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あなたに友達がいないのは、きちんとした理由があるからです

 左胸――衣服に剣先が擦れて、僕は切っ先をまじまじと見つめる。


「ふふん! 龍が墜落してきてもビビらなかっただけはあるわね! シルヴィの殺気を感知して、本当に突き殺すつもりではなかったことを気取るなんて、なかなかにやる男じゃない! 多少の敬意は払ってあげる!」

 

 実に偉そうな女の子は、ハンカチを取り出して顔を拭い、真っ赤になったそれを胸元にしまう。


「我が名を教えてあげるわ、人型奴隷スレイブ! シルヴィ! 我が名はシルヴィよ! シルヴィ様と気軽に呼ぶことを許すわ!」

 

 鮮やかな手付きで長剣を回転させながら、華麗に鞘へと収めた彼女は、自身の髪の毛を撫で付ける。


「ちなみに、今年で13になるわ。立派な令嬢レディよ。さっき、子供扱いした不遜は許してあげるから今後は気をつけなさい」

 

 年齢的にも精神的にも見た目的にも、立派な子供だと思うのは僕だけでしょうか? まぁでも、子供は子供扱いを嫌うし、ちゃんとした対応をしてあげるのが大人の役目ってやつだよね、間違いないね。


「……悪かった」

「ふふん! 己の立場を理解できたのなら、シルヴィからなにも言うことはないわ! おおらかな心をもちながらも寛容な精神を併せ持ち、淑女としての気品すらも抱いているシルヴィに感謝することね!」

 

 ない胸を張って偉そうにしていたシルヴィは、僕の手首についている手錠に着目して、興味深そうに凝視する。


「奇遇ね、それシルヴィももっているわ」

 

 え、囚人仲間? と思っていると、小さな彼女は、僕が着けられた手錠と瓜二つのものを腕ごと掲げて、自分も着けていることをアピールする。


「シルヴィのは、プレゼントしてもらったものだけれど、最近は流行っているのかしら? 流行は追いかけていたつもりだけれど、庶民の考える流行り廃りは、最先端をいくシルヴィにはよくわからないわね」

 

 こんな小さい子供が捕まるわけがないし、もしかして、コレ手錠じゃなかったのかな……まだ、逮捕されずに済むのか?


「ところで、おまえ、どこに行くつもりなの? 人型奴隷スレイブの保護は貴族の役目、もし迷子であるならば、このシルヴィ自らが親の元まで送り届けてやってもいいわよ?」

 

 迷子に迷子扱いされてる僕ってなんなんだろう、コレほどまでに自信の塊みたいな子供は初めて視たよ。


 そんなに偉そうな態度ばっかりとってると、友達が一人もいなくなっちゃうぞ! とか、偉そうなこと言ってる僕も友達いないよ(笑)。


「そもそも、おまえは何をしにこんなところに来たの? この周辺は、龍種の活動が活発化していて、家畜や商人を襲う事件が多くなってるっていうのに、身ひとつでぶらぶらと彷徨ってたら食べてくださいと言っているようなものよ」

 

 どこか心配そうな眼差し――傲慢の衣を纏っているものの、心根の優しいこの子に心配をかけるわけにもいかないので、僕はどうにかこうにか適当な誤魔化しを考え出して口にする。


「……散歩だ」

 

 そう言えば、僕、嘘が下手くそだった。


 だって、嘘をつくような友人知人がほとんどいないんだもん!


「散歩ぉ?」

 

 ジロジロと不躾に僕の身なりを見つめたシルヴィは、憐憫の情に似た輝きを瞳に籠めた後、急に傲岸不遜な彼女に戻る。


「そんな汚いなりで、出歩く庶民がいるわけがないでしょう? 理由が言えないような苦労をしてきたのか何かは知らないけど、来るところがないならシルヴィがおまえをもらってやってもいいわ!」

「……いや、あの」

「いいから、シルヴィと来なさい! 悪いようにはしないから!」

 

 お、押しが強い! コミュ障が最も苦手とするタイプだ、この子!

 

 どうすれば、事情を説明してこの場から離脱できるものかと一計を案じていると、天幕を張った立派な魔車がやって来て、滑るように宙を滑空していたそれは、純白の車体を見せびらかすようにして眼前に着陸する。


「シルヴィお嬢様!! 何をしてらっしゃるのですか!?」

 

 わらわらと、巨大な魔車から出てきたのは、染みや汚れひとつない衣装を纏った執事やメイド、鎧兜を身に着けた護衛らしき騎士たちだった。


「そのお召し物はなんですか!? 本日、ルィズ・エラに赴く用件がなんだと思っておいでか!? そもそも、王都でも名うての貴族が、他者の領地で龍種の討伐を行うなど言語道断!! 家名に傷がついたら、どう責任をとるおつもりなのですか!?」

「あーあー、うっさい。人型奴隷スレイブどもが襲われてたんだから、救うのは華麗なるシルヴィの義務なのよ。横から前から後ろから、うだうだうだうだ口を挟むのは、どういう了見なのかこちらが聞きたいわ」

 

 彼、彼女たちは、シルヴィの周りを囲んでくどくどと説教を始め、傲慢を地で行くような彼女はうるさそうに顔をしかめる。


「ほら、乗りなさい、人型奴隷スレイブ。行くわよ」

「なんですか、その汚いのは!?」

「拾った」

 

 汚物扱いされた僕が、泣きそうになって足を止めると、シルヴィに無理矢理手を引かれて魔車へと導かれる。


「……お前」

「シルヴィ様よ」

「……どこかに行く途中か?」

「えぇ」

 

 僕の疑問に対し、シルヴィはにぃと笑う。


「今日、お嫁に行くのよ」

 

 血まみれの花嫁は、太陽光を背に綺麗な笑顔を浮かべていた。

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