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外面だけは完璧なコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
最終章 外面だけは完璧だったコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる
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地下墓所での終わり

 助言者アドバイザーに現場を任せたヴェルナは、早足で評議室まで戻って、トマリを呼び寄せる。


「はいはい、なんでございますか?」

「王城内の見取り図、それと人魔大戦中に残された筆録をもってきて。戦争中の王城内の様子に、信憑性があるもの。もしくは、尚書しょうしょが残した、戦時中の議事録でもいい」

「いや、急にどうしたんですか、読書欲に目覚めた十代ティーンじゃあるまいし。お目当てのものは、書物庫に存在しているとは思いますが、探し当てるには人員と時間を割く必要性があるとお知りでしたかね?」

「穴よ」

「へ?」

 

 白衣に両手を突っ込んだトマリが首を傾げる。


「あたしたちは、黒霞に対して、正面から取り組みすぎた。でも、実際のところ、アレを突破するには、穴を探せばいいだけの話だったのよ」

 

 数瞬、黙りこくったトマリは、ゆっくりと目を見開きながら叫んだ。


「そうかっ!! その手があったか!! 私たちの意識にも“穴”があったなんて、バカげた話ですよ!!

 総員、書物庫に向か――」

 

 念話石テレパストーンを通して、天災害獣研究機関(MRI)の職員たちに応援を呼びかけた彼女の手を止める。


「秘密裏に動きたい。特に聯盟騎士団リベルム・ベトには、気づかれないように」

「……確かに。

 邪魔立てされれば、その時点で計画破綻イッツ・ア・ゲームオーバーですからね」

 

 念話石テレパストーンの通信を切ったトマリは、ふたつの石でお手玉しながら目を細める。


「私は作業に戻ります。全身全霊で取り組んで、ココで聞いた話はおくびにも出さず、休憩時間もきっちりと勤務時間にぶち込んでやる所存です。ただでさえ時給換算したら、大した金もらえてないんでね」

「あたしも、一旦、あちらに戻る。それから城壁と黒霞の距離を念頭に入れた、王都防衛策の立案に取り掛かるわ。

 念話石テレパストーンを使うのは危険ね。資料が見つかった時の合図を考えておきましょ――」

 

 小さめの念話石テレパストーンを投げつけられ、ヴェルナは反射的に左手で受け取った。


聯盟騎士団リベルム・ベトが通信用に使ってるモノです。捕虜にした三人組から、ふたつ“提供”してもらいました」

「……研究者って、手癖も悪いの?」

「データ入力が大変でしてね」

 

 首を竦めながら、文字入力のフリをする。


「当たり前の話ですが、コイツでお話すれば、花も恥らう女子会の様子は聯盟騎士団リベルム・ベトに筒抜けになります」

「その状況下で適切な会話をしていれば、聯盟騎士団リベルム・ベトは決して、あたしたちの企みには気づかないってことね」

 

 トマリは、にやりと笑う。

 

 えて、会話を聴かせる……その話中に取り決めておいた合言葉を混ぜ込めば、準備完了くらいは簡単に疎通可能だろう。


「それじゃあ」

「えぇ、後で」

 

 ふたりは、反対方向へと進み――昼の頃には、鍵のかけられた評議室で、王城内の見取り図が広げられていた。


「ココだ」

 

 確信をもって、ヴェルナが指した地点。そこには、どう考えても、“不要”としか考えられない狭くて細い『通気孔』と称された“穴”があった。


「ココから――」

 

 ヴェルナは、言った。


「外に出られる」


 ヴェルナとトマリが探し求めていたのは、穴……つまり、外へと繋がる“抜け道(トンネル)”であった。


 ヴェルナがそのことに気づいたのは、ル・ポールに大量の原生スライムが迫った際、ユウリ・アルシフォンが発見した地下通路を思い出したからだ。


 ル・ポールの外で原生スライムに立ち向かっていたユウリが、たったひとりで、幾千もの天災害獣モンスターを屠っていたのが明らかになった後日。ヴェルナは、実際の現場を視て、ル・ポールが彼の手で救われたのを理解した。


