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ヴェルナたちの結末とユウリなりの決着

「ヴェルちゃん! 無事でしたか!」

「レイアさん……あたし……」

 

 兜をかぶった謎のメイド――フェムに抱きかかえられたヴェルナは、ルポールの入り口で待ち構えていたレイアを前に目が潤むのを感じた。


「あたし……本当に……ごめんなさい……」

「大丈夫、わかってますから。

 よく帰ってきましたね」


 優しく抱きとめられた彼女は、また泣きそうになるのをこらえ、マルス・エウラシアンに抱えられているフィオールを見遣る。


無問題ノーウォーリーです、赤髪のお嬢様。我々が来る前から、既に最低限の治療は為されていました。今はお眠りになられているだけです」

 

 あの重症が嘘だったかのように、艶めいた寝顔を晒すフィオールを見つめ、ヴェルナは安堵の息を吐いた。


「ヴェルちゃん、安心して。他のメンバーも全員無事ですよ。オダさんは重症だったけれど、命に別状はないとのことですから」

「どうやって、あの城から……?」

 

 レイアの指差す先にいたのは、巨大な原生スライムだった。


 意図がわからずにヴェルナが首を傾げると、愛らしい姿をした受付嬢は、うっとりとした様子で両手を組む。


「ユウリ様です。原生スライムが緩衝材になることを見越して、私に『スライムを集めておいて欲しい』と言われたんですよ。

 以前の依頼内容を憶えていたからこその采配、さすがはユウリ様としか言いようがないでしょう?」


 つまるところ、ヴェルナを助けた騎士様は、城の内部から外部へと彼らを〝投擲〟して助けたらしい。


 あれだけの距離が離れている上に、崩落の最中にあって安定しない天空城から、複数人を投げ飛ばして精確にスライムへと着地させるなんて芸当、あのユウリ・アルシフォン以外には無理だっただろう。


「あの……」

 

 ヴェルナはスライムから目を離し、久方ぶりに顔を合わせた、フィオールの兄に目線を移す。


「謝って済む問題ではないかもしれないけど、本当にごめんなさ――」

「我が妹の唯一無二の友人、ヴェルナ・ウェルシュタイン殿。貴女は被害者に過ぎんよ。謝罪の言葉を語るのは、貴女を傀儡としていた輩ではないかな?」

 

 ユウリに出会っていなければ、見惚れてしまいそうになるくらいの美形である彼は、ヴェルナに向かって完璧なウィンクをした。


「レイア殿、諸々の協力感謝する」

「いえいえ、こちらこそ、ご多忙にも関わらずご協力ありがとうございました」

「ム……しかし……」

 

 天空城が直ぐ傍に落ちたとは思えないくらいに、〝何時も通り〟の様相を見せつけているルポールを見回して鎧の彼は唸った。


「ユウリ・アルシフォン殿……あの状況下から、降り注ぐ破片を〝全て〟消し飛ばしたのか……よもや、ココまでとは……王の仰った通り、我がエウラシアン家に相応しい人間なのかもしれぬ……」

「そうでしょうそうでしょうと――ん?」

 

 壊れた兜を小脇に抱えたマルスは、爽やかな笑みを浮かべる。


「レイア殿」

 

 疑惑の面持ちで硬直している彼女に向かって、エウラシアン家の長兄である彼は、実ににこやかに言った。


「ユウリ・アルシフォン殿を、我がエウラシアン家に〝婿〟として迎えようと思う」

「……え?」

 

 何も知らないフィオールは、すやすやと眠り続けていた。




「……評価は?」

 

 僕の目の前で絶句しているのは、ヴィヴィさんがかぶっていたものとそっくりな帽子を身に着けた少年だった。

 

 彼の目の下には真っ黒なくまができていて、口元を〝牙の生えた口の落書き〟で覆い隠し、全身に纏っている黒衣を血で塗れた包帯でぐるぐる巻きにしている。

 長く伸びている袖元から突き出ている細長い指は、ミイラのように干からびていて、黒衣の裾が長いせいもあって脚のない幽霊のようにも見えた。


「え、えひ……な、なんで、ココにいるの……えひひ、あ、あり得ないよ……魔力の痕跡、全部、消したのにさ……」

 

 え、なんでって、審査員の方に評論を聞きに来たからだよ! 念話石テレパストーンから伝わってきた魔力を通じて、延々とストーカーし続け、遠路はるばるやって来た相手に対してそれはないんじゃないかな?


