して大声を上げながら逃げていく。


 各々の得物を抜き放ったフィオールとヴェルナの真剣な顔を視ながら、僕は無言で座り込んでいた。


「ヴェルナ……何か感じますか?」

「ううん、なにも。ユウリ・アルシフォンの召喚した精霊の気配すら、微塵も感じられない。もしかしたら、既に打ち消されたのかも」

「ありえません。ユウリ様の精霊魔法を打ち消せる人間が、この世にいるとは思えない」

 

 打ち消す云々の前に、僕、精霊魔法とか使ったことないよ。

 

 いや、もう、コレはダメだ。とりあえず、一回、誤解を解こう。僕のオリジナルサイン、そんなに変なのかな。本気でショックだよ。家に帰ったら、練習しよう。それはまぁいいとして、今は素直に誤解を解けばいいんだ。うん。


「……あの、勘違――」

「ユウリ様の真の目的は、人払いですよ」

「レイアさん?」

 

 受付嬢さん(可愛い)は、カウンターの奥の闇から出てきて、ゆっくりとこちらに歩み寄り真剣な顔で言った。


「フィオール・エウラシアン、ヴェルナ・ウェルシュタイン……貴女たち二人は、ユウリ様に選ばれたのです。

 この世に巣食う巨悪を打倒するための〝同士〟として」


 『全部、わかってますから』と言わんばかりの顔で、レイアさんは僕のことを視て、何故か哀しそうな顔で微笑する。


「つ、つまり……どういうこと……」

「恐らく、仮初めの姿としてでしょうが、ユウリ様は決定したのでしょう」

 

 ルポールの街の受付嬢は、大きな声で叫んだ。


「あなたたちのパーティーに加入することを!!」

 

 顔を見合わせた二人は、見る見る間に笑顔になっていき――少女らしい、黄色い歓声を張り上げる。


「やったー!!」

 

 抱き合って喜ぶ二人を前に、僕は無表情で推移を見守る。


「……フッ」

 

 誰か、説明して下さい。

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