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外面だけは完璧なコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
最終章 外面だけは完璧だったコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる
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間に合わない理想

 血でまみれた身体を、引きずるようにして走る。

 

 限界だった。それでもなお、ヴェルナは、ひとりでも多くの人間を救うために。王都の中心、精霊の坩堝るつぼを目指して駆け走っていた。


 曲がり角を曲がり――はち合わせする。


「「あっ」」


 互いが互いを見知った顔、ふたりは思わず吹き出した。


「フィオ、あんた、すごいボロボロじゃない。なんでそんな状態で走れんの? 足なんてぐちゃぐちゃで原型留めてないわよ?」

「ヴェルナ、貴女こそ、衣服が真っ赤じゃないですか。血液で満たされた水槽にでも、入ってきました?」


 見つめ合い、そして抱き合う。


「生きててよかった……やっぱり、あんただったのねフィオ……西塔、任せちゃってごめん……ありがとう……」

「良いんですよ、ヴェルナ……貴女が無事だったらそれでいい……辛い時に助けに行けなくてごめんなさい……」


 涙ぐむふたりは離れ、ヴェルナは顔を歪める。


「ごめん。東塔、壊しちゃったのあたしだ。全力で撃った」

「全力で撃たざるを得なかった相手と状況だったんでしょう? だとしたら、どちらにせよ、東塔は守りきれなかった」


 通り過ぎた衛兵にトリスタンを預けたことを思い出し、あの小さな身体のどこにあそこまでの力が宿っていたのかと思う。


 ――わ、私が……私が負けたら……り、りーなは……りーなは、どうなるのよ……


 いや、あそこまでの“意思”か。


「ヴェルナ、わたしたちで、精霊の坩堝だけは守り切らなければ。あそこが解放されてしまったら、神の採択(A Choice)が始動して、この世から人類が消え去ることになる」


 究極魔法、神の採択(A Choice)……精霊の坩堝の解放、神託の巫女による制御、そして大いなる犠牲をもって始動する願望実現器。アーサーたち、円卓の血族の狙いは、アレを使って願いを叶えることだ。


 止めなければ、この世界から人が消える。


 東塔が崩壊して、王都の守護陣バリアは消失した。もう王都が堕ちることは避けられない。だったらせめて、精霊の坩堝の解放を阻止して人類を救わないと。


「精霊の坩堝には、Sランクパーティーが三組も待機してる。トマリ……あたしの友達が、そういう手配をしてくれてる筈だから」

「王都の冒険者ですか。わたしたちよりも経験は数段は上、認めたくはありませんが、実力も上回っているでしょうね」


 だから、大丈夫。大丈夫の筈だ。大丈夫の筈だから、わたしたちは、四方の塔の守護に回ったんだ。


 だが、ヴェルナは不安を拭えない。言いようのない懸念が彼女の頭を支配して、気持ちの悪い汗を排出し続けていた。


「東塔が堕ちた以上、最早、北塔にこだわる必要はない。行きましょう。三組よりも四組のほうが良いに決まっている」

「……えぇ」


 ふたりは走り出して、精霊の坩堝を目指し――ゆっくりと足を止めた。


「よう」


 血沼ブラッドスワンプに浸かってきたのような、粘つきをもつ濃赤色ディープレッド


 金と黒の髪をもつ少年は、血溜まりに沈む、十三の死体の中心に座っていた。あたかも、血で象られた円卓の中心にいるみたいに。攻撃痕きずあとの残る服を身につけて、彼は気さくに手を挙げる。


