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失敗は成功のもと(死ななければ)

「レイアさん。ヤバイよ、あの鎧の人たち」

 

 未だに紅茶を飲んでいる鎧の男と、甲斐甲斐しく給仕をしているメイドを隠し見たイルは小声でささやいた。


「どこから……連れてきたんですか……?」

「いや、それはその……言えない契約になっていまして」

「言えない契約? 雇ったってこと?」

 

 念話石テレパストーンの向こう側から、唸るような重苦しい声が聞こえてきて「すみません、言えないんです」という返答が返ってくる。


「正体を明言できないような、怪しげな連中と組ませないでよー! 絶対、Dランクパーティーなんかじゃないでしょアレ?」

「い、いや、大丈夫です。信頼はできますから。ただ、正体を口にするのは、ちょっと憚れるというか」

「顔を隠してるのも……なにか理由があるの……?」

 

 石からの返事は沈黙。つまるところ、肯定を表していた。


「あの人形みたいに抱えてる鎧はなにー? おともだちー?」

「あ、それは知りません。たぶん、趣味です」

 

 立派な装飾が施された鎧を大事そうに抱えている鎧男を瞥見し、イルとミルは顔を見合わせてから嘆息を吐いた。


「ともかく! もし、あの人たちが、ヤバそうな動きをしたら、イルとミルでとっちめ――あれ?」

 

 数秒前に確認した時には、悠然と紅茶を口に運んでいた鎧の男とメイドの姿はかき消え、ティーテーブルやティーカップすらも忽然と失せている。

 

 イルたちは、慌ててテーブルのあった場所を探るものの、痕跡らしきものすらなく、微かに紅茶の香りが漂っているに過ぎない。残っているのは、彼らが綺麗に打倒した空っぽの鎧だけだ。


「……あの人たちって、幽霊?」

「は? なんの話ですか?」

 

 イルとミルは、狐狸に騙されたかのような気持ちに陥り、呆然としてその場に立ち尽くす他なかった。




 魔術――魔法技術の略称であるその手法は、元々、生まれつき魔力量が少ない人間のために考案されたものである。

 

 体内外に存在している魔力の流出、流入量を意図的に調節して〝魔力反応〟を引き起こし法則を捻じ曲げるのが魔法であれば、魔術は『如何に少ない魔力量で、魔法を再現できるか』に焦点を当てている。

 

 つまるところ、魔力量が100で引き起こされる魔力反応を、魔力量が10の状態で発動させることを目的とした技術分野だ。

 

 当たり前の話であるが、世界は等価交換の原則に苛まれている。100の魔力量で起動する魔法が、10の魔力量で起きるわけがない。

 

 だからこそ、魔術師ウィッチと呼ばれる技術屋は、日々の研究を怠らない。


 己の魔術工房に籠もり、発動した魔法の種類、魔力反応の励起率、詠唱や祈りといった特徴ある魔法起動スタートアップのデータをとり、その魔法を再現するにはどういった〝行動〟や〝事物〟が必要なのかをレポートとしてまとめる。

 

 まとめられたレポートは、ものによれば高額で売られたり(例えば、空間魔法のような再現性の低いもの)、王都の研究院に寄付されることが多い(特別な恩赦と名誉を手に入れるため)。

 

 しかし、新米魔術師ビギナー・ウィッチであるオーロラ・ウェルスターは、冒険者である。

 

 冒険者である彼女が、間借りしている小さな魔術工房で、昼夜問わずに眠たい目を擦って研究を続けている理由は――


「ヴィヴィ、離れてっ!」

 

 〝冒険〟するためである。


「体内より体外への魔力流出量、89%でキープ!! 魔力起動キー、口頭入力!! アアイイエエウウ――オーロラ・ウェルスター、出動準備(スタンバイ)!!

 樫の翼(オークウィング)Ver.3.14、起動(スタートアップ)!!」


 一見すれば、樫の樹で出来た平凡なただの杖……しかし、それは、魔術師オーロラ・ウェルスターが作り上げた魔導式触媒カタリストである。


 100%の魔法を再現するために作成された、10%の魔力しかもたない彼女の残り90%を補う〝補助事物〟――『女の子が空を飛ぶ』という〝理想〟のために、〝現実〟が捻じ曲げられて樫の杖から虹色の光翼が突き出る。


「キタキタキタキタァ!!

 動力源オーロラ・ウェルスター準備完了オールレディ! めんどくさいから、起動工程、全省略!

 私の夢のために、今度こそブチかませ!! 努力の奥果てで眠ってた樫の樹の夢(オークドリーム)!!」

 

 変形した樫の樹の上に跨った彼女は、期待で両目を輝かせながら、杖の先端から迸る蒼色の魔力の光子を見つめる。


「全員、ブッちぎる!!」

 

 目の前の異様な光景にたじろいだ鎧の群れに狙いを定め、オーロラ・ウェルスターは絶叫した。


「発――あっ」

 

 異様な音を立てながら、樫の翼(オークウィング)は、嫌な未来を予感させるかのように〝魔力の揺らぎ〟を搭乗者に見せつける。

 

 魔術には、大きな欠点がある――術師の質が悪ければ、魔術行使の失敗率は、異様なまでに跳ね上がるのだ。100%の魔法を10%のリソースで、無理矢理に発現させようとしているのだからエラーが起こって当然と言えよう。


 オーロラ・ウェルスターによる、樫の翼(オークウィング)Ver0.1~3.14までの行使実験回数、実に1024回……そのうちの成功回数は、たったの〝11回〟である。


「ダメかー!」

 

 オーロラ・ウェルスターは、にっこりと笑って――


「来世に期待で!」

 

 その場で、大爆発を引き起こした。

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