問題:今回の大規模探索(グループシーク)で、リーダーになるのは誰でしょうか?
冒険者のランクは、S、A、B、C、D、Eの六段階で評価され、パーティーランクも同じように六段階評価が行われている。
その評価を元にして、冒険者ギルドは依頼を割り振ることとなる。人員が必要ない依頼は単独の冒険者に受注させ、逆に大人数を必要とする仕事には、複数人で構成されるパーティーへと話をもちかけるようだ。
冒険者ランクについては、レイアさんに聞くところによると、
S:化物。ユウリ様しか視たことがない
A:異常。各ギルドに一人いるかいないか
B:圧倒的強者。各ギルドに数人いるかいないか
C:強者。各ギルドには、少数いる
D:普通。ルポールの平均
E:弱者。田舎のギルドでたまに見る
との評価になるらしく、パーティーランクは所属した冒険者の強さはほぼ関係なく、集団での実力発揮が困難であったり、集団行動に向かない高ランク冒険者が所属しているパーティーはランクが常に変動していたりするらしい。
「フィオちゃんとヴェルちゃんだって、あの年齢でAランク冒険者になれているんですから天才だと思いますよ。ユウリ様を追いかけて来なかったら、ルポールなんかにいるような器ではないでしょうね。
Sランクパーティー自体は、噂で聞いたことはありますが、殆どが五人組か六人組らしいですし、二人組でSランクということは相当息が合っているんだと思いますよ」
僕の所属するSランクパーティー、燈の剣閃は、ルポールの受付嬢にそう評されていた。
二人だけで完成されていたパーティーに、僕のような異物が入り込んだら、どうなるのか……結果は、自ずと視えていた。
視えていた筈なのに――
「あ、あの、燈の剣閃が、こ、今回の大規模探索に加わるってヤバいんじゃない……ねぇ、ヤバいんじゃない!?」
「お、おおおおおお落ち着け!! だ、だだだだだだ大丈夫だ!! お、おおおおおおおじさんは落ち着いてる!!」
「死んだな。うん、死んだ」
僕の加入によって、燈の剣閃の名声は更に高まり、噂によれば王主催の『ユウリ・アルシフォン、パーティー加入お祝いパーティー』が行われたらしい。ちなみに、僕は呼ばれていない(呼んでくれなくて、本当にありがとうございます)。
冒険者ギルドの会議室、十二人は腰掛けることの出来る長机には、燈の剣閃を含めて四つのパーティーが集まっていた。
先程から、僕の前で泡を吹いている三人組は、パーティー名『若木蕾』……お手本のように三角帽をかぶって杖をもった少女に、高そうな剣をお守りのように抱いた中年男性、顔色の悪そうな女の子で構成されたDランクパーティーだ。
「お、おじさんに任せろ。こう視えても、最近、髪の毛の抜ける本数が加速してきたから、本気で死んでもいいなと思ってきたから」
「盾にしていいってこと!? 本気で盾にするよ!? いいの!? 死んでから、文句言うのなしね!?」
「トイレ行くふりしてにげよーじぇ」
なんか、いいなぁ。おじさんなのに、可愛い女の子に囲まれて、正に人生の絶頂期にいるんだろうなぁ。羨ましいよ。僕みたいなコミュ障は、おじさんになったら、ただの無口な加齢臭だから誰も寄り付かないからね。アハハ、自分で言ってて、泣けてきた。
「ユウリさまー、なにかんがえてるのー?」
「きっと……イルとミルのことだよね……ね……!」
僕の左右の席にいるのは、Cランクパーティーに属している『猫の宴』の二人組、顔なじみでもあるイルとミルだ。相も変わらず、ボディタッチが過剰なので嘔吐感が凄まじい。
最後に、僕の斜め前の席に、二人で並んで腰掛けているのが『鎧大好きクラブ』。結成したのがつい昨日というパーティーで、当たり前のようにパーティーランクは最低のE。何故、今回の大規模探索に加わったのかは謎である。
「…………」
「…………」
それ以上に謎なのは、あの格好だ。
片方は自身の巨躯を更に押し広げるような巨大な鎧で全身を包み、スペアだとでも言わんばかりに、隣の席にもう一個の大鎧を置いている。彼の隣にいるパーティーメンバーらしき淑女は、メイド服に身を包んで、不格好な大きめの兜ですっぽりと頭を覆い、美しい姿勢で椅子に座っていた。
「…………」
「…………」
室内に入ってから、一言も喋ってないけど、僕と同じコミュ障なんだろうか? すごい親近感が湧く。
「えー、では、今回の大規模探索について、説明を始めさせて頂き――」
「ちょっと待ったぁ!!」
若木蕾の一人、魔女の格好をした少女は、勢いよく手を上げて椅子を鳴らし立ち上がる。
「なんで、ココに燈の剣閃がいるんですか!? わたしたち、『楽な仕事がある』って聞いて来たんですけど!?」
「いや、あの……それはですね……アハハ……」
「たしかにー! 気になるー!」
「簡単な……依頼だって……言ってた……」
若木蕾、猫の宴に追撃されたレイアさんは、コレでもかと目を泳がせてから、観念したかのように頭を勢いよく下げた。
「申し訳ありません!! 当初、大規模探索に参加する予定だったSランクパーティーが、ことごとく依頼を〝キャンセル〟しまして!!」
え、なんで?
「いや、その……『ユウリ・アルシフォンがいるなら、自分たちは要らないだろう』と……もし、参加しても、手柄をことごとく持っていかれて、パーティーランクが下がるのが嫌だと言い出しまして……こういった大規模探索の場合、貢献度によってランクの上下が激しくなるのは事実で……既に噂は出回っていて、参加して下さったパーティーは貴方たちしか……で、でも、大丈夫です!!」
信頼が籠められた目線がこちらを向き、室内にいる全員の注目が、腕を組んで座っている僕へと一気に集まる。
「ユウリ・アルシフォンがいます!! 今回の大規模探索の〝リーダー〟!! 唯一無二のSランク冒険者であり、史上最強とも名高い燈の剣閃の統率者!!」
身振り手振りを活かして、扇動を行う彼女の顔は、僕を褒める時にだけ生き生きとして艶めいていた。
「彼の指示を仰いでいれば、貴方たちは楽に報酬を獲得できるのです!!
そうですよね、ユウリ様!?」
待て待て待て! ココでリーダーなんかになったら、僕の胃は速攻で血まみれになっちゃうよ!! 直ぐに否定しないと!! さぁ、僕!! 今後を決める戦いだ!! 覚悟を決めて、立ち上がって発言しろ!!
僕は無言で立ち上がり、意を決して口を開こうとすると――
「ありがとうございます、ユウリ様! では、皆さん、拍手を!! 拍手をお願い致します!!」
それが〝承認〟であると言わんばかりに、万雷の拍手が降り注ぐ。
「ありがとうございます……ありがとうございます……う、うぅ……集まらなかったら、どうしようかと……よかった……仕事、やめなくて済む……」
泣きながら拍手をするレイアさんを視て、僕はもう逃げられないんだなと悟り――
「……よろしく頼む」
死んだ目でそう言って、煽るようにしか聞こえてこない拍手に耳を澄ませていた。