 王都から来た役人によれば、あの地下通路は、千年前の人魔大戦で作られた避難路だったらしい。


「ル・ポールみたいな街にあって、人魔大戦の中心地とまで言い伝えられる王城に、避難通路が設けらない筈がない」

「人魔大戦のおりに作られた避難通路であれば、魔法対策は万全であるに間違いなし。地下に存在していて、黒霞発生時にも閉鎖されていたのであれば、あの憎き黒い霞ちゃんも入り込んでない可能性があるってことですね」

 

 唇に手を当てて考え込んでいたヴェルナは、そっと決意をつぶやく。


「……今夜、決行するわ」

「はぁ!? 今夜ぁ!?」


 あまりの驚きに、トマリは机をがたんと揺らす。


「いやいやいや、無茶も無茶、さすがにお茶らけてる場合じゃないですよ。もうちょっとこう段階を踏まないと、間違いなく、私たちは希望という名の女神にフラれちゃいますって。ヴェルナさんなんて、見るからに恋愛下手なんだから」

「恋愛下手でいいのっ!! 運命の人しか愛さないのっ!!」

「そこにキレてる場合じゃないですって!! たまに子供っぽくなるところ、可愛いなこの子は!!」


 あーだこーだともみくちゃになった後、ぜいぜいと息を荒げながら、ヴェルナは己の焦燥を吐き出した。


「きょ、今日が終われば二日後……二日後には、王都は戦場になる……もう、時間がないのよ……聯盟騎士団リベルム・ベトに勘付かれたら、その時点で裏切り者の晒し首なんだから……」


 ヴェルナは、トマリに掴みかかり頭を下げる。


「お願い……たすけて……せめて、老人と子供だけでも……たすけてあげたい……あたしも……たすけられたから……今度は……あたしが……誰かの騎士に……」


 数分の間隔が空いて……上から、嘆息が聞こえてくる。見上げると、トマリは呆れ顔で唇を尖らせていた。


「冒険者は儲かってるんだから、報奨金をケチるなんて言わないですよね?」


 思わず、満面の笑みを浮かべて彼女に抱きつく。


「だいすき!! ありがとっ!!」

「…………」

「トマリ?」


 目を見開いたまま微動だにしなかったトマリは、呼びかけるとようやく息を吸った。


「ほら、善は急げよ!! 行きましょ!!」

「……へーへー、今日のところは、身のこなしの軽いガキどもで、明日からは、本格的に伏せってる王様と老人どもですかね」


 ヴェルナは、護衛も兼ねた冒険者を選出し、昼間のうちに見つけておいた候補者の子供たちと共に連れてくる。


 信用できるかできないかはさておき、一度、外に出してさえしまえば、助けを求めることだって可能である。王都と外部とのやり取りが開始されれば、王都襲撃についても、明るい未来が視えてくるだろう。


 夜更け。闇夜に紛れて、ヴェルナたちは動き始めた。


「静かに……急いで……トマリ、様子は……?」


 屈んだ大人が辛うじて通れるくらいの通路は、緩やかな坂になっていて、厨房から開始した道のりがどんどん細くなってきていた。


聯盟騎士団リベルム・ベトに動きなし……はーあ、研究者の仕事じゃないでしょコレ……化粧が崩れるし、酷いんですけど……というか、なんで、私も同行しないとダメなのかなぁ……」

「いざという時、王都側の人間がいると誤魔化しが聞くでしょ……ほら、道が広がってきたわよ……出口かしら……」


 通気孔と称された穴が終わり、ヴェルナはすぽんと這い出て着地する。


 闇になれてきた彼女の目は、周囲を見渡して捉える。


 陰気の満ちた空間、整列している棺桶、足元を這い回る虫たち……墓所だ。ヴェルナが炎精ザラマンドルを呼び出して灯りをつけると、蜘蛛の巣の張った棺桶の中で、唯一献花が供えられた棺を見つける。


