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不安要素しかない婚前

 ルィズ・エラで婚礼の儀を交わした男女は、精霊によって永遠の愛を約束されると云う。

 

 精霊による祝福を〝視覚〟で伝えられるように、ルィズ・エラでの婚礼の儀は夜半に行われ朝が来る前に終わりを告げる。


 彼らが発する碧光が目に見えやすい夜中に行うことで、半ば強制的に碧色の祝杯を演出してもらうわけだ。

 

 新郎新婦で異なる衣装部屋に通された僕は、既に選ばれていた衣装に袖を通して緊張を押し隠すための努力をしていた。

 

 努力をしていたのは良いのだが……


「お似合いですよ、ユウリ様」

 

 なんで、花嫁(フィオール)がこの部屋にいるの? 当たり前のように甲冑姿で僕のお着替えを見つめてるけど、君、これから結婚するんだよね? なんで、当然のように何の準備もしてないの? こんなフランクな婚礼ってあり?


「……着替えないのか?」

「わたしはコレで。

 エウラシアンの人間にとっては、戦装束が正装なのです。見ようによっては無作法ではありますがお許しください」


 うーん、新郎新婦が、結婚式の寸前まで一緒というのは問題ないんだろうか? 僕とは一時も離れたくないとかいう理由なら、こちらとしても有り難い限りだけれども……せっかくなら、ウエディングドレスを視てみたかったなぁ。


「今日は、わたしから『婚礼の祝辞』を読ませて頂きますので、よろしくお願いしますね」

 

 えっ、婚礼の祝辞、自分で読むの!? そういうもんなの!? 僕、なんも考えてきてないんだけど!? 祝辞って自分に向けて読んじゃうものなの!? 自分で自分を祝うってアホっぽくない!?

 

 混乱をきたしていた僕であったが、泰然自若として微笑んでいるフィオールを視て、冷静さを取り戻していく。

 

 いや、待て。エウラシアン家が主催する式では、新郎新婦が祝辞を交わし合う風習があるのかもしれない。僕は過大評価されているから、こういった婚礼の儀には通じていて、事前説明をしなくても問題ないと思われた可能性がある。

 

 だとしたら、郷に入っては郷に従えだ。ちょっとやそっとのことで、結婚式の常識を疑わないようにしよう。


「参列者席の最前列で、ユウリ様のお姿を見守らせて頂きますね」

 

 せめて、花嫁は隣にいて欲しかったなぁ。

 

 というか、結婚式の常識を疑わないにしても、さすがに花嫁が参列者席はおかしいよね……新郎新婦のつく席が参列者席と同等の扱いってこと? いい加減、口頭で確認したほうがいいかもしれないなうん。


「……フィオール」

 

 覚悟を決めて口を開いた瞬間、ノックの音がして、入ってきたエウラシアン家の侍女が恭しく頭を下げる。


「ユウリ・アルシフォン様にお客様です」

「ユウリ様のご友人でしょうか?」

「……そのようだな」

 

 招待状を一通も送ってないのに、友人が来るわけないよ! でも、ちょうどいいから見栄を張っておこうっと!


「では、わたしはシルヴィの様子を見てきます。お着替えが終わったばかりでしたのに、お邪魔して申し訳ありませんでした」

 

 宝剣を腰に下げたフィオールは、僕に深い礼をしてから部屋を辞し、入れ替わるようにしてアカが部屋に入ってくる。


「ユウリ殿、わかっておりますね?」

 

 唐突に尋ねてきて、なんなのこの人。今日が結婚式だっていうことくらい、さすがに僕だってわかるよ。


「……もちろんだ」

「さすがは、ユウリ殿。

 恐らく、襲撃が決行されるは、式の半ばかと思われます」


 もう、なに言ってんだよぉ!! 頼むから、帰ってよぉ!! 今はレイアさんの特訓にかまってる余裕ないんだよぉ!!


「……帰れ」

「うふふ、御冗談を仰らないで下さい。ルィズ・エラを御守りするのは、我らが〝五つ目〟の役目……〝この顔〟にされて以来、わたくしは円卓の血族を討ち滅ぼすことのみに生涯を捧げてきたのですから」

 

 僕は!! 今!! この結婚に!! 生涯をかけてるんです!!


「あなた様の狙いは、この五つの目玉で覗かせて頂きましたが……どこまでも底が視えぬ御方……よもや、このような策までお考えになるとは……末恐ろしくて背筋が凍ります……いえ、下らぬ弁舌で御座いましたね……」

 

 口元に手を当てて「ふふ」と笑ったアカを見つめながら、埒が明かないと考えた僕は、誠実に真実を口にしてみることにした。


「……コレは、ただの結」

「ご謙遜は結構」

 

 こういう人の話を聞かないのも、コミュ障の一種だと思うな僕。


「後方はお任せ下さい。ユウリ殿の立てた策を蔑ろにするつもりはありませぬので、姿を隠しておきました。

 有事の際は……お任せを」


 余興だけやって帰って!! お願い!!


 僕の願い虚しく、怪しげな笑みを浮かべたアカが退出していき――


「ユウリ・アルシフォン様、お時間です」

 

 不安要素しかない結婚式が、ついに始まってしまった。

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