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外面だけは完璧なコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
最終章 外面だけは完璧だったコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる
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アーサー王と円卓の騎士

「リーナを探す、俺たちで」

 

 王城内の一室。

 

 中央の円形絨毯を囲むようにして、三人の少年少女が集っていた。

 

 円形の絨毯の上に置かれているのは、『アーサー王と円卓の騎士』。騎士道理念を体現したとわれる、九偉人に選ばれたアーサー王を中心とした、中世後期に完成した騎士道物語である。


「俺には姓名がない。だけど、リーナは、俺に名前をくれた。だから、ただの『アーサー』になれたんだ。

 その恩を返したい」

「…………」


 押し黙っているトリスタンは、こくりと頷く。


「悠里、お前も本を……“箱”をもらった側の人間だろ?」


 僕には、悠里の懐で眠る『Sランク冒険者に求婚されてみた』が視えている。昨夜、彼は取り憑かれたようにソレを読み進め、誰からも愛される英雄ヒーローの物語を、熱心に噛み締めていた。


「協力してくれ。お前がこの王城に来てから喧嘩ばかりだったけどな、今回ばかりは一時休戦だ。一緒にリーナを探そう」

「……断る」


 逡巡しゅんじゅんなしの断言、アーサーが微笑を浮かべる。


「なぜ?」

「……リーナと僕は他人だ。見捨てる理由はあっても、助ける理由はない。そもそも、あんな強いヤツを心配しても意味がない」

「悠里、アナタ、神託の巫女の講義は聞いてたでしょ?」


 無言を貫いていたトリスタンの問いかけに、悠里少年は口端を曲げて応える。


「リーナは、神託の巫女よ」

「おい!!」

「隠しておいて、協力してくれなんて都合が良すぎる。彼も知るべきだもん」

「……どういうことだ? リーナが神託の巫女? 

 だとしたら、あの埒外の力の正体は」

「彼女自身のモノじゃない。

 過去、神託の巫女となった人間は、五年以内に死んでいる。リーナが神託の巫女になったのは約五年前。そして、死期が近づいた神託の巫女には、ひとつの共通点がある」


 悠里は、壁から背を浮かせる。


「……力が、失せたのか?」

「力だけじゃない、きっと完璧な外面も失った」

「……だから、消えたのか? 僕たちの前から?」


 僕は知っている。


 エカテリーナ・フォン・シュヴェルツウェイン第一皇女が失踪してからというもの、悠里がまともに眠れていないことを。ただひたすらに、彼女の置き土産である“ライトノベル”を貪るように読んでいたことを。


「……フッ」


 悠里は、笑った。


「……やっぱり、アイツ、ブスだったな」


 三人の間に沈黙が流れ、いたたまれない空気の中で彼は口を開く


「……ユーモアだ」

「急になんのつもりかは知らないけど、笑えないからやめて。

 悠里、真面目な話だよ。協力して。私たち上手くやれてなかったかもしれないけど、たまに魚の小骨くらいはあげてもいいとは思ってた」

「悠里、コレが笑えないユーモアの手本だ」


 アーサーが肩に手を置いた瞬間、悠里は心底嫌そうな顔をして手を払った。その悪態にもよく似た行動に、彼は口笛を吹いてニヤける。


「お前、俺のことが嫌いだろ」

「……お前こそ」

「昔から、ぬるま湯につかりながらギャーギャー喚くガキが嫌いでね。不幸自慢をするつもりはないが、俺はお前の数十倍は酷い環境にいたものの、一度たりともこの世を呪ったことなんてない」

「……主観で喚くなよガキ。熱湯よりも辛いぬるま湯だってある」

「はい、仕切りの直し」


 睨み合う二人の間に、ひょっこりとトリスタンが顔を出す。


「ワンモア、アーサー」

「ハッハッハ! 悠里君、お互いに協力しあって、リーナのことを助けようじゃないか! 俺たち、友だち友だち!!」

「……きたねぇ笑顔」


 お互いの拳が右頬と左頬に入って、同じタイミングでうずくまる。そんな二人を眺めていたトリスタンは嘆息たんそくいた。


「悠里、意地張るのやめたら? 心配で眠れてないんでしょう? その腫れぼった目を見れば、誰だってわかるもの」

「…………」

「協力関係が嫌なら、一緒に行動するだけでもいい。

 リーナがいなくなった今、王城での後ろ盾はなくなって、私たちの立場はとてもマズい状況にあるのよ。リーナがせっかく帰ってきても、悠里がいなくなってたりしたら、きっととても悲しむわ」

「悠里」


 アーサーは、腰に下げていた聖剣――いや、ただの玩具みたいな剣の切っ先で、指をカットしてから血を差し出した。


「血の誓いだ。互いに裏切らない証を」

「…………」


 悠里は、同じように人差し指を切る。そして、ポタポタと垂れ落ちる己の血で、床に置かれた『アーサー王と円卓の騎士』を汚す。


 朗々と響き渡る声。


 波間に揺られる、ゆりかごを思わせる静けさを打ち破る。噛み合った世界が分け隔てられて、僕の前に膜がかって視えた。


 差し込んだ日光が、血で繋がるふたりを照らす。


「貴殿をパーシヴァル卿として認める。

 我が血が尽きぬ間、あらゆる災厄から汝を庇護し、あらゆる道程から汝を祝福し、あらゆる交錯から汝を享受しよう。

 汝、円卓の血席に座れ。汝、円卓の王道に従え。汝、円卓の騎士に溺れ。

 絶て、経て、起て――我が血の血族、パーシヴァル卿」


 アーサーとユウリは見つめ合い、そして同時に手を引いた。


「おまじないは終わりだ。コレで事が終わるまでの間、俺は絶対にお前を裏切らないしお前を見捨てないし魚の小骨もやるよ」


 トリスタンに脛を蹴られて、アーサーが声もなくひざまずく。


「……それで、リーナの居場所の目処めどは?」

「そのために、今夜、俺たちで仕掛ける」


 アーサーは、笑いながら言った。


「いい天気だし、王でもさらおうぜ!!」

「……は?」


 アーサーの語る国王の誘拐計画を聞きながら……僕は、リーナと共に消えたアーミラに胸騒ぎを覚えていた。

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