表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/156

問題:今回の大規模探索(グループシーク)で、リーダーになるのは誰でしょうか?

 冒険者のランクは、S、A、B、C、D、Eの六段階で評価され、パーティーランクも同じように六段階評価が行われている。


 その評価を元にして、冒険者ギルドは依頼を割り振ることとなる。人員が必要ない依頼は単独の冒険者に受注させ、逆に大人数を必要とする仕事には、複数人で構成されるパーティーへと話をもちかけるようだ。


 冒険者ランクについては、レイアさんに聞くところによると、


 S:化物。ユウリ様しか視たことがない

 A:異常。各ギルドに一人いるかいないか

 B:圧倒的強者。各ギルドに数人いるかいないか

 C:強者。各ギルドには、少数いる

 D:普通。ルポールの平均

 E:弱者。田舎のギルドでたまに見る


 との評価になるらしく、パーティーランクは所属した冒険者の強さはほぼ関係なく、集団での実力発揮が困難であったり、集団行動に向かない高ランク冒険者が所属しているパーティーはランクが常に変動していたりするらしい。


「フィオちゃんとヴェルちゃんだって、あの年齢でAランク冒険者になれているんですから天才だと思いますよ。ユウリ様を追いかけて来なかったら、ルポールなんかにいるような器ではないでしょうね。

 Sランクパーティー自体は、噂で聞いたことはありますが、殆どが五人組ファイブマンセル六人組シックスマンセルらしいですし、二人組ツーマンセルでSランクということは相当息が合っているんだと思いますよ」


 僕の所属するSランクパーティー、燈の剣閃(ランプ・フリッカー)は、ルポールの受付嬢にそう評されていた。


 二人だけで完成されていたパーティーに、僕のような異物が入り込んだら、どうなるのか……結果は、自ずと視えていた。


 視えていた筈なのに――


「あ、あの、燈の剣閃(ランプ・フリッカー)が、こ、今回の大規模探索グループシークに加わるってヤバいんじゃない……ねぇ、ヤバいんじゃない!?」

「お、おおおおおお落ち着け!! だ、だだだだだだ大丈夫だ!! お、おおおおおおおじさんは落ち着いてる!!」

んだな。うん、んだ」

 

 僕の加入によって、燈の剣閃(ランプ・フリッカー)の名声は更に高まり、噂によれば王主催の『ユウリ・アルシフォン、パーティー加入お祝いパーティー』が行われたらしい。ちなみに、僕は呼ばれていない(呼んでくれなくて、本当にありがとうございます)。


 冒険者ギルドの会議室、十二人は腰掛けることの出来る長机には、燈の剣閃(ランプ・フリッカー)を含めて四つのパーティーが集まっていた。


 先程から、僕の前で泡を吹いている三人組は、パーティー名『若木蕾(グロース)』……お手本のように三角帽をかぶって杖をもった少女に、高そうな剣をお守りのように抱いた中年男性、顔色の悪そうな女の子で構成されたDランクパーティーだ。


「お、おじさんに任せろ。こう視えても、最近、髪の毛の抜ける本数が加速してきたから、本気で死んでもいいなと思ってきたから」

「盾にしていいってこと!? 本気で盾にするよ!? いいの!? 死んでから、文句言うのなしね!?」

「トイレ行くふりしてにげよーじぇ」

 

 なんか、いいなぁ。おじさんなのに、可愛い女の子に囲まれて、正に人生の絶頂期にいるんだろうなぁ。羨ましいよ。僕みたいなコミュ障は、おじさんになったら、ただの無口な加齢臭だから誰も寄り付かないからね。アハハ、自分で言ってて、泣けてきた。


「ユウリさまー、なにかんがえてるのー?」

「きっと……イルとミルのことだよね……ね……!」

 

 僕の左右の席にいるのは、Cランクパーティーに属している『猫の宴(キャットパーティー)』の二人組、顔なじみでもあるイルとミルだ。相も変わらず、ボディタッチが過剰なので嘔吐感が凄まじい。