「王家の紋章……王族たちが安置されている地下墓所カタコンベだわ……王城の下にあるなんて……」

「古エーミル語ですね……どうやら、人名……エ……カ……テ……えーと……」

「エカテリーナ。エカテリーナだわ。現王の娘、神託の巫女の生まれ変わりとうたわれた、あのエカテリーナ姫よ」


 なぜ、エカテリーナ姫の棺だけが綺麗なのかしら? 痕跡からしても、誰かがココに献花してから一日も経っていない。王は床に伏せているから来れるわけがないし、他に王家の関係者がココを訪れてい――ヴェルナは、背筋が凍りつくような感覚と共に、思い切り大きな声で叫んだ。


「全員、走りなさいっ!! 別々の方向に走っ――」

「動くな」


 暗中から光が差すように、白銀の鎧が現れる。


 手を繋いだ右手と右手――聯盟騎士団リベルム・ベト徽章シンボル


 胸の前に剣を掲げた彼らは、真っ二つに割かれた海の如く、奇跡じみた動きで左右に分かれ、その間から見覚えのある女性が歩いてくる。


「残念ね、ヴェルナ・ウェルシュタイン」


 柄頭に手を置き白マントを纏ったシアは、聯盟騎士団リベルム・ベトの騎士団長として厳かに言った。


「今後、貴女の首とお喋りすることになるなんて。お返事がない相手と飲むお酒は、実につまらないもの」

 

 絶望が――思考を埋め尽くす。


 ダメだ、終わった。言い逃れができない。誰かが来ている痕跡を見つけた時点で、計画を中止すればよかった。気配を気取った時には、もう敗北は決まっていたんだ。でも、本当に、彼女たちが墓参りをした張本人なの?


「なんで……バレたの……?」


 彼女の問いかけに、拍手が応える。


 暗闇の中に表示される両手、ぱちぱちと、蒼白い手だけが浮かび上がって愉しそうに手を打っている。


「いやー、もー、本当に残念だなー。有能な貴女を失うなんて、実にショッキングだなー」


 闇から現れた少年は、淡い笑みを浮かべる。


 アーサー――その笑顔を視て、ヴェルナは嫌悪感を覚えた。


「果たして、王都は、どうなっちゃうんですかねー?」


 彼は笑いながら胸元に手をやり、ヴェルナたち以外には視えないところで、『Sランク冒険者に求婚されてみた』の新刊を見せつける。


 その瞬間――ヴェルナは、なにもかもを思い出した。


「お、お前っ!! お前がっ!! お前がぁあああああああああああああああ!!」


 掴みかかろうとした彼女を、聯盟騎士団リベルム・ベトの騎士たちが羽交い締めにする。絶叫しながらのたうち回る彼女を見下げたアーサーは、実に嬉しそうにニヤニヤと笑った。


「騙されるなっ!! 敵はコイツだっ!! 最初から!! 最初からこのつもりで、穴について言及したんだっ!! 今日のことは、全部、コイツが仕組んだのよっ!! 目の前のコイツが、円卓の血族だっ!! 王都襲撃を目論んでるのはコイツでっ!! ユウリ先輩を刺したのも、この男の仕業なのよっ!!」

「おー、こわいこわい。ついに、狂言まで振るい出しましたよ」

「本当に残念よ、ヴェルナ・ウェルシュタイン。我々をたばかって、卑怯にも、己の保身のために逃げ出そうなんて。預言書ライトノベルのことも、全て、でっち上げだったんでしょう?」

「ち、違うっ!! 信じてっ!!」


 シアは、軽蔑の眼差しを向ける。


「生きてるうちの謝罪は受け入れません。せめて、死んでからびなさい。

 連れて行け」

「違うっ!! あたしたちじゃない!! あたしたちじゃ!! このままじゃ王都がっ!! 離せっ!! 離しなさいっ!! クソッ!! お前!! アーサー!! お前、お前ぇえええええええええ!!」


 後ろ手を振りながら、立ち去るアーサーに吠え――後頭部を殴られたヴェルナは、静かに失神した。

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