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皆でダンジョン探索に行こ――えっ

 特異建造物ダンジョンは、この世界に忽然と現れる謎の建造物である。

 

 人と魔の間で行われた戦争……千年前の人魔対戦が、神託の巫女の犠牲で幕を下ろした後、特異建造物ダンジョンが世界に〝発生〟するようになった。

 

 学者たちの研究は進められているが、発生理由は未だにはっきりとはしない。

 

 わかっているのは、特異建造物ダンジョンからは天災害獣モンスターが湧き上がり、放置していると危険であるということ、天恵秘宝(ギフトアイテム)という特殊な魔術品マジックアイテムが手に入る可能性があるということだ。

 

 天災害獣モンスターの発生元となれば、当然、足を踏み込む者は危険を強いられる。だが、希少な天恵秘宝(ギフトアイテム)を手に入れられる可能性もあり、一攫千金も夢ではない。

 

 冒険者たちの多くは、己の命を懸けて特異建造物ダンジョンへと潜る。

 

 その大抵は、名誉や金品のためであるのだが――


大規模探索グループシークになるだけあって、かなりデカイわね」

 

 燈の剣閃(ランプ・フリッカー)に所属しているAランク冒険者、ヴェルナ・ウェルシュタインには〝他の理由〟があった。

 

 彼女の目の前には、宙に浮き上がる巨大な〝天空城〟が浮遊している。

 

 王都の中心に存在する王城よりも立派、とは言わないが、諸侯や貴族たちが暮らす城館以上の荘厳さと規模をもっているのは間違いない。

 

 少し色褪せた白色の石壁は一分の隙もなく積み上げられ、外部からの攻撃に備えるような形で城の周囲を取り囲んでいる城壁には、魔術障壁を仕込んだ痕跡らしき魔法陣が描かれており、魔力の乱れによる〝蜃気楼〟が発生して空間を歪ませていた。


「普通の城、には見えないか」

 

 ここまでは、普通の城にも見える。城を浮かせて外部からの侵入を防ぎ、防衛に優位な上方をとるのもよくある話だ。

 

 が、その城には〝目玉〟があった。


 城壁に囲まれた居館パラスの両端から、突き出た尖塔ベルクフリート……その頂点についた大きな目玉は、時折、ぎょろぎょろと動き回って〝生きている〟ことをアピールしている。


 目と目が合って、ヴェルナは気色悪さに身震いをした。


「うぅ……やだやだ……特異建造物ダンジョンって、なんで気持ち悪いのかしら……」

 

 天空城の真下には、冒険者ギルドの手によって転移魔法陣トランスファレンスサークルが設置されており、ヴェルナがその中心に行って魔力を流し込めば、城内の比較的安全な箇所へと瞬時に移動できるようになっている。


 レイアさんから話は聞いたけど、他パーティーもいるとは言え、今はユウリ先輩と一緒に行動はしたくない。


 ユウリに命を助けられて以来、ヴェルナの心には今まで知らなかった奇妙な感情が芽生え、そのむず痒さが親友に対する裏切りのように思えて、彼女は自身への嫌悪感を隠しきれなくなっていた。


「正直、他の冒険者たちがやってる、例の『全裸男』の探索に行きたいわよ……結局、あの悲鳴が変質者へのものだったなんて……勘違いして、赤っ恥をかいた〝お礼〟をしたいわよこっちは……」

 

 変質者が現れた際に起こった悲鳴を、状況的に仕方なかったとは言え『街が襲われている』と勘違いしたヴェルナは、謎の変態への憤怒で拳をわなわなと震わせた。


「あれ? そもそも、なにと勘違いしたんだっけ?

