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(あなたのお姉さんを)幸せにする

「お嬢様、よくお似合いですよ!」

 

 ヴェールをかぶったシルヴィは、薄靄のかかった金色の夕焼けを思わせる、風光明媚の優雅さをもっていた。

 

 幾重にも薄い紗を重ねて作られた純白の婚礼衣装は、彼女のもつ魔力に反応して集まった精霊たちの魔力で碧色に煌めき、一枚一枚が生気を帯びているかのようにしてゆらゆらとゆらめく。


「ど、どう?」

 

 顔を赤らめて、なぜか、僕に意見を求めてくるシルヴィ。そもそも、どうして、僕が彼女の試着に立ち会わないといけないのか……彼女の旦那は、一体何をしてるんだ、まったく。


「……いいんじゃないか?」

「あ、そ、そう。ま、まぁ、参考までに聞いてあげただけよ。婚礼衣装も式の会場も日取りも、ぜーんぶ、この全にして一であるシルヴィに決定権があるんだから、おまえの意見なんてほんのちょびっとしか参考にしてあげないわ!」

 

 とかいいつつ、キープしているシルヴィ。なんだかんだ言って、優しい子であることは間違いない。

 

 数着の衣装をたがめすがめつ確認した彼女は、僕に選ばせた一着も含めて店員さんに取り置きを頼み、こちらを瞥見しながら外へと出る。

 

 黙って僕がついていくと、シルヴィはあからさまにホッとしていた。


 街道を道なりに歩いているうちに、徐々に彼女の顔が真剣味に彩られていって眦を決する。


「おまえに、話があるわ」

 

 ぶっきらぼうな話の切り出し方をして、小さなエウラシアンの三女は、何度かの逡巡を終えた後に口を開く。


「結婚、受け入れようと思うの」

「……そうか」

 

 やったー!! 僕の人生、バラ色だー!! 今まで、女性と縁がなかったのは、シルヴィ、君のお姉さんと出会うためだ!! 祝福してくれてありがとう!! 絶対に幸せにするよ!!


「この前の夜のこと、色々と考えたわ。あのアカとかいう女の考えてることはわからないし、誰もがおまえを持ち上げるかは理解不能だけれど、少なくともシルヴィには『おまえと結婚する利』がある。

 〝ある人〟に、そう教えてもらったの」


 少なくとも、僕と結婚する利は、僕には到底思いつかないけどなぁ。買いだめしてあるラノベ読み放題くらいしか旨味がない。そんな僕は、まるで動く図書館だよ……自分で言ってて、悲しくなってきた。


下等生物メイドたちに調査させたけれど、おまえの名声は嘘ではないらしいし、本人である証左も得られた。だとすれば、シルヴィがおまえと婚礼の儀を結んで夫婦となれば、エウラシアン家の名声は世に響き渡ることとなる。

 そうすれば、兄様と姉様も、このシルヴィの偉大さに気づいて、エウラシアン家に必要な絶対的存在であることをお認めになるわ」


 13歳とは思えない発言の数々……今まで、自分の〝利〟を優先して行動しようとはしなかった、彼女らしくないエゴで満ち溢れた〝未来予想図〟だった。


「ハッキリ言っておく、シルヴィはおまえが嫌いよ」

 

 フィオールの青い瞳とは対象的な赤い瞳……冷酷な光を宿らせた赤色は、僕を睥睨していたが、そこには迷いらしき影が落とされていた。


「……急に様変わりしたな」

 

 シルヴィは、街中で剣を抜き――瞬足の踏み出しと共に振り抜いて、落下してきた木の葉を寸分違わず〝半分〟にした。

 

 精度が増している。膨大な魔力量に頼りっぱなしだった剣筋が、腕のいい〝何者か〟によって〝研ぎ澄まされている〟。


「今、この瞬間から、おまえを道具として見ることにした」

 

 自分を木だと思い込んで森で暮らしたことはあるけれども、さすがに道具になって店先に並べられたりはしてないなぁ。


「清廉潔白であるシルヴィは、虚偽で舌を汚すことは是としない。

 だから、今後の生活で、おまえを愛することはないと、シルヴィはこの場で宣言させもらう」

「……フッ」

 

 本気で泣きそう。


「まさか、こんなことを言って、泣くほど笑われるとは思わなかったわ」

 

 無意識で泣いてた。


「ここまで言われて、それでもなお、婚礼の儀を結ぶつもりなら……」

 

 一瞬、ほんの一瞬、彼女は困った顔をした。


シルヴィは、この道を選ぶしかない」

 

 何があったんだ? 困りごとでもあるのか? どうした? 何かわけでもあるのか? たくさんの疑問文が頭に出来上がるのはいいのだけれど、僕の口はゆっくりと開いたり閉じたりするだけ……なぜなら、コミュ障は疑問を口に出すのが大の苦手だからだ。


 ほぼ必ず、返答が返ってくるからね!


「…………」

「わかった。シルヴィと婚礼の儀を結ぶのね」

 

 沈黙を肯定と見做すのは、おかしいと思います!! コミュ障全員、イエスマンじゃないんだぞ!!


「なら、結婚式は――明日」

「……ぇ」

 

 喉の奥から出てきた驚愕は、風音に掻き消されてシルヴィの元には届かず、彼女は愛らしく微笑した。


「言ったでしょ? 婚礼衣装も式の会場も日取りも、全部、シルヴィに決定権があるって」

 

 僕は覚悟を決めて頷き――


「……幸せにする」

 

 フィオールと結婚することにした。

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