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外面だけは完璧なコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
最終章 外面だけは完璧だったコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる
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力強いコミュ障

 僕は逃げている。

 

 酷く恐ろしいものから、僕は逃げている。

 

 路地から路地へ、ゴミ山をなぎ倒しながら、必死に逃げ続けている。だが、いずれは、追いつかれることがわかっていた。

 

 あぁ、そうだ。ココだ。この壁だ。

 

 高くて汚らしい壁。いつも、ココに追い詰められる。これから酷いことが起こる。そのことを僕は知っていて、身体に刻みつけられている。

 

 いやだ。いやだ、いやだ、いやだ。

 

 恐怖で、目を閉じた瞬間――声が聞こえた。

 

 ――悠里

 

 目がくらむような光。赤色の宝石がはめ込まれた首飾りが、彼女の首元で揺れていて、視えない顔が笑っていた。


 ――英雄ヒーローの必須条件は

 

 彼女の唇が、ゆっくりと動いて、“正解”を導き出――




「……リ! ゆ、ユウリっ!」


 目が覚める。


 パーシヴァルが、こちらを見下ろしていた。癖っ毛の合間から覗いている瞳に、ありありと不安が浮かんでいる。


「…………」


 なんなんだろう、また、あの夢だ。顔が視えなかった。あまりにも、リアリティがあり過ぎる。まるで、実際に起こった出来事みたいだった。今までは、あんな夢視たこともなかったのに……この身体になってからだ。


「……年かな」

「え、えひ……確かに寝すぎだし、酷いうなされ方してたけども……まだまだ、若いと思うよ……」


 山下の街(マウンテン・ダウン)から離れ、僕たちは北にあると言う小さな港町を目指していた。王都は南だから正反対だ。つまるところ、人の少ない過疎地に向かうことを意味していて、コミュ障ベストロードだった。


「か、買い出ししてきたから……ご、ご飯作ったよ……えひひ……食べよ……」


 そう言って、パーちゃんが取り出したのは、サンドイッチだった。なんだか知らないが、気に入っているらしい。いつも、小動物みたいに、パンをちっちゃく千切るみたいにして食べている。


 彼の食事風景を観察していると、なにかを悟ったかのように頬を染める。


「さ、サンドイッチうまうま……」


 ルーチンワークと化してない? 男の娘だから許されてるけど、コミュ障の陰キャが同じことしたら、二度とサンドイッチが食べれない身体にしてやるからね?


 どれ、試しに、現実を教えてやりますかね。


「……サンドイッチうまうま(裏声)」


 パーちゃんは、笑顔になった。


「さ、サンドイッチうまうま……」

「……サンドイッチうまうま(裏声)」

「さ、サンドイッチうまうま……」

「……サンドイッチうまうま(裏声)」


 地獄絵図だよ。第九圏、サンドイッチ地獄だよ。


 止めるに止められず、真顔で『うまうま』言いながら食事を終えると、パーちゃんが真剣な顔で切り出した。


「て、手配書の件だけど……ま、間違いなく、神託の巫女(アーミラ)の仕業だよ……あ、あの子は、人の認識を操るのが上手なんだ……」

「……あんなの、アーミラちゃんじゃな――」

「うん、そうだね。

 そ、それでね、ユウリ」


 今、軽やかに、受け流さなかった?


「い、今まで、ゆ、ユウリは……お、おかしいとは思わなかった……? じ、自分の身の回りに起こった出来事を……まるで、都合よく受け取ってしまうとか……」

「……そう言えば」


 期待に満ちた目で、パーちゃんは僕を視る。


「……ラノベの挿絵の質が、感情移入の度合いで変わ――」

「うん、そうだね。

 た、例えば、“勘違い”とか……ゆ、ユウリは、ぼくらのことを……“敵”だとみなしてなかったんじゃないの……?」

「……敵なのか?」

「えっ」


 数秒間、静まり返る。


「え、えひ……だ、だって……水切りの時に消えろって……ぼくのことを敵だと思ってたんだよね……?」

「……………………六回も跳ねたから」


 ぽかぽか、肩を殴られる。ちょっと、痛い。


「ぼ、ぼくは、円卓の血族の一員、パーシヴァル……! 土中芋虫サンドワームの凶暴化も……る、ルポールに天空城を落とそうとしたのも……ぐ、グレイ・エウラシアンを仲間に引き入れたのも……ぼ、ぼくらの仕業なんだよ……!?」


 え、アレって、全部、レイアさんの思い描いたシナリオじゃなかったの!? コミュ障矯正プログラムの一環では!?


 だとしたら……僕は……


「……僕は」


 あまりの緊張に冷や汗を流し、重苦しい声を喉から絞り出した。


「……モテてるのか?」

「そ、そこ……じゅ、重要かな……?」


 最重要(断言)。


 もし、今までのアレらが、レイアさんの仕組んだシナリオではなく、劇団員なんて存在せず、誰も彼もが演技なんてしていないとしたら。


 僕は、かなり、格好いいことしちゃってたのではないか? コレは間違いない!! モテ期の到来!!


「……フッ」

「く、口の端、歪めてるところ申し訳ないんだけど……い、今のユウリは、昔のユウリとは違うから……モテてないと思――」


 倒れ伏した僕の胸元に、パーちゃんがそっと耳をつける。


「し、死んでる……」


 生きてるよ。もう、立ち上がる気しないけども。


「い、今まで、ユウリがしてきた、有り得ないような勘違いは……神託の巫女(アーミラ)が、ユウリの認識を意図的に曲解させたものなんだと思う……き、きみを使って、面白おかしく語ってたんだよ……」


 うーん、納得。この世界には魔法があるから、傷や怪我は直ぐに治せるだなんて思ってたけど、あそこまでの殺し合いが日常茶飯事とは言えないもんなぁ。皆、必死で戦ってる中、タオルぶん回したり全裸だったりして申し訳なくなってきた。


「あ、あの言い分からすると……神託の巫女(アーミラ)は、まだユウリの人生に関わってくるつもりだと思う……か、彼女にとって、きみの物語は完結してないんだよ……だ、だから、どうにかして、彼女の興味を逸らさなきゃ……」

「……フッ」


 余裕めいた笑みに驚いたのか、パーちゃんは眉根を寄せた。


「……至極簡単ベリーイージー


 好かれるのは苦手だが、嫌われるのは大得意――そう、コミュ障だから!!

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