「北塔は捨てたか、賢明だな。計画通り、既に飛竜ワイバーンの大半は王都内に入った。今更、四方塔による魔力防壁にこだわる必要性はねぇさ」


 宝石によって過剰に飾られた、まるで玩具おもちゃみたいな剣。腰に帯びたソレを揺らしながら、彼は座っていた“頭”から腰を上げる。


「お前らの英雄ヒーローはどうした?」

「…………」

「そうか、死んだか」

「ユウリ先輩が死ぬわけないっ!! あの預言書ライトノベルの通りに力を失ったとしても!! あの人は、きっと来る!!」

「お前らが死んだ後に?」


 アーサーは、微笑を浮かべる。


「それとも、王都が滅んだ後か? 世界から人類がいなくなった後に、遅刻しましたなんて言い訳、許してやる人間ヤツはそもそもいないぜ?」

「ユウリ様は来る」


 フィオールは、ふらつきながら剣を構える。


「絶対に……来る……!」

「人形遊びに興じる年齢としでもねーだろ? そろそろ、現実見据えて、諦めたりしてくれねーかな?」

「笑わせないでよね。あんたひとり程度、あたしたちふたりで十分なのよ」


 ため息を吐いて、アーサーは頭を掻いた。


「なら、足掻いてみろよ」

吹き(ファ)――飛べ(ミーラ)……っ……!!」


 紋様は腕に伸びる途中で力つき、ヴェルナは魔力中毒の症状によって、勢いよく喀血かっけつして膝をつく。


「ヴェル……なっ……!?」


 吹き飛んでいる。


 激戦によって魔力が枯渇したヴェルナによる不完成魔法、そんな出来損ないによって、アーサーの上半身が吹き飛んでいた。


「えっ……ちょっ!? い、今ので死んだのアイツ!? 口だけ!? な、なんで、あんな強者感出してたのよアイツ!?」

「なんだったんで――ヴェルナッ!!」


 左肩に刃が食い込み、ヴェルナは左手から強風射出リアクション。自身を回転させながら距離をとり、傷口を抑えながら振り返る。


「な、なんなのよコイツ……」


 当たり前のような顔で、ヴェルナの背後に存在しているアーサー。吹き飛んだ下半身は元通りで、装飾過多な剣をぷらぷらと揺らしている。


「魔術……モードレッドと同じ……数代を経て、完成させた魔術だ……」


 フィオールのささやき声に反応すると、強張った顔の彼女は目を細める。


「復元……しました……貴女の後ろに吹き飛んだ彼の上半身が……ブレて視えたかと思ったら……元通りに戻ったんです……」

「バカな、不死だとでも言うつもり? そんな魔術が存在していたとしても、かなり高名な魔術師が徒党を組んで、幾代にでも渡って完成させる必要性が――」

「シュヴェルツウェイン王家だよ」


 秘密を明かしたにも関わらず、どうでも良さそうな口調でアーサーは言う。


「シュヴェルツウェイン王家が、長年に渡って完成させた『まことの王は死なず』の術式だ。

 モードレッドの術式は眼に宿ってたが、王家の術式はこの聖剣に刻み込んで完成させた。本来なら門外不出の術式は血肉に刻み込むもんだが、シュヴェルツウェイン王家はなにを考えたか、この玩具おもちゃみたいなモノに刻んで代々伝承を行ってきたんだ」

「……なんで、今、そんな種明かしをするの?」

「え? 冥土の土産?」


 嘘だ。ココは現実で、物語じゃない。冥土の土産だなんてバカみたいな論理で、まだ殺してもいない敵に命綱を預けたりはしない。


 だが、だとしても――あの剣は、引っかかる。


「フィオ」

「えぇ、わかってます」


 狙いは、腰に下げている剣。


 ヴェルナはフェイントのために敢えて目線を外してから、見当違いの方向に“空砲”を撃ち込んだ。


「お?」


 アーサーは見事に釣られて目を外し、フィオールは懐へと飛び込んでいる。


「あっ」


 首が消し飛ぶ。


 と同時、フィオールは聖剣へと手を伸ばし――顔面が弾け飛んだ。


「フィオッ!!」


 蹴り。単純に魔力が注ぎ込まれた蹴り。頭蓋骨が軋む音が聞こえてくるかのような、重くて響くような回し蹴りがフィオールの顔面を蹴り飛ばす。


「うっ……」


 う、撃てない!! フィオを盾にされた!! 釣られたのはこっちだ!!