 

 最後に、僕の斜め前の席に、二人で並んで腰掛けているのが『鎧大好きクラブ』。結成したのがつい昨日というパーティーで、当たり前のようにパーティーランクは最低のE。何故、今回の大規模探索グループシークに加わったのかは謎である。


「…………」

「…………」

 

 それ以上に謎なのは、あの格好だ。

 

 片方は自身の巨躯を更に押し広げるような巨大な鎧で全身を包み、スペアだとでも言わんばかりに、隣の席にもう一個の大鎧を置いている。彼の隣にいるパーティーメンバーらしき淑女は、メイド服に身を包んで、不格好な大きめの兜ですっぽりと頭を覆い、美しい姿勢で椅子に座っていた。


「…………」

「…………」

 

 室内に入ってから、一言も喋ってないけど、僕と同じコミュ障なんだろうか? すごい親近感が湧く。


「えー、では、今回の大規模探索グループシークについて、説明を始めさせて頂き――」

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 若木蕾グロースの一人、魔女の格好をした少女は、勢いよく手を上げて椅子を鳴らし立ち上がる。


「なんで、ココに燈の剣閃(ランプ・フリッカー)がいるんですか!? わたしたち、『楽な仕事がある』って聞いて来たんですけど!?」

「いや、あの……それはですね……アハハ……」

「たしかにー! 気になるー!」

「簡単な……依頼だって……言ってた……」

 

 若木蕾グロース猫の宴(キャットパーティー)に追撃されたレイアさんは、コレでもかと目を泳がせてから、観念したかのように頭を勢いよく下げた。


「申し訳ありません!! 当初、大規模探索グループシークに参加する予定だったSランクパーティーが、ことごとく依頼を〝キャンセル〟しまして!!」

 

 え、なんで?


「いや、その……『ユウリ・アルシフォンがいるなら、自分たちは要らないだろう』と……もし、参加しても、手柄をことごとく持っていかれて、パーティーランクが下がるのが嫌だと言い出しまして……こういった大規模探索グループシークの場合、貢献度によってランクの上下が激しくなるのは事実で……既に噂は出回っていて、参加して下さったパーティーは貴方たちしか……で、でも、大丈夫です!!」

 

 信頼が籠められた目線がこちらを向き、室内にいる全員の注目が、腕を組んで座っている僕へと一気に集まる。


「ユウリ・アルシフォンがいます!! 今回の大規模探索グループシークの〝リーダー〟!! 唯一無二のSランク冒険者であり、史上最強とも名高い燈の剣閃(ランプ・フリッカー)の統率者!!」

 

 身振り手振りを活かして、扇動を行う彼女の顔は、僕を褒める時にだけ生き生きとして艶めいていた。


「彼の指示を仰いでいれば、貴方たちは楽に報酬を獲得できるのです!!

 そうですよね、ユウリ様!?」


 待て待て待て! ココでリーダーなんかになったら、僕の胃は速攻で血まみれになっちゃうよ!! 直ぐに否定しないと!! さぁ、僕!! 今後を決める戦いだ!! 覚悟を決めて、立ち上がって発言しろ!!


 僕は無言で立ち上がり、意を決して口を開こうとすると――


「ありがとうございます、ユウリ様! では、皆さん、拍手を!! 拍手をお願い致します!!」

 

 それが〝承認〟であると言わんばかりに、万雷の拍手が降り注ぐ。


「ありがとうございます……ありがとうございます……う、うぅ……集まらなかったら、どうしようかと……よかった……仕事、やめなくて済む……」

 

 泣きながら拍手をするレイアさんを視て、僕はもう逃げられないんだなと悟り――


「……よろしく頼む」

 

 死んだ目でそう言って、煽るようにしか聞こえてこない拍手に耳を澄ませていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