 ま、いいわ」

 

 ヴェルナは、魔法陣を踏んで、己の身体の輪郭が消えていくのを見つめる。


「一人で十分。とっとと、片付けちゃいましょう」

 

 こうして、彼女は、ユウリたちが出発する前日に姿を消した。




「ヴェルナは、どうしたのでしょうか?」

 

 宙に浮かぶ〝目玉つき〟の天空城を前に、フィオールは何度もルポールの方角を見遣り、憂鬱そうに嘆息を吐いた。


「何も言わずに、仕事を放棄するような子じゃないのに……例の変質者騒ぎ以降、様子がおかしいとは思っていましたが……」

 

 後半は、集まっている他パーティーに聞こえないように声を潜め、余程心配なのかもう一度ため息を吐く。


「……休ませてやれ」

 

 前、かなり調子が悪そうだったもんな。そういう時はさ、下手に外に出たりしないほうがいいんだよ。自宅で滋養強壮に努めるのが一番。対人コミュニケーションには体力を使うから、孤独が何よりの特効薬になるもんなんだよね。


「そうですね。なにか、事情があるのかもしれませんし。

 しかし、それにしても」


 フィオールは、不審そうな目つきで、小脇に大鎧を抱えた巨大な鎧と兜をかぶったメイドさんを見つめる。


「アレは、なんなんでしょうか?」

 

 僕の希望としては、コミュ障かな。


「昨日、各パーティーに挨拶回りに行ったのですが、あの鎧の方に声をかけた瞬間、急に抱きつかれて……思わず、魔力を籠めて思い切り殴ってしまいました」

 

 よくよく見てみれば、鎧の人の方の兜には拳大の凹みがあった。先日の会議の時にはなかったから、アレがフィオールからの手痛い一撃と見て間違いない。


 しかし、それにしても、挨拶回りか……コミュ障だから、行ってない!! リーダーだけど、あの日以来、一度も声をかけてない!!


「皆さん、ユウリ様のことを褒めていらっしゃいましたよ。『自分たちが緊張しないように、自分の姿を見せないように配慮してくれた』と。

 細やかなお気遣い、さすがはユウリ様です。通説とは言え、挨拶回りに行くなど、愚の骨頂でした。申し訳ありません」

 

 顔見知りって、この世で最も、声をかけるべきかスルーすべきか悩む対象であって、顔すら合わせたくないんだよ?


「……気にするな」

 

 いや、本当に気にしないでください。


「やはり、お優しいんですね」

 

 僕を見つめたまま微笑したフィオールは、ハッとしたかのように顔を上げ、戸惑いがちに咳払いをしてから「で、では! そろそろ、行きましょうか!」と、背後にいる他パーティーたちに声を張り上げた。

 

 背後のパーティーを振り返ると、こちらを睨んでいた若木蕾グロースの方々と目が合い、慌てて目線を逸らされる。

 

 うー、やっぱりだ。監視されてる。ヤバイな、緊張してきた。少しでも、良いところを見せて、自分からアピールしていかなきゃ。牢獄送りだけは勘弁して欲しい。

 

 気合を入れた僕は、フィオールに続く形で魔法陣を踏んで、あっという間に城内へと転送された。


「ようこそ、我が城へ」

 

 転送先に存在していた、赤絨毯の敷かれた謁見の間。


 天災害獣モンスターらしき人形をとった紫肌の化物は、傲慢そうにゆったりと王座に腰掛けていた。


「人語を介す天災害獣モンスター……上級種ですか……恐らく、この特異建造物ダンジョンを統括している主……」

 

 いきなりの上級種の登場で、場が緊張感で満たされていく中、角を生やした彼は顎を撫でながらささやく。


「そこの幼子の言う通り、ここは我が城だ。

 ようこそ、ユウリ・アルシフォン。なぜ、わざわざ、王である我が姿を現したかと言えば、貴様のパーティーの一員である――えっ」


 僕は、一瞬で彼に接敵して、首をもぎ取る。


「……え?」

 

 全員が呆然としている中、僕は自分の手柄をアピールするために、首を高々と掲げ上げて監視者の方々に笑いかけた。

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