表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/156

全速力で牢屋入り

 一際高い神樹に備え付けられた家屋の中、大量の〝五つ目〟の従者に囲まれた状態で、僕は朱目の女性と対峙しており……なぜか、ぶすっとした表情のシルヴィも、同席していた。


「……お嫁様は、呼んでおりませぬが?」

「うるさい、黙りなさい。絢爛華麗なるシルヴィが、世界のどこに存在していようと、おまえ如きが口を出せることじゃないわ。そもそも、説明もなしに人のことを襲っておいて、『呼んでない』とか脳内に血腫でもできてるんじゃないの?

 というか、シルヴィはお嫁様じゃない!!」


 うん、お嫁様の妹だよね。単純に、からかってるだけなんだろうけども。


「招かれざる客は放っておいて……咎人殿。貴方ほど高名な御方が、なぜ、あんな咎を重ねたのかと思っておりましたが、『ユウリ・アルシフォン』という名を聞いて得心がいきました」

 

 中心の目玉が、僕のことを捉える。


「わざと捕縛されることで、牢獄の中のガラハッドに接触したのでしょう?」

 

 いやいやいや! 牢屋の中に入るのが目的だとしても! だとしても、全裸で13歳の上に乗っかる以外のルートがあるでしょ! なんで、その罪状で、そんな格好いいことしないといけないの!!


「……違」

「ご謙遜は結構。ユウリ・アルシフォンが、〝絶対にやらないこと〟をわざと実践することで、わたくしたちすらも騙し通してみせた。ガラハッドは、あなた様が、かのユウリ・アルシフォンなどと思ってもおらぬ筈。

 あのユウリ・アルシフォンが、往来の場で幼き女子おなごに全裸でのしかかるわけがないと……我々の虚を突かれたのでしょう?」


 ダメだこれー!! 何言っても、都合よく解釈されるやつじゃんこれー!! でも、僕にとっても都合いいからキメ顔で黙ってようっと!!


「…………」

「うふふ、図星、ということですね」

 

 一生、黙ってれば、幸せに暮らせる気がしてきた。


「はんっ、見当違いもいいところね。こんなアホ面した人型奴隷スレイヴが、そこまで考えて動けるわけがないでしょうが。

 天に輝く一等星よりも眩しき光を放つシルヴィの威光に惹かれて、つい魔が差しちゃっただけというのが真実よ」


 鈴が転がるような音で、朱色の五つ目は笑う。


「真実は、人の数だけ有りまする……お嫁様にとってのまことがそれであるなら重畳、ただわたくしにとっての真誠はそれであるだけのこと」

「うざったらしい、喋り方ね。どうにかならないの、ソレ?」

 

 シルヴィも大概だよ!! とか、心の中で突っ込んでおくことで、心内コミュニティ能力が上がる気がする。


「では、本題を語りましょうか。

 ユウリ殿、あなた様の真の目的は、ガラハッドの討伐でしょう?」

「……違」

「ご謙遜は結構」

 

 『ご謙遜は結構』のブロック力が高すぎて、最早、発言する意味すらもなくなってきたよ。


「牢に入るつもりでなかったのなら、手首につけていたあの枷はなんなのですか?」

 

 いや、あれ、勝手につけられたんです。シルヴィとペアルックで、巷では流行ってるらしいんです。


「は~あ!? 違うわよ!! 何言ってるの!? コイツは、結婚!! 結婚、しに来たの!! シルヴィを裏切った上に欺いて、この甘美なる果実シルヴィを味わおうとしてたんだから!!」

「お嫁様の真は、そうであるのでしょうね」

「あーもう、話にならない! 帰るわよ、人型奴隷スレイヴ!! せっかくのデートが、台無しだわ!!」

 

 ずんずんと踏み出したシルヴィは、僕が座ったままなのを見つめ、悔しそうな顔をして扉の前で立ち往生し……「そ、外で待ってるから、早く来なさい!!」と捨て台詞を吐いて出ていった。

 

 その様子を見守っていた目の前の彼女は、唐突に顔を覆っていた垂れ布を剥がし取って――その裏にある、端正な顔立ちを晒す。


 燃えるような赤に混じった紫髪。ヴェルナと同じ、猩猩緋の民(クレアドル)だろう。しかし、精霊の気配がしない。精霊と契約した証である紋様は、少なくとも顔や首、紗の下に浮かび上がる褐色の肌には描かれていない。


 特徴的な〝目玉〟……瞳の中に魔法陣が描かれた両眼は、ひとつの工芸品のように洗練されていて、覗き込むと収縮して煌めきながら回転をした。


「この顔を、視たことはありませぬか?」

「……ない」

「なるほど。まだ、接触しておらぬのですね」

 

 彼女は垂れ布を元に戻して、顔を覆い隠す。


「円卓の血族は、特殊な〝記憶操作〟の魔法を用います。脳内に流れ込む魔力の流入量を微細にコントロールして、顔面の認識能力に齟齬をきたすように操り、強制的に〝存在〟を掻き消す。

 だから、普通は憶えていられない。憶えていられない筈なのに、あなた様はわたくしの『円卓の血族』というワードに反応しました」

 

 パーシヴァル役の審査員の人が、自分のことを『円卓の血族』だって名乗ってたからなぁ。最近聞いたばかりだし、そりゃあ反応しちゃうよね。


「円卓の血族を憶えていられる方法は、『常に円卓の一族と共にいる』か『円卓の一族から強い〝感情〟を抱かれているか』です」

「……どちらでもない」

「いいえ。記憶している以上、絶対にどちらかです。例外は有り得ない」

 

 五つ目の彼女はゆったりとした動作で立ち上がり、月の光が差し込むバルコニーへと歩み出て全身を白色に浮かび上がらせる。


「ユウリ・アルシフォン殿」

 

 月光を浴びた褐色の肌が、青白く艶めいて煌めく。


「円卓の血族、ガラハッドを殺すために」

 

 振り向いた彼女は、布の下で愉しそうに嗤っているようだった。


「再び、牢に入ってはくれませぬか?」

 

 レイアさんの考えたイベント、こんなところでも起こるの? なんなの、円卓の血族を倒すまでがコミュ障ですってこと? そのご褒美が結婚だっていうなら、唐突に湧き上がってきた縁談に真実味が出てくるけれども。


「……わかった」

「やはり、理解して頂けましたか。さすがのあなた様とは言え、円卓の一族でも随一の魔力を誇るガラハッドの『剣戟防層スクトゥム』を貫くことはできませぬ。だからこそ、ガラハッドの虚を突き、彼の弱点を探るために牢に入ったのでしょう?

 安心してください。わたくしも協力して、牢獄のあなた様に的確な時と場を提供し、民衆の前でガラハッドを処刑できるように――」

「……行ってくる」

「えっ」

 

 僕は牢屋へと全速力で駆け出し、呆気にとられていた朱目の女性は「と、止めなさい!!」と絶叫した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