表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/156

容疑者、ユウリ・アルシフォン

「パーシヴァルがやられた」

 

 秒刻みで鼓動する深紅色のテーブルに腰掛けたアーサーは、目の前に座っている〝影〟に語りかけた。


「本気で言っておるのか? 間違いではないのか?」

 

 綺麗に剃り込まれた禿頭をもつ影の問いかけに、円卓に両足を載せた彼はのんびりと応える。


「間違いない。確認した。東の果て、神秘の森の『ルィズ・エラ』だ」

「ルィズ・エラ? 嘘でしょ? ここから、どれだけ離れてると思ってるの? 一日で到達できるような距離じゃないよ」

 

 二本角がにょっきりと生えた小柄な影は、指先でトントンと机上を叩く。


「ユウリ・アルシフォン」

 

 〝彼〟の名前が挙がった瞬間、円卓の場は静まり返って、それが自然であるかのようにみっつの影は押し黙る。


「あの特異建造物ダンジョン……天空城があそこに発生したのは、ただの偶然だ。俺たちはそれを利用して、ルポールに落とそうとしたが、ものの見事にユウリ・アルシフォンに阻止された。挙げ句、大事なお仲間までノックダウンだ。

 アーサー、くやちぃ!! ふぇえ!!」

「急に幼児退行するのやめて。きもい」

「パーシヴァルは、天空城に毒を積んだとか言っとらんかったか?」

「ただのブラフだよ」

 

 暇つぶしに自分の喉元へと刃を潜り込ませながら、アーサーはけだるさを口内に含みながらつぶやく。


「せいぜい、アイツがやれたことは、操魂咒を使ってヴィヴィ・ポップの〝遠隔操作〟を行ったくらいだ。

 同郷の出身、ヴィヴィも死霊術師ネクロマンサーらしくてな。俺らがパーシヴァルを助け出した時、操魂咒をかけた連中にあの子も混じってたってわけさ」

「さも、アイツがやったみたいに言ってるけど、あんたがやらせたんだからね?」

「ヴェなんとかとかいう小娘は、操ってはおらんかったのか?」

「ヴェルナ・ウェルシュタインは、ランスロットの管轄さ。お気に入りは子供の頃から眼をつけて、いざという時のために〝洗脳〟しとくんだ。操魂咒というよりは、魔術に近い呪いだな」

「えぐみ100%、濃縮還元!!」

 

 ハゲている影は、悩ましそうにツルツルの頭を撫でた。


「事の顛末は、水泡と化したか……ヴィなんとかの仕込みは不首尾に終わり、城を街に落とすのも仕損じ、ユウリ・アルシフォンから神託の巫女も引きずり出せなかったわけじゃな」

「ま、でも、無意味に終わったわけじゃないさ」

 

 金髪に黒毛の混じった髪の毛を片手でかき回しながら、アーサーは手首だけの力で壁へと長剣を投擲し――ユウリ・アルシフォンの写真に突き刺さる。


「ユウリ・アルシフォンには、絶対的な〝弱点〟がある」

 

 好青年を装った彼は、愛らしい微笑を浮かべた。




 もしかして、全部、勘違いなんじゃないの?

 

 馬車に揺られながら吐き気をこらえている僕は、今回起こったことを思い返し、何が〝真実〟なのかを考えていた。


 だって、フィオールの怪我は本物だったし、あの天空城の重さもまた嘘なんかじゃなかった。だとしたら、あの特異建造物ダンジョンでの冒険は、何もかもが本当の出来事で、フィオールたちは本気でピンチに陥っていたんじゃないか?


 あり得るあり得る!! というか、そうに違いないよ!! さすがのレイアさんでも、僕のコミュ障を改善するためだけに、ルポールに天空城を墜落させようとなんてしないもん!!


 よしよし、そう考えたら楽になってきたぞ! そうだ! 僕は英雄ヒーローだ! 操魂咒で操られていたヴィヴィさんやヴェルナを救って、モテモテ街道を一直線、コミュ障を脱却してお友達に囲まれて暮らすんだ!


「ユウリ様」

 

 正面に座るフィオールに声をかけられて、正気に戻った僕が自身の手首を視ると――鈍色に輝く手錠がハマっていた。


 僕が逃げ出さないように両隣を固めるのは、鎧大好きクラブの二人……一言も喋らずに、罪人に接する正しい方法として口を閉ざしている。


「申し訳ありません」

 

 フィオールが頭を下げて、僕は現実を直視する。

 

 勘違いなんかじゃない。僕は審査官の頭目をぶん殴って大怪我をさせた上に、エウラシアン家の次女にゲロをぶっかけた罪で護送中だった。


「……フッ」

 

 うへへへへへ!! どーしよどーしよう!? こんな手錠くらいはぶち切って逃げ出せるけども!? けども!? ココで逃げ出しても、現実からは逃げられないんだよ諸君!! 皆、斉唱して!! さん、はい!! 現実からは逃げられない!! うわぁあああああ!! 助けてぇええええええ!!


「大した肝をお持ちだな、ユウリ・アルシフォン殿。このような状況下でも、表情ひとつ崩さずに冷静さを保っていられるとは……同じ武人として、尊敬つかまつる」

「…………」

 

 うわぁあああああああああああああああああああ!! 誰か助けてぇえええええええええええええええええええ!! ぁああああああああああああああああああああああああああああ!!


「お兄様! ただでさえ失礼を働いているのですから、もう黙っていてください!!」

「ム」

 

 怒鳴りつけられた大鎧のお方は、急に兜を外して見目麗しい尊顔を露わにし、今までかぶっていた鉄兜をひっくり返して口元に運び――


「我が妹、かわいいッ!! 世界一ッ!!」

 

 馬車が激しく揺れるほどの大声でフィオールを褒め称え、当の彼女は顔を真っ赤にしてあわあわと実の兄を殴りつける。


「お兄様! バカ!! ユウリ様の前なのに!! バカッ!!」

「かわいいッ!! ナンバーワンッ!!」

 

 僕はそんな二人を眺めているうちに、天啓とも言える閃きによって、手錠をかけている両手を挙げる。


「……花」

「え?」

 

 僕は、大きく口を開いて――


「……花を摘んでくる」

 

 最終手段おてあらいを口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