「……フッ」

 

 とは言えないから、笑って誤魔化しとこう。


「え、えひ……こ、ココ、どこだと思ってるの……る、ルポールから外洋を渡って神秘の森林を抜けないと辿り着けない……ま、魔法生物の足を使っても、い、一週間はかかる筈だよ……」

「……泳いで走った」

 

 熱意をアピールするために、僕はささやいた。


「……泳いで……走った」

 

 ちょっと、海水浴にしては冷えすぎたけどね、海底を歩いてくれば観光気分だから意外と楽しかったなぁ。ヴェルナとフィオールを抱えてる時間が長かったせいもあって、嘔吐力が増し増しだったし、人目の避けて歩くには海底が一番だからね。


「え、えひひ……な、なんなのキミ……」

 

 十メートルはあろうかという大木の上に住居が構えられた森の中、僕は目の前の審査官に拒否されて泣きそうになっていた。


「ぼ、ぼくが『パーシヴァル』だってこと……円卓の血族の一員だってこと、わかってて来たんだよね……え、えひ……ゔぃ、ヴィヴィとヴェルナの敵討ちってわけか……え、偉いねキミ……」

 

 なにその新しい設定!? そういうの、前もって言っておいてよ!! 僕のアドリブ力にも限界があるよホントにさぁ!!


「……あぁ」

 

 でも、ノッちゃうよ。牢屋に入りたくないから。


「い、一騎打ちのつもり……? そ、そういうの大嫌いだよ、ぼく……で、でも、に、逃げるわけには……いかないんだよね……」

 

 戦闘態勢をとるかのように、全身を縛っていた血まみれの包帯が解けて、ミイラのような指が砂状に溶けていき――僕は全てを理解した。


「……なるほどな」

 

 この人がラスボスっていうシナリオか! 天空城の危機からルポールを救い、その裏にいる黒幕を打ち倒すまでがコミュ力ですってことね!! 了解了解!!


 よし、怪我をさせないように、そーっと――


「……くしゅ!」

 

 限界まで力を押さえつけて殴りつけようとした瞬間、くしゃみが出てしまって、僕の拳が轟音を立てて振り抜かれる。


 確実な手応え、猛烈に嫌な予感がして、僕はぶわっと汗をかいた。


「うぉお!! 誰か、吹き飛んできたぞ!?」

「ま、まずいぞっ! 血泡を吹いてる!! 医者を呼べ早く!! 手遅れになるぞ!!」

「森の宝である神木がぁ!! 木っ端微塵じゃあ!! 誰か!! 誰か、下手人を捉えいっ!!」

 

 僕の前に立っていた審査官の人は、直線に吹き飛んでいって〝足の跡〟を残して消え、その先にあった大木が何本も抉れてドミノ倒しを引き起こし、松明がたかれて非常用の角笛が高らかに吹かれる。


「おい、あんた!!」

 

 僕は、殺意に満ちた面で、肩を掴んできた男性へと振り向く。


「怪しいヤツを視なかったか!?」

「……あっちにいました(大嘘)」

「有り難い!!」

 

 僕は脂汗を流しながら、数分間、集団に混じって犯人ぼくを探し続け、隙を視てその場から逃げ出した。


「……フッ」

 

 こうして、僕の長い一日は幕を下ろし……監獄行きが決定した気がした。

この話にて、第ニ章は終了となります。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。


第ニ章で、よくわからなかった点や疑問に思った点、改善して欲しい箇所などがありましたら、お気軽に感想までお寄せ下さい。

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