名探偵、ユウリ・アルシフォン
「あれ? 死んでない?」
僕は右手で天井を支えたまま、黒ずんだ左手をズボンに擦りつけて、汚れを落とそうと必死に努力していた。
「え? なんで? なんで、死んでないの? 爆発は? ユウリさん、なんか、さっきより私に近づいてません?」
「……叩き落とした」
「え?」
このまま天井を支えていても、アピールにはならないことに気づいた僕は、全力で棘付き天井を上方へと放り投げる。強烈な破壊音が響き渡って、天井は天高く舞い上がり、上部に巨大な穴が空いて青空が覗く。
「……爆発は、叩き落とした」
まぁ、この前の劇団員さんの爆発を受け流したような感じだよね。爆発って言っても、結局は熱・光・音が発生するだけの現象に過ぎないし、見えてさえいれば魔力の層で覆ってガード余裕でした。
「意味がわからない、なに言ってんですか?」
ぁあ!! 口下手だから、評価下がったぁあ!! なんなの!? そういうテスト的な観点もあるの!? 魔力とか魔法とか、観念的に説明するの無理なんだよ僕!! よくわかってないし!!
「……フッ」
とりあえず、誤魔化しとこ。
「まぁ、不発だったってことか……うん、そういうことにしよう……いつもは安全な魔術工房でやってたから死を覚悟したけど……ラッキーだったね、オーロラちゃん……うん……」
「ハッ! 俺は何を!!」
「おじじ! 無事だったか!!」
ようやくお昼寝から目を覚ましたオダさんは(罠が作動したにも関わらず、昼寝するなんてさすがはSランクだ)、周りを見回し、僕からの保護を受けずに爆風に巻き込まれて四散した鎧たちの残骸を注視する。
「なんだこりゃ……なにがどうなったんだ? 俺らの周囲だけ、酷い惨状じゃねぇか」
抉れた床と吹き飛んで壁に突き刺さる王座、爆熱で焼け焦げた赤絨毯の黒ずみを視て彼は目を丸くする。
「私が敵を片付けたんだよ!」
「なら、ヴィヴィも!」
「嘘こけ。つうか、オーロラ、お前、その味方殺戮兵器をもってくるのやめろって言っただろ。
とりあえず」
ちらりと僕の方を視て、オダさんは後方の二人に思わせぶりな目配せをし、急に大きな声を張り上げる。
「ユウリさんは、スゴイなぁ!! あっという間に、あいつら倒しちゃうんだもんなぁ!! 強いなぁ!! スゴイなぁ!!」
「きゃーっ! かっこいい~っ!! オーロラ、あこがれちゃう~っ!!」
「しゅごいしゅごい! あっぴゃれあっぴゃれ!!」
わざとらしい!! また演技か!! 何が足りないって言うんだ!? 手作りお弁当で好感度アップ、襲いかかる罠には身を挺し、オーロラさんの試練(爆発)にも上手く対処したつもりだったの――いや、待てよ。なぜ、レイアさんは、グループを分けたりしたんだ?
口元に手を当てて、僕は思考の海に沈み込む。
設定上は、タイムリミットが設定されており、効率的に大型特異建造物を探索する必要があるから、グループ分けをしてヴェルナを探そうとしていた。
でも、それは、飽くまでも〝設定〟だ。実際は、グループ分けをする意味なんてない。必要でもないのに、なんで、そんなことをしたんだ? もしかして、監視員である若木蕾と僕を〝水入らず〟にさせようとしたからなんじゃないのか?
若木蕾と僕を意図的に孤立させた意味……そして、取ってつけたような時間制限……嘔吐罪をかけた今回の僕の〝審査〟……全てが線で繋がって、僕は思わず目を見開いた。
「……わかった」
「え、なにがですか?」
僕が長剣をスラリと引き抜くと、若木蕾の三人の顔が青ざめる。
「……行くぞ」
「え、なにが!? なにが行くんですか!? どこへ!? え、ちょっと!? 嘘ですよね!? ねっ!?」
思い切り――僕は、彼らへと踏み込んだ。