 既に再生を終えているアーサーは、射線をフィオールで塞ぎながら、なぶるようにして彼女を殴る。


 殴る殴る殴る殴る、殴り抜ける。


 ありとあらゆる方向に血しぶき、失神しているフィオールは地面に倒れ込もうとするが、それをアーサーは許さない。倒れる方向に拳と足を運び、的確に急所へと叩き込んで、赤色の飛沫を上げさせる。


「うっ……ぐ……っ!」


 ヴェルナは、精霊使いだ。基本戦法は遠くから魔法を撃ち込むことであり、決して敵に己から近づくべきではない。


 論理的に考えればそうだ。だが、感情論が差し込まれる。


「クソ……クソ、クソ、クソぉ……っ!」


 肉塊ミートボールみたいにもてあそばれる親友を視てられず、ヴェルナは駆け出してアーサーに接近する。


「ほい」


 こちらに突き飛ばされたフィオール。


 思わず、抱きとめて――彼女ごと、刺し貫かれる。


「あっ……」


 膝をつく。限界だった全身がとろけ落ちて、よだれと一緒に口から、意思とは裏腹の弱々しい声が漏れた。


「あっ……あっ……あっ……」


 引き抜かれて、蹴り飛ばされる。地面にふたりで倒れ込んで、ヴェルナは、必死に傷口を塞ごうとするも上手くいかない。どんどんどんどん血液が流れ落ちていって、頭がぼんやりとしてくる。


「勝てるとでも思ったか?」


 寝転んだ彼女は、こちらを見下げる笑顔を見た。


「まともに精霊魔法も発動できない状況で、Sランクパーティー三組も倒したヤツに勝てるわけないだろ。諦めるべきだったな」

「ふぃ……ふぃおは……た、たしゅけ……て……お、おねが……ふぃ、ふぃおじゃけは……た、たしゅけ……て……くだしゃ……い……」

「なんで?」


 満面の笑みで、アーサーは言った。


「なんで、お前の判断ミスを、俺がフォローしてやらないといけないの? 万全な敵対状況コンディションでもないにも関わらず、逃げずに立ち向かっちゃったのはお前だろ? 俺たち、敵だぜ? さっきまで殺し合っといて、どうして慈悲を見せないといけないんだ? リーナを殺した人間ゴミ相手に?」


 涙を流したヴェルナの上で、うろんな目つきをしたフィオールが、ばたばたと手足を動かしながら必死で彼女を覆い隠そうとする。


「お、おねが……い……し、しましゅ……ゔぇ、ゔぇるにゃだけひゃ……ゔぇ、ゔぇるにゃじゃけは……た、たしゅけ……てくだしゃ……い……」

「感動するなぁ。お前ら、本当に自分の生命は惜しくないのか。そこを乗り越えられる人間は、この世に一握りもいないだろうぜ。

 でも」


 聖剣がフィオールの顔の横を通り過ぎ、ヴェルナの左肩にある傷口を突き刺す。


「ダーメ」


 脳みそが沸騰したかのような激痛、意識とは関係なく全身が痙攣して、口からみっともない悲鳴が上がった。


「ふたりとも、ころしまーす。それが礼儀ってもんでーす。でも、悪者ぶって、痛めつけるのはコレでおわりでーす。安心してくださーい」


 おどけていたアーサーは、なにかを期待するかのように顔を上げ、周囲に誰もいないことを知って哀しそうに微笑んだ。


「……間に合わなかったな」


 アーサーは、剣を振り上げる。


「悪かったな、本当に……別にお前ら自身には、恨みはねぇよ……でも、俺は、お前らごと人間ゴミを許せない……だから、俺が死ぬ時、地獄まで足を引っ張りに来いよ……」


 剣先を見つめ――ヴェルナは、目を閉じた。

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