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外面だけは完璧なコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
最終章 外面だけは完璧だったコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる
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バカとハゲと城備え

「いやー、都をひとつ守るなんて、大掛かりなことしたことないからなー! コイツは、大仕事になりそうですよねー!!」

 

 初対面だというのに、なぜこんなにも嫌な感じがするの?

 

 金髪に黒髪が入り混じった少年、アーサーの淡い笑み。その笑顔を視るだけで、肌が粟立つような感覚がした。


 なんなんだろう、この嫌悪感は。軽薄そうには視えるが、至って普通の少年なのに。聯盟騎士団リベルム・ベトが推薦するくらいなのだから、有能であるのは間違いなく、コレからの戦いに必要不可欠な存在であるのに。


 なぜ――この男から、離れなければならないと考えているの?


「しかしのう、ヴェルナ冒険者長。四方を黒霞に包まれている状態で、防衛戦の準備を整えろと言われても、どうしようもないんじゃないかのう?」

「冒険者長はやめて」


 聯盟騎士団リベルム・ベトの騎士団長であるシアは、預言書である『Sランク冒険者に求婚してみた』の新刊の捜索に当たり、天災害獣研究機関(MRI)の新人であるトマリは引き続き黒霞の解析を行っていた。


 助言者アドバイザーのアーサーとガラハッドを引き連れたヴェルナは、都市を囲む城壁の上を練り歩き、目の前に迫っている霞を見つめる。


「……接敵するまでの距離が短すぎる」


 城と都市を守る城壁から黒霞までの距離は、100メートル程度しかない。コレはつまり、視認外である黒霞の中から敵が攻め込んできた場合、矢や魔法、投石などによって敵数を減らす機会を失することを意味する。


 たった100メートルしかなければ、見張りを立てていたとしても、夜襲をかけられた時にまともに対処する時間がない。伝令を走らせたところで既に距離を詰められた後だし、念話石テレパストーンをもたせたところで焼け石に水だ。


 それに、籠城戦の基本である、後詰めの救援軍に期待できない……助けを求めたところで、応える領主たちは黒霞の向こうで手出しできないだろう。


「人数規模にもよるが、傳導大筒(マギカ・カノン)はまず使んじゃろうのう。城壁を我軍で壊すなど笑い話にもならんわい」

 

 傳導大筒(マギカ・カノン)は、“腕つなぎ”と呼ばれる魔力増幅法(腕を組んで魔力共有を行い、一時的に魔力流出量を底上げする)を用いる兵器のひとつだ。


 魔術の書き込まれた大筒を、兵士たちが半円を描くようにして囲み、両腕を両隣の者と組んだ状態で両手を添える。その状態で増幅した魔力を流し込み、“魔力砲”として撃ち込むものである。


「この距離では、ちと難しいのぉ。傳導大筒(マギカ・カノン)は、大筒を囲む人数が多ければ多いほどに威力が跳ね上がる。十数人規模であれば大地を穿つ砲を撃ち込めるじゃろうが城壁を巻き込むじゃろうし、逆に少なすぎれば、傳導大筒(マギカ・カノン)性能パフォーマンスが落ちて運用コストに見合わん」

「うはー、つーか、たけー!! ココ、たけーですよ!? 落ちたら死ぬわー!! うはーっ!!」

 

 禿げているほうは使えそうだけれど、もう一方のアーサーとかいうのはダメね……嫌悪感を覚えるのは、顔面から無能がにじみ出てるからかしら?


「薄々感じてはいたけれど、やはり、黒霞は王都攻めのために張られたものだわ。目的の途中で邪魔が入らないようにするというよりは、効率的に王都を陥落させるための一手と言ったほうがいい」


 城壁に魔力膜を張っているグループの仕事ぶりを見つめながら、ヴェルナは今件を引き起こした組織に思いを馳せる。


 奴らの狙いは、精霊の坩堝……解放された時、恐らく、“とても嫌なこと”が起こる。預言書ライトノベルもそのことを示唆している。だとしたら、本当に守るべきは、王都ではなく中心に存在する精霊の坩堝なのだろうか?


 いや、違う。本当に守るべきなのは人命だ。


 無辜むこの民を、戦に巻き込みたくはない。本心を吐露すれば、籠城戦など捨て置いて、王都から皆を逃してしまいたい。


「やべぇ!! 落ちる!! 落ちるっ!!」

「アーサー、そのまま捕まっておれ!! ほほ!! 食らうがいい!! 城壁に捕まっているその指、足先で踏んづけてやるわい!!」

「きさまぁ!! ジジィイ!!」

 

 城壁にぶら下がって遊んでいるバカと、悪役のフリをしてその手を踏んづけているハゲ。このふたりの目を盗んで、どうにか、精霊の坩堝に別働隊を設置しておくべきか。信頼の置ける強者に、その任を与えておけば安心できる。


 ユウリの顔が浮かび――ヴェルナは、首を振る。


 ダメよ。さすがのユウリ先輩も、ココには来れない。預言書ライトノベルによれば、あの人はもう力を失っているんだもの。戦乱の渦中に招き入れれば、大好きな人を、無駄死にさせることになる。


「たいちょー!! たいちょー!! 提案!! 提案しますよ、俺はぁ!! 提案しますよ、たいちょー!!」

「……なに?」


 考え事をしている最中に話しかけられ、思わず不機嫌が表に出る。


「地面、掘りましょうよ!! 地面!! 落とし穴ですよ落とし穴!! 小さい頃、作りませんでした!? 俺は作ったなぁ!! なぁ、爺さん!?」

「儂の人生、落とし穴だらけじゃからな……なんで、ハゲたんじゃろうか? 若い頃の儂に言ってやりたい。

 両親の世話は怠っても、頭皮の世話は怠るなと」

「どっちも怠るなよ」

「落とし穴って……あのね、もうちょっとまともな――」


 その時、ヴェルナの全身を閃きが走り抜けた。ぞくぞくするような痺れを背筋に感じ、高揚感で頬が緩むのを感じる。


「そうか……その手が……その手があった……なんで、こんな簡単なことに気づかなかったの……!」

「だしょ!? 落とし穴だしょ!?」

「違う」

「違うんかーい!!」


 大袈裟なリアクションをとったアーサーに、ヴェルナは不敵な笑みを返す。


「穴よ。穴を使う」

「穴を使って、王都を防衛するんじゃろ? であるならば、必然、落とし穴となるのではないかのう?」


 いいえ――ヴェルナは、心中で答える。


 もう、王都を守る必要はない。

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