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外面だけは完璧なコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
最終章 外面だけは完璧だったコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる
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悠里・アルシフォン

 暗がりだ。

 

 なにも視えない。いや、なにも視ようとしていないのかもしれない。

 

 両目に粘つく闇。眼球が内側にめり込んだみたいに、なにもかもが黒に埋め尽くされ立ち尽くす他ない。


 唐突、まぶた越しに明るさを感じる。


「…………」


 目を開く――椅子があった。


 どこか、上方から差し込む光。一条の光線に照らされた安楽椅子が、ぎぃこぎぃこと、孤独をのせて揺れていた。


「ユウリ」


 肩に手を置かれる。


「選ぶチャンスをあげる……あの過去を見据えた上で、王都に進むというのなら、筋書き通りの悲劇をもたらしてあげる」


 目の前で、燃えてゆく大事な人が視えた。


「その安楽椅子に座って安穏を望むのなら、元の完璧な外面(ユウリ・アルシフォン)としての喜劇を与えてあげる」


 目の前で、大事な人たちに囲まれる僕が視えた。


「どうする?」


 今の僕は、どちらなんだろうか?


 悠里なのかユウリなのか……いや、僕はもう、双方が入り混じった“悠里ユウリ”なのかもしれない。


 完璧な外面(ユウリ・アルシフォン)として生きた日々、悠里として営んだ日常、そしてなにもかもを取り戻した現在いま――三者三様の軌跡が合流して、今の僕として完成されている。


「…………」


 うーん、王都に進めば、本当に死ぬ気がする。大変残念なことに、神託の巫女(アーミラ)に対抗するすべが思いつかないんだよなぁ。彼女の望んだ筋書きを辿ってきた以上、僕はなにかを救って破滅の道を進む他ない。


 レイアさん、フィオール、ヴェルナ、イルにミル、オダさん、オーロラ、ヴィヴィ、マルスさん、シルヴィ、アカ(パトリシア)、モードレッド、グレイさん、パーちゃん……たぶん、僕が行かなければ、彼らが死ぬ。


 そして、なによりも――


 ――後は頼んだ、英雄(ヒーロー)


 彼女だったら、きっと。


「おい、悠里」


 いつの間にか、リーナが横にいた。


 彼女はイタズラっぽく微笑んでいて、なにかを期待するかのように、安楽椅子のほうを指し示す。


「……うるせーブス」


 だから、僕は、安楽椅子に近づいて――


「ユウリ?」


 安楽椅子の“肘置き”に腰をかけた。


「いや……それ、どっち?」

「……注文いいですか」


 直ぐ隣で、腹を抱え笑っている彼女。


 理解に苦しむかのように眉をひそめるアーミラを前にして、僕は真っ直ぐ人差し指を立てた。


「……欲張りセットひとつ。死人はゼロで。ユウリ・アルシフォンは、王都からおもちかえりでお願いします」


 神託の巫女(アーミラ)は、ゆっくりと笑みを形作る。


「さぁ、王都決戦を始めようか――せいぜい語ってよ、ユウリ・アルシフォン」

「……悪いが、この物語は」


 僕は、誓う。


「……笑顔で終わり(ハッピーエンド)だ」


 安穏を蹴り飛ばした瞬間――始まった。




 喧騒が聞こえる。


 叫声、悲鳴、怒号……爆発音が鳴り響き、城が揺れたかと思えば、牢獄の天井からパラパラと砂埃が舞い落ちる。


「……始まった」


 壁に嵌め込まれた手錠、魔力封じを示す両腕を繋ぐ環。


 ついに『Sランク冒険者に求婚されてみた』……預言書ライトノベルに書かれていた“未来”が現実となったのだ。


 王都襲撃。そして、それに伴う王都決戦。この世界を賭けた戦い。大勢の人々が生きるも死ぬも、この戦争の勝敗によって決められている。


 この続きがどう描かれているかはわからないが、ヴェルナ・ウェルシュタインは、来たるべき破滅を座して待つつもりはなかった。せめて、抗って。抵抗の限りを尽くしてから、終わろうと決めていた。


 ――……フッ


 きっと、あの人も、そうするだろうから。

 

 しかし。しかしと、ヴェルナは思う。

 

 ――8割方、ヴェルナさんは死にますが、脱走計画に全力を尽くしましょう

 

 マズい。なにがマズいかって、未だにトマリの助けが来ないということよね。なによ、8割方死ぬって。壁にはりつけにされたまま、燃え落ちる城と命運を共にするよりは、2割の可能性に賭けたほうがいいとは思うけど……なんで、助けに来ないの?


 え、忘れてる? あの天災害獣モンスターマニア、龍種の鱗でも数えるのに夢中で、すっかり私のことなんて忘却の彼方に消し飛ばしちゃってるんじゃないわよね? ちょっと、冗談じゃないんだけど?


「……っ!」


 盛大に音を鳴らしながら、魔力封じの手錠を外そうと試みる。


 だが、解放されるわけがない。この程度で外れるような代物であるならば、ヴェルナはとっくの昔にさよならのキスをしている。


 騒乱の渦が、大きくなっていくのを耳で感じた。


 天地を揺るがすような天災害獣モンスターの咆哮が耳朶じだをひっぱたき、あまりの揺れに体勢を崩して膝をつく。焦りがどんどんヴェルナに近づいてきて、彼女は血が流れるのをいとわず手錠を思い切り引っ張る。


「ヤバい……ヤバいヤバいヤバい……っ!」


 手遅れになる、このままだと死――閃光。


「えっ……」


 一瞬遅れて、熱風がぶわっと顔面を叩き、勢いよく吹き飛んできた瓦礫が頬を削る。思わず顔を覆うと、あまりの大音響に鼓膜が痺れて耳鳴りが始まる。わけのわからないうちに冷たい空気が舞い込んできて、逆巻く強風が髪と服と世界を羽ばたかせる。


「おー、すげー」


 斜め上方向……崩れ落ちた壁の隙間から、青い空と覗き込む“龍”が視えた。


「おめでとうございます、ヴェルナさん。貴女は、『生存確率2割で生き延びた女』の称号を手に入れました」


 龍種ドラゴンまたがったトマリ・アダントは、火球を吐き出したソレの頭を撫でつつ、ニコニコと笑っていて――


「おめでとう、トマリ。あんたは、『死亡確率8割で殺さなかった女』の称号を手に入れたわ」

「さぁ、行きましょうか」


 既に崩れ落ちている壁を破壊し、解放されたヴェルナへと彼女は手を伸ばす。


「地獄へ」

「なんて素敵な誘い文句」


 ヴェルナは――その手を掴んだ。

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