まだ読んでるの?
……まだ、読んでたんだ?
別にキミの趣味にとやかく言うつもりはないけどさぁ、もう終わったんだって、ユウリ・アルシフォンの物語は。
……しかたないなぁ。
あまりにもキミがしつこいから、アミィは読み聞かせをしてあげることにしましたぁ。まる。 ← こうしちゃうと、『。』がみっつになっちゃうか(笑)
えっとね、キミ、憶えてないよね? 語られそうで語られてない、端役の物語があるってこと?
なんだっけなー、あの、最終章で急に出てきた、えっと、コウモリみたいな牙と羽をもった、獣人の民のぉ……あー、そう! シア! シア騎士団長だよぉ! 三十路近いのに、ちっちゃい女の子みたいな娘! 聯盟騎士団の騎士団長!
せっかくだしぃ、キミが諦めてくれるまでの間、あの娘のお話しよっかぁ!
いくよぉ!
昔から騎士に憧れた女の子だったんだけど王都では獣人の民への差別が強く望んでた聯盟騎士団には入れなかったでも王城でのテストでリーナに救われてぇ見事に獣人の騎士として入団なんやかんやあって~幼少の頃から人とも獣人の民とも言えない寓話のコウモリみたいな扱い受けてた彼女をリーナは何者でもない“シア”として受け入れてくれたのそれがきっかけでリーナのことが大大大好きになっちゃってねコーヒー大好きでお酒は大嫌いだったのにリーナが死んだせいで悲しみに溺れてアルコール中毒者にな(略。
ごめん、つまんないから、略しちゃった!
だいじょぶだいじょぶ! 無理に短時間で精霊の坩堝解放しちった余波で、あのシアって子、死にかけ死にかけ! 舞台端のほうで、そのうち死ぬから!
え? ひどぃ?
だってだってだってぇ、だれも端役の話なんか望んでなくなーい? つまんないよねー? だらだらだらだら、主人公以外の話されても、とっとと本筋もどれよーって、むかむかしなぁい?
キャラに愛着あるんだかしんないけどさぁ、読む側からしたら、たまったもんじゃないよねぇ?
敵役に悲しい過去とかあったら、きもちよくぶっとばせないしー、ハーレム要員は特に理由もなく好き好き言ってたほうが気持ちいいしー、端役に出番とられちゃったらムカつくしーでさいあくぅ!
主役にだけスポットライト浴びせればいいんだよー、そうすれば人気が出るのは、熟練の読者様ならご存知だよねぇ? 端役どもにページを割けば割くほどに、人気が落ちるのなんてとーぜーん!
え? なのに、なんで書いたって?
ちがうよちがうよぉ! あれ、アミィじゃないもん! アミィが書いてたら、もーっと、人気でてたよこれぇ!!
アレはね、ユウリの自意識が混じっちゃったの!!
なにしろ、神託の巫女とユウリって、一心同体、まさしくふたりでひとりだったからねぇ。
ユウリが端役にも感情移入しちゃった結果、不要情報として、みんなの元に届いちゃったんだぁ……正直言って、ユウリ以外の奴らが目立ってたのは、ユウリの自意識をアミィが制御しきれなかったのが原因なの。
だから、これから先、変な不要情報が書き込まれることがあっても、それはこの物語の“続き”じゃないからね?
ユウリの物語は終わった。
終わったの。
ユウリの自意識と混線して、変なお話が書き込まれるかもしれないけど、賢い読者のみんなは信じたりなんかしないよね?
……信じたり、しないよね?
うん! それならいいの!
それじゃあ、こんどこそ、もう会うことはないとねがって!
ばいばーい!!
「悠里」
教室、片隅で目が覚める。
「起きろ……早く起きないと、目玉ほじくるぞ……」
数学の授業は終わっていて、同級生たちは帰宅の途についており、夕暮れの中の学び舎は橙の海に沈んでいた。
うっすらと、目を見開く。
美しい橙色の海原で、彼女がたゆたっている。
「さぁ」
制服を着込んだ梨衣菜は、微笑を浮かべて――
「帰ろうか?」
僕に手を伸ばしていた。




